第二十一章 活動宣伝in郡山鉄道フェスティバル!
夏休みも、定期テストも終わった10月13日、夜。
わたしは、自分の部屋の棚から、プラ製の工具箱を取り出した。
中から、Nゲージ鉄道模型の車両を出して、悩む。
「やっぱ新しく買ったトミックスのC11325は外せないよね。牽かせるのは、一緒に買ったトミックスの50系客車(真岡鐵道仕様)と旧型客車(高崎車両センター仕様)にしよう。高崎の旧客出すんなら、D51の498とC6120も持ってこう。あと、カトーの500系エヴァンゲリオン新幹線も持ってこうかな~?あ~、どうしよ~。迷う~。」
結局、全部決めたのは、夜十一時になってからだった。
つぎの日、十月十四日。
朝早く起きたわたしは、ユメカガミの世話をおじいちゃんに任せると、猪苗代駅に向かった。
猪苗代の駅前には、真美が待っていた。
秋用の黒いPコートに、ジーンズ、コートの下には、黒いタートルネックTシャツを着ている。
「おっはよ~!」
真美は今日も朝からハイテンション!!
六時二十三分、やって来た磐越西線普通、郡山行き1222Mに乗り込む。
駅を出た列車は、川桁、関都、上戸、沼上信号場、中山宿に停車して、早朝の中山峠を下っていく。
「ねぇ、大和。」
真美がリュックサックをひざに置いて言った。
「これから行く『鉄道フェスティバル』って、何やるの?」
「えーとねー、Nゲージの運転会やったり、みんなで持ち寄った鉄道写真を展示したりするよ。」
「へぇー。なんか楽しそう!」
磐梯熱海、安子ヶ島、喜久田、郡山富田に停車して、七時十分、県中央部の経済都市、郡山に到着した。
駅前では、JR主催のイベントが開かれていて、駅前広場に敷かれたレールの上を、ミニSLが走ってる。
ミニSLを真美といっしょに撮って、運転している郡山総合車両センターの職員さんにあいさつして、駅前にあるビル「ビッグアイ」に入る。
エレベーターで二十二階まで上って、「展示ゾーン入場券」を買った。
係員さんに券をみせて、展示ゾーンに入場する。
二十階まで階段で降りて、その中の部屋に入った。
部屋の中では、何人かの男の人が自分のNゲージ車両を出していた。
「椎根さん、おはようございます!」
「おう、大和。来たか。」
カーキ色のジャンパーを着た白髪のおじさんが顔を上げる。
それにつられて、ほかの人も顔を上げた。
この人は椎根さんだ。下の名前や職業、住所などはだれも知らない。
この辺で臨時列車やイベント列車があるところには大体いて、ここら辺の鉄道ファンの総元締めみたいな感じになってる。
まわりにいるのは、椎根さんをしたっている人たちだ。わたしと同じくらいの歳の人もいる。
「ところで、となりいるのは誰?」
準備がひと段落した厚海春君がきいてくる。
春君はわたしと同い年で、今日はTシャツにジャージというかなりラフな格好だ。はっきり言って彼氏にはしたくない。
「みなさん、紹介します。わたしの鉄道ファン仲間の、白木城真美です。」
「よろしくお願いします。」
真美を紹介すると、男性陣がちょっとざわっとした。
「めっちゃきれい。」
「かわいい。」
それは、わたしと真美の二人に対してのものと受け取っていいよ・・・ね。
持ち込み運転の整理券をもらって、車両を用意した。
わたしは、トミックスのC11325と50系客車。
真美は、カトーのD51(初期型、東北仕様)と同じメーカーのD51(標準型、東北仕様)の重連に、十八両の貨車を合わせた。
ほかにも、カトーの500系エヴァンゲリオン新幹線とか、アルナインのとても簡単なCタンクを走らせたりした。
お昼頃。
スマホの画面を見ていた春君がカメラバッグを持って、どっかに行こうとした。
その後ろえりを捕まえる、
「どこ行く気?」
「ちょっと、トイレにね。」
「トイレ行くのに、どうしてカメラバッグがいるの?」
「うっ」
春君は言葉を失う。観念したか。
「『四季島』が来るんだよ。」
「え!?『四季島』が?」
「四季島」は、JR東日本の超豪華寝台列車だ。
直線と曲線が織りなす近未来的な車体は、格調高い金色と黒に塗り分けられ、その前面には、たてに並んだヘッドライトが輝いている。
車内は、贅を尽くした内装で、全部の部屋が個室寝台だ、編成の両端の先頭車両には、展望スペースもある。
鉄道ファンなら、一度は乗ってみたい、撮ってみたい列車だ。
みんなも準備を始める。
そして、それぞれの撮影スポットに散っていった。
わたしと真美は、郡山駅の2番ホーム、その福島方面に陣取った。
自分のカメラバッグを開けた。
おじいちゃんからもらったアルミ製の大きな、いかにもがんじょうそうなものだ。
中から自分の愛機「キャノン・イオス・キッスX50」を取り出す。
ワインレッド色のカメラの本体に、タムロン製のズームレンズ「タムロン・X12・DIu」を取り付けた。
レンズを伸ばして、磐越西線がカーブしてきて、東北本線に寄り添うあたりを狙った。
真美も自分のカメラ「富士フィルム・X―T20」を取り出して、ズームレンズを取り付けた。
一昔前のフィルムカメラみたいなレトロな外見で、国鉄大好きの真美が好きそうなものだ。
まわりに、ほかの鉄道ファンがどんどん来る。
「鉄子だ。しかも撮り鉄。」
「珍しいな。」
「しかも二人ともかわいい、アイドルでも通じるんじゃないか?」
そんな人たちに、保存会のチラシを配って、アピールする。SNSでも広めてもらうようにも言った。
通過時刻が近づいた。
カメラの電源を入れて、各部の動作を確認する。
オートフォーカス、よし。露出、大丈夫。光線状態、順光。
到着時刻になった。
ファーン!
