第二十二章 りんてつの村その一
わたしたちを乗せた白木城運送のミニバスは、市町村境を越えて、長野県王滝村に入った。
松原スポーツ公園の駐車場に止まる。
ゴールデンウィーク以来、久々の王滝村だ。
ポーーー!
コッペルと363号も、汽笛を鳴らして歓迎している。
車から降りて、トランクルームに積んでいた商品を降ろす。
九月十三日、つぎの日は、「森林鉄道フェスティバル」の日だ。
かつての森林鉄道の車両の復活運転や、グッズ販売が行われる。
わたしたち「沼尻鉄道保存会」もブースを出展させてもらうことになった。さらには、「特別ゲスト」として、コッペルが走行する機会まで用意していただいた。
「ほんとに感謝だね」
「ねー」
「さっさと仕事しなさい!」
わたしと真美が話しながら歩いていると、案の定カンカンからの一撃。
『はーい!』
最初は、雨をしのぐためのテントを建てる。鉄骨を組み合わせて、屋根布をかける。
「ど~けよ~、ど~け~よ~、轢~くぞ~」
翔悟が歌いながら資材を運んでくる・・・・・って、その曲は名鉄のパノラマホーンじゃん!
テントを組み立て終わったら、物販品の陳列台を設置した。だけど、まだ品物はならべない。
明日になってからならべないと汚れちゃうからね。
ブースの準備が終わったところで、終了の声をかけた。
「あとは自由時間でーす。」
わたしが声をかけると、みんな思い思いの方向に散っていった。
わたしは、コッペルの様子見ついでに、りんてつ倶楽部さんの準備作業を見学する。
りんてつ倶楽部の皆さんは、車両と軌道の最終点検をしていた。
「出発進行!発車!」
「発車ぁ!」
声がしたほうを見ると、武さんとさくらさんが操るコッペルが加速するのが見えた。
武さんとさくらさんも、最近仲がいい。
シューーーーーーーーッ キィィィィィン!
コッペルが一往復して、車庫に戻ってきた。
「おつかれさまです。どうですか?」
明日のデモストレーション走行は、武さんとさくらさんが運転、南美さんが解説を行うんだって。
「上々ってとこだな。」
武さんの声。
ガラガラガラガラ・・・・・
コッペルと入れ替わりに、りんてつ倶楽部のディーゼル機関車132号機がエンジン音を響かせて本線に出ていった。
後ろには、運材台車と呼ばれる原木を運ぶための貨車を二組連結している。
荷台に原木を積んだトラックが運材台車に横付けされた。「上松営林署」と書いてある。
「毎回、営林署から原木を借りて、運材列車の再現をしてるんですよ。」
いつのまにか、りんてつ俱楽部の高橋さんが横に立っていた。
グォォォォォォォォォ! ガシャン
クレーンでつり上げられた原木が運材台車の上に乗せられて、鎖で固定された。
編成ごと留置線に入る。
プァーン!
84号ディーゼル機関車が本線に出て、試運転を始めた。黄色と濃い茶色で塗り分けられた車体の前後に「林道」と書かれたサボをかけている。
「おい!ブレーキの利きがちょこっと弱いから調整してくれな!」
異常が見つかると、即座に修理される。
何往復かして84号が戻ってくると、入れ替わりに14号モーターカーが本線に出ようとした。
黄緑色と茶色に塗り分けられ、うしろがトラックの荷台みたいになってるモーターカーだ。
「あれ、おかしいな?」
運転台に乗り込み、エンジン始動のキーを回した「りんてつ倶楽部」会員の高木さんが首をひねった。
「どうした?」
同じ会員の坂田さんが近づく。
「エンジンがかからんのよ。」
「どれどれ。」
(こういう時に、しっかり勉強しとかなくちゃ・・・)
坂田さんといっしょに、わたしも14号のエンジンをのぞき込む。
「エンジン本体は、異常なしだな・・・・・おい、もう一度エンジンかけてくれ。」
高木さんがもう一度、キーをひねる。
エンジンは、うんともすんとも言わない。
「セルが回ってない、バッテリーが切れとるな。」
坂田さんはそう言うと、駐車場から自分の車をもってきて、14号機のバッテリーと車のバッテリーの間にブースターケーブルをつないだ。
「これでいいだろう。もう一度やってみてくれ。」
高木さんがもう一度キーをひねった。
ブルルルン、ガラガラガラガラ・・・・・
ようやくエンジンが始動して、みんなホッとした表情。
時計の針が七時を回るころ、わたしたちは、今日の宿に向かった。
真美「真美と~!!」
大和「大和と!」
栞奈「栞奈の」
三人『鉄道ラジオ~!』
―この番組は、株式会社ゼロファイター・ジャパン、株式会社アースフォレスト、白木城運送株式会社、有限会社野口自工、國分電機店の提供。沼尻鉄道保存会、猪苗代町、日本保存鉄道連盟の協賛でお送りします。
大和「さあ今回も始まりました鉄道ラジオ!」
真美「今回は、長野県王滝村村役場の放送室をお借りしてお送りいたします!」
栞奈「ここまでやるとは想定外ね。」
真美「さて、今回は、長野県の誇る木曾森林鉄道について語ろうと思います!」
大和「木曽のほかにも遠山とかいるけどね。」
栞奈「軽便沼にハマると名前はよく聞くようになるわね」
真美「木曽森林鉄道は、中央西線上松駅を起点とした森林鉄道です。」
大和「主な目的は木曽谷で伐採されるヒノキの原木を国鉄と接続する上松の土場まで運ぶこと。上松~赤沢間の小川線と上松~王滝の王滝線を中心に、一時期、五十五もの路線を保有していたんだよね。」
栞奈「と、いうことは、貨物専用の鉄道ってこと?」
真美「ところが、そうでもないんだな~」
真美、栞奈に一枚の写真を見せる。そこには、真赤なディーゼル機関車に引かれたスカイブルーとクリーム色のツートンカラーの客車
栞奈「旅客輸送もしてたの?」
真美「これは、『やまばと号』って言って、山奥の集落に住む子供たちをふもとの学校まで送迎するための列車だよ。これは、王滝線だね。」
大和「ほかにも、登山客を運ぶために『みやま号』とかの旅客列車も運転されていたみたい。ただし、正式な旅客用鉄道じゃないから乗車は自己責任で、命の補償はしなかったらしいね。客車は、作業員さん用のものを使ったんだよ。」
真美「ちなみに、復活してるところはわたしたちが滞在してる王滝村のりんてつ倶楽部さんと、赤沢の『赤沢自然休養林』さんだね。ほかにも、静態保存車は全国各地にいるよ。」
栞奈「へぇ~」
大和「特に、赤沢自然休養林さんで静態保存されているボールドウィン製一号蒸気機関車は一見の価値あり!撮らずに死ねるか!って感じ。」
真美「今度いつか見に行きたいね。」
真美・大和『ね~!』
栞奈「二人がこんな感じなので、わたしが締めます。リスナーの皆さん、本日もありがとうございました。また次回、お会いしましょう!!」
一時間後・・・・・・・・・・
真美「あれ?カンカンは?」
大和「ほんとだ、どこ行ったんだろう?」
おいて行かれたことに気づかない二人であった(笑)