第二十章 レール敷設します!
夏休みの最中、七月二十日、猪苗代町から、「公園の敷地の整地が完成したので、軌道を敷設してよい。」との知らせが来た。
で、つぎの日から、さっそく敷設することにした。
でも、あいにく白木城運送のトラックはみんな出払ってる。そこで、わたしたちは作戦を練った、さくらさんの特技を生かしてもらわないとね・・・。
七月二十一日・・・・・・・・・・・・・・
カポッ、カポッ
ガシャン、ガシャン!
公園の予定地に続く山道に、馬の足音と金具がぶつかり合う音が響く。
一台の荷車が坂道を登っていく。それを引いているのは、一頭の連銭葦毛の馬だ。その手綱は、さくらさんの手に握られてる。
「さくらさん、馬なんて扱えたんですね。意外です」
「でしょ?」
この馬は、さくらさんの愛馬、日本挽系種のシフォン。
さくらさんの家は馬産農家で、さくらさんの特技は、馬の調教らしい。
荷台には、レールが山積みにされて、その上に翔悟とカンカンが座ってる。
わたしは、ユメに乗って、前を行き、誘導と周りの車の確認。
「ハイ!ハイー!もう少しだから、頑張って!」
真美は、荷車のさらに後ろで自分の愛馬である木曽馬の雪姫を掛け声で励ましながらその手綱を引いている。
みんな、作業服姿か動きやすいTシャツにジャージの長ズボンという格好だ。
雪姫の牽いているリヤカーには、「ナガセ木材店」で作ってもらった枕木が段積みになってる。
となりの農家のおじちゃんに軽トラを出してもらって、バラストも運ぶことができた。
これを一日中くりかえして、職員用駐車場の予定地まで資材を運びこむ。
二十二日日、敷設作業が始まった。
まず、あらかじめ決めておいたルートに、杭で印をつけた。
つぎに、枕木を置いて、その上にレールを置いて、犬釘を打って固定していく。
簡単に書いちゃったけど、これがかなりの重労働なの。
レールは、一本当たり5メートルの長さがあって、重さは75kgある。
「安全運行を支える重みだ。これくらいないと安全運行はできない。」
武さんがさっき言ってた。
それを五人がかりでかついで、運ぶ。
猪苗代町の職員さんもまじって、夕暮れ時まで作業が続いた。
結果、起点の「記念館前」駅構内と、機関庫や客留線、貨留線、工場兼クラブハウス予定地に続く車両基地エリアのレール敷設が完了。あとはバラストを入れるだけ。
二十三日・・・・・・・・・
今日はレール敷設班とバラスト班の二班に分かれて作業をする。わたしはバラスト班だ。
ピーッ!ピーッ!ピーッ!
トラックに積まれた三両の貨車が公園内に搬入された。
「オーライ!オーライ!」
クレーンで吊り上げられ、すでにバラスト散布が終わった駅ホーム予定地のレールに降ろされる。
さらに、トレーラーに積まれたユンボもやって来た。ユンボというのは、パワーショベルのこと。
線路のわきに、30トンも買ってしまったバラストが山になっている。
「これだけあれば十分だね。」
「そうね。何とかなると思うわ」
バラストの山を見て、真美とカンカンが話すのを横目に見ながらユンボと貨車を移動させた。
「よいしょっと・・・・・・・・・」
ユンボの運転台に南美さんが乗り込んだ。
グォォォォォォォォォ
ユンボを操縦して貨車にバラストを積み込む。
積み込みが終わると、みんなが貨車の妻面に手を突っ張った。
「じゃあ、行くよー!せーのっ!」
ガッタン、ガッタン
みんなで貨車を押して、散布場所まで移動させる。
「ストーップッ!この辺で止めて!」
散布場所につくと、貨車の上からスコップでバラストを線路に落とす。
ドサッ、ドサドサッ!
