第二十五章 いい話?
菅谷さんが話し始めた。
「実は僕、家で鉄道車両を所有してて・・・」
(え!?マジかぁ)
家で車両を持ってるなんて、社長令嬢の真美くらいだと思ってた。白木城家みたいなとこって、意外とあるのかも。
「どうされましたか?放心状態ですけど。」
テーブルの向こうで、菅谷さんが心配そうにこっちを見ている。
(はっ、いけないいけない。ついつい考え込んでしまった。)
「いえ、何でもないので、ダイジョブです。どうぞ、続きを。」
「で、今度、家が建て替えられることになりまして、車両がじゃまになるので解体することになってしまったんです。」
「それはショックですね。」
菅谷さんは、顔を上げて、わたしの目を見つめた。
「でも僕は、あいつらを解体させたくないんです。大和さん、おねがいです。僕の車両を、引き取ってくださいませんか?」
急にそんなこと言われても・・・・・車両のスペックとかが合わないと受け入れることはできないし、そのスペックさえも聞いてない。
「元黒部峡谷鉄道のハ形客車とその他諸々なんですけど、どうですか?」
黒部峡谷鉄道は、富山県の宇奈月から欅平までを結ぶ鉄道会社だ。最近では珍しくなったニブロク(2フィート6インチ=762ミリ)の軽便ゲージ、全列車機関車列車で、鉄道ファンの間でも人気だ。ハ形客車は、その中で一番古い車両だ。
(黒部かぁ。同じニブロクだから大丈夫かな。連結器高さもダイジョブそうだし)
「すいません、今すぐには答えられないんです。」
「そうですか・・・・」
菅谷さんの表情が曇る。
わたしは慌てて言葉を継いだ。
「でっ、でもっ、できるだけいい返事ができるようには頑張るから、うちでダメな場合はほかのとこにも声かけてみるし。」
菅谷さんの顔が、少し明るくなる。
「そうですか。では、よろしくお願いします。」
「あくまでまだ引き受けると決まったわけではないので。」
一応のため、念押ししておく。
「あと、一応の連絡のため、LINE交換しときましょうか。」
ポケットからスマホを出す。
友だち追加の部分をタッチ、さらに、アイコンをタッチして、QRコードを出す。
菅谷さんのスマホで、それを読み込んだ。軽い電子音がして、「新しい友だち」の欄に、「智治@F5ファンクラブ」というアイコンが出てきた。
「もしかして、『F5』のファン?」
菅谷さんがうなずく。
「F5」は、最近話題のアイドルグループだ。ライブの時の写真がインスタグラとかツイッターで拡散され、アイドルファンの間で「神ってる!」と大ブームを巻き起こしてる。
ファンは、ごまんといるだろう。その中のそれぞれに「推しメン」と呼ばれる好きで特に応援しているメンバーがいるらしい。
「ちなみに推しメンは?」
「やっぱり、森川さくらちゃんですよ!あのかわいさは、だれにも負けません。」
森川さくらちゃんは、F5の最初期からの主要メンバーだ。普段の立ち位置では、センター。演技もうまくて、声優や役者としても活躍中。最近、ハリウッドで俳優として成功するため、アメリカに渡った。
「アメリカに行っても、さくらちゃんはさくらちゃんですからね。僕はずっと応援しますよ。」
菅谷さんが、すごい饒舌になってくる。ちょっと、引く。
「それじゃ、また」
菅谷さんと別れて、ブースに戻る。腕時計を見ると、もうすでに一時間くらいたっていた。
「大和、いくら彼氏が好きだからって、長すぎだよ。」
「違うから。」
真美の余計な声はシャットアウト!!仕事に集中。
でも、集中っていっても、ふっと菅谷さんの顔が頭に浮かんでしまう。F5のことを語るときの笑顔、考え込んでいる顔、どれもかっこいい・・・・・・って、何考えてんだ?わたし!!
わたしは頭をプルプルと振って、頭の中の菅谷さんを追い出す。でも、すぐに戻ってきてしまう。
(菅谷さんに、会いたいな・・・・)
このきもちって、なんなんだろう?
大和「大和と!」
真美「真美と~!」
栞奈「栞奈の」
三人『鉄道ラジオ~!』
―この番組は、株式会社ゼロファイター・ジャパン、株式会社アースフォレスト、白木城運送株式会社、野口自工、國分電機店の提供、日本保存鉄道連盟、沼尻鉄道保存会、猪苗代町の提供でお送りします。
真美「さあ本日も始まりました鉄道ラジオ!メインパーソナリティーの白木城真美です!」
大和「同じく、國分大和です!」
栞奈「同じく、木地小屋栞奈。本日も」
三人『よろしくお願いしまーす!』
真美「今回は、王滝森林鉄道編第四回!」
栞奈「結構長いこと滞在してるわね。」
大和「そう言えば、真美とカンカンって好きな人いるの?」
真美「わたしは翔悟一択!翔悟以外なんて考えられない!翔悟~、聞いてる?将来結婚しようね~!」
栞奈「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」(赤面)
真美「あれあれ~?」
大和「もしかして・・・・・・・・」
栞奈「・・・・・・・・・・」(黙って二人に背を向ける)
真美「これはいるヤツですね。」
大和「カンカンの顔真っ赤。頭から湯気が出そう。」
栞奈「ぷしゅ~」(顔から湯気を出して崩れ落ちる。)
真美「え!?カンカンどうしたの!」
大和「ヤバい!カンカンがオーバーヒートしちゃった!」
真美「と、いうわけで今回はここまで!皆さん、また次回お会いしましょう!」