警笛が聞こえる。
あれは、郡山駅北側の鉄橋に進入する合図だ。
ダダン、ダダン・・・・・・・・
ジョイント音が近づいてくる。
縦に並んだヘッドライトが見えた。
シャッターを押す。
パシャ、パシャ・・・・・・!
カメラが「四季島」の姿を切り取っていく。
金色の車体が反対側の一番線ホームに滑り込む。
金色の車体には、三角形の窓が組合わせられるように並び、その窓から車内の乗客がこっちを見ている。
カメラを下して、二人で手を振った。
お客さんが、手を振り返してくれる。
ホームに停車して、乗務員交代が終わったら、すぐに発車した。
その後ろ姿に向かってシャッターを切り、手を振る。
「よしっ。」
真美がつぶやいて、カメラをしまった。
わたしも、カメラからレンズを取り外して、バッグの中にしまう。
ビッグアイに戻ると、次の台の整理券の配布が始まっていた。
整理券を受け取って、ほかの人たちのところに向かう。
車両が入ってるスーツケースの中から、カトーの五十周年記念商品のC50と31系客車を取り出した。
線路にリレーラーを置いて、機関車を上に置く。
そっと手で、車両を線路上に押し出した。
機関車、客車の順で、線路に乗せる。
全部乗せ終えると、運転台型コントローラーのスイッチを入れた。
ブレーキを緩めて、マスコンを入れる。
シャーーーーー・・・・・・・・・・
スルスルとC50が動き出した。
となりでは、郡山に住んでる鉄道ファンの日向慧さんが、車両を準備している。
「うわっ、すご・・・」
真美がおどろきの表情を浮かべる。
日向さんは、カトーのD51498を出して、その後ろに、鉄道博物館来館記念コンテナ貨車をコンテナの色違いで二両、トミックスワールドオリジナルコンテナ貨車をこれまた色違いで二両、宇都宮線開業130周年記念コンテナ貨車、大宮駅開業130周年記念コンテナ貨車を連結した。
ここまでそろえられる人はなかなかいない。
「相変わらず、すごいですね。」
「毎年、大宮行ってるからな。」
日向さんは・・・・・・静かだ。
「どうやってこんなに集めてるんですか?」
「大宮に毎年行ってるから、そこで買ってる。」
「『てっぱく』ですか?」
てっぱくというのは、埼玉県の大宮にある「鉄道博物館」のことだ。鉄道ファンじゃなくても楽しめるから、ぜひ行ってみてね。
「あそこは楽しーぞー。行くたびに何か違うことやってる。」
というのは日向さんの言葉だ。
機関車を走らせ終わると、ほかの展示に移動した。
もう一つの部屋には、プラレールで遊べるコーナーのほかに、様々なものが展示されているコーナーもある。
だいたいが国鉄時代のものだ。
「あ、これ、打音検査用のハンマーだ!!こっちには投炭用スコップもある!!これは、機関士の腕章だ!すごーい!!」
国鉄大好きな真美のテンションが高くなったのがわかる。
「国鉄で機関士をやってた人が貸してくれてるらしいよ。」
ほかにも、郡山機関区の区名札とか、たくさんのサボ、0系新幹線のライトがある。
その一番はしに、直径一メートルくらいの丸いものが置かれて、圧倒的な存在感を放っている。
「これって、0系の光り前頭だよね?やっぱりすごいよ。」
国鉄大好きの真美は大喜び!!
