第十三章 眠れる機関車たち
次の日の福島報友新聞の県内のニュースの欄に、こんな記事が載った。
『猪苗代町が新しい自然公園を整備
猪苗代町は、あらたに自然公園を整備することを発表した。
町が発表したことによると、広大な敷地内に池を中心として、自然科学館や鉱山記念館を建設し、遊覧鉄道も敷設する。それぞれの施設の運営は民間団体に委託する。
施設と運営団体は次の通り。
里山暮らし自然館:(株)アースフォレスト
乗馬トレッキングクラブ磐梯:猪苗代馬友会
沼尻鉱山記念館:沼尻鉱山記念財団
日本硫黄沼尻鉄道:沼尻鉄道保存会
など。』
うわー!ついに新聞に載っちゃったよ!これってすごくない!?
その日の夕方のテレビ番組『ゴジてれchu!』のニュース欄でも大々的に取り上げられた。
あとで真美から聞いた話によると、保存会の本部がある白木城運送には、一日中、鉄道ファンからの問い合わせの電話がひっきりなしにかかってきてたいへんだったらしい。
Facebookへのコメントもグッと増えた。
次の日の1月3日、メンバー全員に《白木城運送に集合せよ。》というメールが真美から送られてきた。
カンカンと翔悟といっしょに白木城運送に行くと、メンバー全員がそろって、テーブルの上においてある紙を見ていた。
「こんにちはー。なんですか、これ?」
南美さんが黙ってその紙を指さす。読めって意味だと思う。
さくらさんが説明してくれた。
「昨日、書類整理をしてたらねー、これが出てきたの。ほら、ここを見て。『輸送品目:鉄道車両、輸送量:5両』って書いてあるでしょ。」
武さんが話を引き継いだ。
「ここの『輸送経路』って書いてある欄を見てみるとな、ちょうど沼尻から出てるんだよ。どう考えても沼尻鉄道の車両としか思えないだろ。」
「たしかに。」
武さんはさらに続ける。
「で、この車両の持ち主と思われる人に連絡を取った。」
「どうやって?」
カンカンの質問に、南美さんが答える。
「ここ、見て。発注者の名前と住所が書いてあるでしょ。」
「田母神・・・茂。福島県郡山市阿久津町字ハノキ・・・・・。」
真美が澄んだ声で読み上げる。
「この住所を電話番号検索にかけて、連絡を取った。ご本人はお亡くなりになられていたが、その息子に当たる方がまだご存命だった。その方にきいたところ、『車両たちがもう一度役に立つのであれば、よろこんで皆様に差し上げましょう。』と言っていた。」
武さんが説明した、それをさくらさんが引き継ぐ。
「この、田母神さんという方は、裏磐梯周辺に、かなりの土地を持ってるの。その中のどこかに車両はあるはずだっていうの。」
「もうすでに場所は特定した。5月ごろまでには、譲渡関連の手続きも終えて、搬出できるだろう。」
武さんが言った。
仕事はやっ!!さすが運送会社の社員。
「俺たちも駆動関連の整備やったよー。」
翔悟が必死にアピールする。
「あんたは黙ってなさい。」
すかさず真美におさえられる。
「わたしたちも、緑の村の車両たちを整備して、足回りが稼働する状態にまでしました。で、搬出はいつになるんですか?」
真美が話した。
「そのことはもうすでに考えてある。」
武さんがそう言って、一枚の書類を取り出した。車両搬出の計画らしい。
その中の図で書いてある部分を指で示しながら、武さんは説明を始めた。
「まず、車両の周辺には、立木が多くて、クレーンやトレーラーは入れない。だから、下にある駐車場にトレーラーとクレーンを止めて、クレーンで釣っておろすしかない。だが、車両たちのちょうど真下には、旧翁島駅舎を利用したそば屋『駅舎亭』があって、このままおろすと建物を壊してしまう。また、車両の上には屋根が掛けてあって、外すのには手間がかかる。」
「そこで。」
南美さんが言葉を継いだ。
「H鋼を置いた土台の上に仮設線路を引くの。車両たちは全部、足回りは稼働状態になったんでしょ?だから、ほかの力を加えて走らせることもできるわけ。だから、それぞれの連結を解いて、その仮説線路上に引っぱり出すの。そしたらクレーンで釣って、下に止めてあるトレーラーにおろすの。」