重力が味方してくれてるから、少しはやりやすい。
散布が終わったら、バラストを突き固める作業だ。
「うっ、重っ・・・・・・・・・・・・・」
真美が思わず声を上げる。
発電機のプラグにコンセントを差し込むと、タイタンパーのスイッチを入れた。
ガガガガガガガガガガガガガガガガ!
振動がもろに腕にくる。
これ、明日は筋肉痛になるパターンじゃん!
「ファイト―!!」
『いっぱーっつ!!』
突然の大声にレール敷設班のほうを見てみると、翔悟をはじめとする男子軍ががんばっている。
男子って、ほんとこういうのよくやるよね。
太陽が一番高く昇ったら、お昼休みだ。
「ぐへ~。疲れた~。」
武さんと、新しく入った翼さん、猪苗代町の職員さんが汗だくで入ってくる。
「なんで翔悟君は平気なんだよ。」
武さんがバケモノを見るような目で翔悟を見る。
翔悟は汗こそかいてるものの、ケロッとしてる。
そう、わたしたち吹奏楽部は、走り込み、腹筋、背筋、ロングトーンなどによって、「体育会系文化部」とよばれるくらい、鍛えられるのだ。
こんなの、へでもない。
「あの・・・武さん、ちょっとこっちに来てくれませんか?」
武さんの服をちょっとひっぱって、さくらさんが言った。
さくらさんにしては珍しく、小声で。
「ん?なんか用?」
武さんがさくらさんのあとについいく。
しばらくして、かわいいバンダナで包まれたお弁当箱をもって帰ってきた。心なしか顔が赤い。
「武さん、さくらさんになんて―」
ききかけたカンカンの袖をわたしと真美がひっぱった。目で感情を送る。
(今はそっとしといてあげよ。)
わたしと真美の目つきから、カンカンも分かったみたいで、こくりとうなずいた。
遥香さんは、食べ終わると、スケッチブックを出して、さらさらと何かを描き始めた。
「なに描いてんですか?」
後ろからのぞき込む。
「ちょっと機関庫のデザイン案をね~。」
遥香さんは、絵が得意なんだそうで、機関庫とクラブハウスのデザインを全部任されてる。(丸投げともいう。)
設計、施工は、遥香さんのツテで、郡山北工業高校建築科が「実習」ということでやってくれるそうだ・・・・・ 材料はこっっちが用意するという条件付きで。
今日一日作業して、保存運転線約3㎞のうち、0,5㎞が完成した。
来年の春までには敷設、駅舎、機関庫、工場の建設が終わって、試運転に移らなければいけない。
わたしと真美の鉄道ファンネットワークで、全国各地から手伝いの人も来てくれてるし、ダイジョブかな。
線路敷設作業開始から一か月後、郡山北工業高校建築科から設計図のコピーと、プランが送られてきた。
だから、ここでちょっと紹介します!!
まず、機関庫は、難燃化木材の木造平屋建てで、すべての機関車が収納できるようになっている。
床はコンクリートを打ったたもので、線路の下には、点検用のピットが設けられている。
機留1~6番線まであるうち、2番線はクラブハウス兼部品工場につながっている。
クラブハウス兼部品工場は、3分の1が、車両を入れることができる留置線が1線あって、旋盤、ボール盤、フライス盤、研削盤も置かれた工場。
残り3分の2が寝泊まりもできるクラブハウスになっている。
クラブハウス部分は、2畳ほどの玄関、そこにはみんなのロッカーがある。
さらに、10畳くらいのリビングダイニング、3畳くらいの台所、5畳ほどの宿泊室、宿泊室には二段ベッドが2個、4人が泊まれるようになっている。
トイレやお風呂もあって、ここで暮らせそうな感じもする。
このクラブハウス兼部品工場も難燃化木材の木造平屋建て。
だんだん、完成像が見えてきたし、がんばんないとね!!
本日の鉄道ラジオは、もろもろの都合によりお休みです。誠に申し訳ございません。