第十八章 試運転(363号)
わたし―國分大和は、宿舎に荷物を置くと、ナッパ服に着替えて留置線に向かった。
留置線には、すでに全工程が終了したコッペル6号と、さっきトレーラーから降ろされた363号が待っていた。
コッペルの煙突からはうっすらと煙がたなびいている。
ポーーーーッ!ボッ、ボッ、ボッ・・・・・・・・・・
武さんとおじいちゃんが乗り込み、コッペルが動き出す。
363号機を留置線から引き出して、別の留置線に入れた。
そのまま火入れの準備が始まる。
「栓あけるよー!」
「りょうかーい!」
ジャーー、ゴポゴポゴポゴポ・・・・・・
さくらさんと南美さんがなれた手つきでタンクとボイラーに水を入れた。
「四束目・・・・・・・・これで全部ですね。」
「おう、そうだ。」
武さんとおじいちゃんが薪の束を運んでくる。
その様子を横目に、わたしたちはウェスをもってしゃがみこんだ。
「まずはここ・・・・・・・ッと。」
スパナを使ってロッドにある油壷の栓を抜くと、給油器のノズルの先を中に入れて、潤滑油を注ぎ込んだ。
次に、機関車の足回りを磨いて、防錆油を塗りこむ。
カンカン、カン!
最後に、おじいちゃんが打音検査をして、点検終了。
いつの間にか、さくらさんと南美さんが火を入れておいたらしく、363号の煙突から煙が立ち上る。
火が入ってまず最初にやるのは、「吹き試し」という作業だ。
シリンダーわきの空気弁を吹き試し専用のものに取り換える。
「OKで~す!」
わたしが合図を出すと、さくらさんが叫んだ。
「吹き試し始めまーす!機関車前部付近の方は退避してください!」
わたしたちが一メートル以上離れたことを確認すると、さくらさんは思いっきり加減弁を開けた。
ゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ・・・・・・・・・!!
空気弁に取り付けられた気吹き管から蒸気が噴き出す。
「キャァッ!」
隣にいた真美が思わず耳をふさぐほどの爆音があたり一帯に響いた。
このすさまじい量の蒸気で、加熱管やシリンダー内にたまったごみを一気に吹き飛ばす。
さくらさんが加減弁を閉め、蒸気が収まったときには、真美は腰を抜かしてわたしの横で地面にしりもちをつき、翔悟は放心状態で363号を見つめていた。
気吹き管が外され、元の空気弁が取り付けられる。
ピォーーーーーーッ!
さくらさんと南美さんが乗り込んで、試運転がスタートした。
ボッ、ボッ、ボッ・・・・・・・・・・
「ねえ、あれ、遅くねえか?」
「まずは大事をとって低速での試運転から始めるの。」
「へぇー」
わたしの横にいる翔悟が言って、それにわたしが答えた。
ボボボボボボボボボボボ・・・・・・・・・
各部がなじんでくると、だんだんスピードを上げていく。
最後に、おじいちゃんと南美さんが交代した。いっきに加速する。
ブシュァーーーーーーーー! ギーーーーーー!!
非常ブレーキがかかり、急停車した。
おじいちゃんが下りてきて、金尺を片手にブレーキシューの減りを確認する。
「合格だな。」
おじいちゃんが言った。
「出場表記、書いといてもらっていいか?」
「うん。いいよ。」
工具箱から筆と白い塗料を取り出し、白枠の中に「H29-5沼鉄」と書き込む。。
コッペルと363号は、来年の春まで預かってもらい、毎年秋に開催される「森林鉄道フェスティバル」にも参加させてもらう。
「りんてつ倶楽部」さん、お世話になります。
今回の鉄道ラジオは、パーソナリティーが長野県に出張しているため、お休みです。
誠に申し訳ございません