ほかにも、22階の展望ロビーでは、JR貨物の物品販売もやっていた。
わたしは、仙台臨港鉄道の「津波被災レール文鎮」を真美は、「EF6627号機色鉛筆」を二つ買う。
「翔悟とおそろいにするんだ♪」
真美が言ってる。いいよね・・・・リア充は。
わたしはジトッとした目で真美を見る。
「鉄道フェスティバル」は、3日連続で開催される。
「明日も来ようね。」
「うん。」
わたしたちは、車両を片付けると、椎根さんたちにあいさつして、展示ゾーンを出た。
磐越西線会津若松行き普通1235M列車に乗り込む。
十八時十八分、郡山を発車した列車は郡山富田、喜久田、安子ヶ島、磐梯熱海、中山宿、上古、関都、川桁の順に停車して、十九時一分、猪苗代についた。
駅前には、裏磐梯高原行きのバスが止まっている。
真美は、終点の裏磐梯高原駅までバスに乗って、そこからは親の車で帰るんだって。
わたしは、真美が乗ったバスを見送ると、駅前の街に向かって歩き出した。
駅前の商店街、その一角に、わたしのお父さんとおじいちゃんがやってるお店「國分電機店」がある。
「ただいまー。」
表の戸を開けて、中に入った。
中では、お父さんがお客さんと話してて、おじいちゃんは、店の売り物のテレビを見ている。
「おかえり。ユメなら、裏にいるぞ。」
おじいちゃんがわたしに言う。
「ありがと。仕事がんばってね。」
お礼を言って、裏口をくぐる。
お店の裏は、駐車場になっていて、お父さんの車が止めてある。その荷台のドアを開けて、車両が入ったスーツケースを中に入れた。
駐車場の一角は、ユメカガミの柵があって、今日の朝、おじいちゃんが乗ってきたユメがいる。
今日は、ユメを借りて帰ることにしていた。
ユメの背中に鞍を置いて、口にハミをかませる。
そのまま鐙に足をかける。
「えいっ!」
一気に鞍の上に這い上がると、反対側の鐙にも足を入れた。
「ハイッ!」
足でユメの腹を締めると、ユメはゆっくりと歩き出した。
家に帰って、ご飯を食べたあと、つぎの日の準備をして、床に入った。
そして、一気に眠りに落ちた。
つぎの日も、真美といっしょに鉄道フェスティバルに行った。
ついでに、集まった鉄道ファンの方々に保存会のPR活動もしてきた。
その後、わたしたちの活動がネット上で話題になって、寄付金や、手伝いに来てくれる人が多くなったのは言うまでもないよね。
大和「大和と!」
真美「真美と~!」
栞奈「栞奈の」
三人『鉄道ラジオ~!』
―この番組は、株式会社ゼロファイター・ジャパン、アースフォレスト、白木城運送、野口自工、國分電機店の提供、猪苗代町、沼尻鉄道保存会、日本保存鉄道連盟の協賛でお送りします。
大和「さあ今回も始まりました鉄道ラジオ!」
真美「今回は、毎年十月に福島県郡山市で開催される鉄道フェスティバルにお邪魔させていただきました。」
栞奈「わたしは行かなくてもよかったけどね。」
大和「実際に行ってないじゃん。」
真美「今度は翔悟と行きたいね。」
大和・栞奈(リア充どもめ!)
ここで作者登場
作者「ようこそ、わが郡山へ」
栞奈「なんでここにいるんですか、作者さん。」
作者「郡山は僕の住んでるところでもあるからね。郡山のどことは言わないけど。」
大和「そういえば、郡山は『鉄道の街』って聞いたんですけど、本当ですか?」
作者「本当だよ。東北本線と磐越東、西線、水郡線が交わる郡山は、昔から郡山機関区(現在の郡山総合車両センター郡山派出)とか国鉄郡山工場(現在の郡山総合車両センター)が置かれて、それを中心に町が広がっていったんだ。明治に入る前までは、奥州街道のちょっとした宿場があったくらいで、隣の三春とか二本松、白河のほうがにぎわってたんだよ。それぞれ三春、二本松、白河各藩の城下町だったしね。」
三人『へえ~!』
作者「そして、中通り各市町村がバトッた結果、岩越鉄道線(のちの磐越西線)の始発駅は郡山になったんだ。そして、そこから郡山の発展が始まったんだよ。」
真美「そして今では、中通りの経済の中心。ですもんね!」
栞奈(ラジカセのスイッチを入れる。)
♪明けゆく安積野希望の汽笛 あの人この町みなぎる力 ああ奮い立つ故郷は 憧れ乗せる若駒か 進めよ我らの郡山
作者「カンカン・・・・・・・・一体どこから『郡山市民の歌』の音源なんか用意したんだ?それはさておき、この歌詞にも『希望の汽笛』というワードが出てくるように、郡山の発展は鉄道なくしてあり得なかったんだ。」
大和「それと、猪苗代湖から郡山盆地に水を引く『安積疎水』もですね。」
作者「よく知ってるね。その通り、安積疎水のおかげで、これまで不毛の地だった郡山で稲作ができるようになったんだ。機会があったら見に行ってみるといいよ。」
真美「それでは、今回はここまで!皆さん」
三人+作者『また次回、お会いしましょう~!!』