「町には、許可をもらっている。みんなも、これでいいかな?」
『はい!!』
わたしたちとしても、異存はない。
「じゃあ、日程のほうは、町のほうと相談して、後日知らせる。」
武さんがしめくくって、今日は解散になった。
武さんたちは、ほんとに仕事が早かった。
次の日にはみんなにLINEで日程が送られてきた。
その2日後の1月5日の福島民報には、沼尻鉄道の車両に関するこんな記事が載った。
『沼尻鉄道の車両に別れ
猪苗代町にある「猪苗代緑の村」に保存されていた車両が、復活のために搬出されることになった。
猪苗代町の発表によると、この車両たちは、かつて町内を走っていた「沼尻鉄道」で使用されていたもの。鉄道廃止後は、町内の個人が保存していたが10年前に町に寄贈されたという。
搬出後は、町内の工場で沼尻鉄道OBを中心としたボランティアグループにより整備され、今度新たに町が整備する自然公園内で遊覧鉄道として使用される予定。
町は、車両周辺に「思い出ノート」を置いた。
保存会の國分大和さん(13)は「保存状態はいい。もう一度走れるようにしてやりたい。」と笑顔で語った。なお、搬出は今年の4月10日に行われる予定。一般の方の見学も可能。
問い合わせは猪苗代町観光課まで』
このあと、保存会のFacebookへのコメントがドカンと増えた。
《とうとう復活が決まったのですね、とても嬉しいです。》
《復活したら会いに行きます。》
こんなコメントがいっぱい書き込まれていた。
こんなにも反響があるとは思っていなかったから、みんなすごいビックリしていた。
そして、わたしたちをさらにビックリさせるようなできごとが起きた。
「二本松市から、『機関車を譲る。』と言われた。」
1月10日の定例集会で、武さんがいきなり言った。
『へ?』
みんな、ポカンとした顔をしている。
武さんは一枚の紙を机の上に置いた。
「この前の新聞記事を見たらしい。これが二本松市のほうから出された条件だ。」
「蒸気機関車1両と客車3両、電源車1両、レール1.8㎞分、トラス鉄橋1本、踏切設備4組分、蒸気機関車関連の設備を無償で譲る。ただし送料は当方で持つこと。」
カンカンが読み上げた。
「結構いい条件だと思うんだが、どうだ?」
武さんがみんなにきいてくる。
「はーい!!質問!」
真美がいきおいよく手を上げる。
「なんでこんないい条件で譲ってくれるんですか?」
「二本松市は、現在この機関車たちを走らせてない。このままでは、固定資産税がかさんで赤字になってしまうそうだ。だから、できる限り早く処分しちゃいたいらしい。ほかにも、猪苗代町には、駅舎を売ろうとしてる。それに、輸送費は含まれてないからな。」
武さんが答えた。
「一ついいですか?」
今度は翔悟が質問する。
「それはつまり、レール撤去とかもおれたちでやるってことですよね。みんな、初心者なんですけど。」
「それは心配ない。知り合いの保線会社に手伝いを頼んである。それはそれとして、みんなはこのことについてどう思うか?踏切設備や機関庫は猪苗代町が買い取ってくれるそうだ。だから、おれたちが負担するのはレールと車両の分、約200万円になる。」
真美がパソコンから保存会のホームページにアクセスした。
「今のところ、寄付は100万円ほど集まっています。ボイラー新製費用と車両購入費用は何とかなります。」
「じゃあ、みんなにきく。この車両受け入れに賛成の者は手を挙げて。」
武さんがきく。みんなの手が挙がった。
「じゃあ、全員一致で、賛成。ということで、このことは相手側にも伝えておきます。」
そこで、今回は解散になった。
なんかだんだん車両が増えてってる。留置線増やさないとね。
大和「大和とぉ!」
真美「真美とぉ!」
栞奈「栞奈の・・・・・」
三人『鉄道ラジオ~~~!!』
