第二十三章 王滝村の夜
王滝村の夜は、早足にやってくる。
日が暮れた後の村は、ところどころに街灯がぽつんと心もとない光を放っているだけで、あとは闇に包まれる。
「こんばんは~」
晩ご飯を食べるため、村内唯一の食事処「王滝食堂」に入った。
「イノブタ丼お願いします」
さくらさんが注文する。
今日は、ここの名物「イノブタ丼定食」だ。
イノブタっていうのは、イノシシと豚を掛け合わせたヤツ。イノシシって聞くと、臭みがあって食べづらいイメージがあるかもしれないけど、イノブタは違う。
たっぷりのごはんの上には、イノブタの肉と野菜のうま煮が乗っている。肉はあっさりとクセがなく、やわらかい。具のバランスもいため具合も味付けも完璧だ。
「おいしい!こんなの初めて。」
となりでは、真美がどんぶりを抱え込むようにしてイノブタ丼を食べている。
「ちょっと真美、人前なんだからもうちょっと静かに・・・」
カンカンが言ってるけど、真美は聞いてない。
確かに、こんなおいしいものを食べてるんだからその気持ちはわからなくもない。
「で、線路が完成したら、コッペルと363号を移すんだな。」
翔悟がイノブタの肉をかみながら言う。わたしは一瞬、野良犬を連想した。
「そう。路線の全体像はこんな感じ。」
真美があらかじめCADを使って書いてきた図面を出した。
路線は遊園地によくあるようなエンドレスじゃなくて、ちゃんと往復運転ができる線形になっている。
路線の両端には、それぞれ「記念館前」と「入口」の二つの駅があり、真ん中のあたりには、二列車運転に対応した信号場がある。
それぞれの駅には、機関車の方向転換用の設備「ターンテーブル」が装備されている。
「ところで・・・・」
カンカンが口をはさむ。
「ターンテーブルって書いてあるけど、そんなのわたしたち持ってないよね?」
「だいじょうぶ。ちゃんと発注しといたから。」
真美がうきうきした声で言う。
「桁が入るピットも作ってるし。」
「どこまで進んでるの?」
「鉄板を裁断して、機械加工をするとこまで発注したから、もう少しで来るかな。最終的な組み立てはこっちでやるけどね。」
わたしも口をはさむ。
「組み立てって、どんなことやるの?」
真美が答えた。
「え~とね~、鉄板を溶接とリベットを使って形を作って、筋交いもつけるのかな。あと、稼動用の車輪も、最終的な旋盤加工はこっちでやるね。」
町の鉄工所が工場を貸してくれるから大丈夫・・・・・・・・らしい。
『ごちそうさまでした~!!』
王滝食堂を出て、しばらく歩くと、宿の中の自分の部屋についた。
翔悟は別の部屋だから、途中で別れる。
「・・・・・・・・・・・」
真美が無言で枕を持った。
「・・・・・・・・・・・」
わたしとカンカンも枕を持つ。
つぎの瞬間、わたしたちはお互いに枕を投げつけ合っていた。
大和「大和と!」
真美「真美と~!」
栞奈「栞奈の」
三人『鉄道ラジオ~!』
―この番組は、株式会社ゼロファイター・ジャパン、株式会社アースフォレスト、白木城運送、野口自工、國分電機店の提供、沼尻鉄道保存会、日本保存鉄道連盟、猪苗代町の協賛でお送りします。
真美「さあ今回も始まりました鉄道ラジオ!」
大和「今回も王滝村村役場の放送室ををお借りしてお送りいたします。」
真美「そういえばさ~、もうこの物語も二十三章に突入したんだよね~。」
大和「と、いうことは、わたしたちの鉄道ラジオも二十三回目か~」
栞奈「なかなか早いわね。」
真美「この後どんな展開になってくのか全然わからないよ~」
大和「作者さん、打ち切りだけはやめてください。」
栞奈「打ち切りにしたら、みんなで殴り込みに行くわよ。」
真美「わたしと翔悟の恋の行方も分からないし、今後白木城運送の出番があるのかもわからないし。」
大和「わたしとかカンカンだって恋はしたいよ。彼氏ほしい~」
栞奈「そんなこと言ってるうちにオンエア時間すぎるわよ。編集さんに迷惑かけないようにしなさい。」
大和・真美『はーい』
真美「そろそろお別れの時間となってしまいました。それでは皆さん」
三人『また次回、お会いしましょう~!!』
栞奈「結局鉄道のこと話してなくない?」(フェードアウト)