―この番組は、國分電機店、白木城運送、野口自工、株式会社ゼロファイター・ジャパン、猪苗代町、株式会社アースフォレストの提供、沼尻鉄道保存会、日本保存鉄道連盟の協賛でお送りいたします。
大和「皆さん、こんにちは!メインパーソナリティーの國分大和です!」
真美「保存会一の美貌を誇る。同じく白木城真美で~す!」
栞奈「二人の暴走を止める係、同じく木地小屋栞奈です。」
大和「そう言えば、今回は作者さんがいないね。」
栞奈「作者は広島県柱島沖で水死寸前の状態で見つかり、自宅療養中の模様。ちなみに、発見時簀巻きにされてたらしい。」
大和「なんかやばい感じしない?」
真美「事件の香りがする。」
実態は、出番が遅いことに腹を立てた他シリーズの登場人物に簀巻きにされて海に叩き込まれただけ。
栞奈「そんなこんなで、今日のお題はズバリ『転車台』です!」
大和「だんだんこの番組もマニアックになってきたね。」
真美「鉄道初心者の方のために説明しておきますと、転車台とは、蒸気機関車などの運転台の向きが制限された車両を起終点において前後を入れ替えるための道具です。」
大和「大規模な駅には必ずと言っていいほど設置されてました。」
真美「やっぱりさ、わたしが思うに転車台はさ、あると旅情を演出してくれるよね。だから保存運転戦にも組み込もうと思ってたんだけど。」
栞奈「組み込む理由それ!?」
大和「すごくわかる。その気持ち。」
栞奈「でも、あると便利だよね。」
大和「ポイントの量減るしね。」
真美「わたしはさぁ、扇形庫と転車台の組み合わせが好き!京都鉄道博物館とか最強!」
大和「いったことあるの?」
真美「もっちろん!全国各地の扇形庫と転車台は全コンプリートしてるよ!あの時のSLが目の前で回転した時の感動は忘れられない!感動のあまり泣いちゃったもん!」
栞奈「周りから変なものを見るような目で見られなかった?」
大和「わたしはさ、天竜浜名湖鉄道の天竜二俣運転区の木造扇形庫と転車台の組み合わせがいい!まさに地方の機関区っていう風情がある。」
真美「カンカンは?」
栞奈「・・・・・・・・・別に、鉄道とか好きじゃないし・・・・・・・・」
大和「カンカンが鉄道ファンなのはわかってるんだからね。ほら、証拠写真」
大和、栞奈の部屋にある鉄道の専門書がぎっしりと詰まった本棚の写真を出す。
栞奈「あんたら!いっ、いつの間にそんなものを!?」
真美「あと、毎週土曜朝放送のシンカリ〇ンを喜んでみていたとの証言も・・・・・・・・・」
栞奈「いやぁぁぁぁぁぁぁ!やめて!ハヤト君、アキタ君!ツラヌキ君、助けてぇ!」
大和「カンカンのクールなイメージがだんだんオタクっぽく染まってく。」
真美「自分が鉄道ファンだってことを認めなさい。そうすれば楽になるよ。」
白木城真美ドS疑惑浮上。
栞奈「わかったわよ!わたしは鉄道ファンで、好きな扇形庫は会津若松運輸区のです!」
木地小屋栞奈鉄オタ確定。
大和「会津若松運輸区とは、地元愛が強いカンカンらしいね~」
真美「あとさ、転車台だけで言うなら大井川鉄道の千頭駅とか、若桜鉄道の若桜駅とか、只見線の只見駅と会津川口駅とかの手押し式の転車台もいいよね~」
栞奈「あとさ、わたしがおすすめなのは、小樽の鉄道記念館にあるやつなの!尺取虫ッてうあだ名の装置で動くんだけど!なんとそれの動力源が圧縮空気なのよ空気!それとね!併設されている扇形庫もこれまたエレガントなレンガ造りで、そこに動態保存SLのアイアン・ホース号が入る光景がいいの!『はぁっ~、生きる糧~』って感じなの!もうハァハァしちゃうの!」
大和「カンカンのオタクモード発動っ!?」
真美「じゃあさ、カンカン。好きな車両は?」
栞奈「それはやっぱりE721系でしょ!あのクールな顔つきがたまらないんだよね!わかる?わかるよね!」
栞奈、ハアハアしながら大和の方をつかんで揺さぶる。
真美「こんな感じなので、今回はこれで終わりにしたいと思います。皆さん、また次回お会いしましょう!」