第十二章 新年の一日
年が明けた1月1日、わたしはメンバー全員に集合をかけた。場所は猪苗代町にある土津神社。会津藩祖保科正之を祀っている神社だ。
ちょうどお正月ということもあって、境内は人でごった返している。
その人垣をかき分けて、見覚えのある黒いコートとその下に来ているこれまた黒いタートルネックTシャツ、黒いスキニージーンズとブーツを身にまとった女子が現れた。
「大和、あけおめー!」
「あけましておめでとう、真美。」
やっぱり真美だった。
「大和。あけましておめでとう。今年もよろしく。」
カンカンはいつもの通り、クールな顔つきで。
「おっす!みんな、あけましておめでとう!」
翔悟はいつもの通り明るくやってきた。
「じゃあ、行こっか。」
みんなで一斉に鳥居の前でお辞儀、境内に入る。
しばらく並んで、社殿の前にたどり着いた。藩祖を祀っている割には、結構質素な社殿だ。
チャリーン
みんなで一斉にお賽銭を投げて、まずは二回お辞儀。
ぱん!ぱん!
二階柏手を打った後、そのまま目を閉じてお願いごとをする。
(719系が残りますように!!719系が残りますように!!719系が残りますように!!7《以下略》)
願い終わって目を開けると、真美と翔悟はもうすでに祈り終わって、カンカンだけが目を閉じていた。
めちゃくちゃ真剣な顔して、食いしばった歯の間からぎりぎりという音が聞こえてくる。
(いったい何をお願いしてる!?)
「よしっ!」
カンカンは目を開けると。そっとつぶやいた。
「これだけお願いしておけば、大丈夫」
そういって、チラッとこっちを見る。その目じりに、キラッとしたものが光ったような気がした。そして、彼女のきれいな瞳に、物悲しい色が移っているような気がした。
「カンカ・・・・・・」
「みんな!お御籤ひこー!」
わたしが声をかけようとした瞬間、真美がそれを遮るように声を上げる。もちろん、故意にではないけど。
「うん、そうだね。行こうか。」
カンカンが返した。その顔は、完全にいつものカンカンだ。
「・・・・・・」
わたしは結局、話しかける機会を失った。
「やった!大吉だ!」
真美が手にお御籤の紙をもってはしゃぐ。
「俺は中吉だな。」
翔悟はそう言いながら、お御籤に同封されていた天然の宝石をお財布の中に入れた。
「わたしだって・・・・・・・」
そういいながら私は、たくさんあるお御籤の箱を見た。
「よしっ、これにしよう」
恋御籤の箱に百円を入れて、手を突っ込む。
「えいっ、これでどうだ。」
ガサガサやって取り出したお神籤を開いてみると・・・・・・
「凶 何をやってもうまくいかない。特に恋愛においては恋愛大殺界中。読書などをして知識を深めると良い方向に向かう。」
そのお神籤を、神社の榊の枝に結び付ける。
(よし、明日本屋さんに行って、本を買ってこよう。)
お神籤を結びながら、ひそかに決意するわたしだった。
神社を出たわたしたちは、それぞれの移動手段・・・・・・わたしは愛馬ユメカガミ、ほかのみんなは自転車、にまたがると、緑の村に向かった。
とりあえず、新年初のお掃除をするつもりだ。
車両の掃除に移った。
真美と翔悟は二人で客車の中を掃除している。
・・・・・・あの二人、最近なんか仲がいいんだよね。
わたしとカンカンは、機械油にひたした布で機関車の下回りを磨く。
「ところでさ、真美と翔悟って仲いいよね。」
わたしがきく。カンカンから返ってきた言葉は、意外なものだった。
「あの二人、つきあってんだよ。知らなかったの?」
え~~~!!!真美と翔悟って、つきあってたの!?
(ビックリの二乗=ビックリ×ビックリ!)
まぁ、美女とイケメンで、お似合いのような気もするけれど。
「この前、コクってんの見ちゃったんだ。」
カンカンはそう言って、ウフフッって笑った。
みんなの作業が終わったら、機関車の前に集まった。
DC121の前面、ラジエーターグリルの保護棒に、持ってきたしめ縄を飾る。そして、機関車の前にみんなで一列に並んだ。
「今年もよろしくお願いします!」
『よろしくお願いします!』
みんなでいっしょに頭を下げた。
「これからどうするー?」
わたしがきくと、みんなそれぞれの反応が返ってきた。
「スキーしたいけど、板持ってきてないしねー。」
これは真美。
(新年早々スキーをするやつはいないと思う。)
「猪苗代湖で泳ごうにも、水着持ってきてないしなー。」
これは翔悟。
(このクソ寒い時期に、だれがそんなことするか!)
「雪の中を走るのって、楽しいよ!!」
カンカンも言う。
(それは、陸部のあんただけが言えるんだと思う。)
もうっ、みんなちょっとづつずれてる。
ここはわたしがすっごくいい案を出さないと。
「やっぱりさ、SLの修理でもしよっか。」
これが一番!!
「うん、いいよ。部品作ってなかったし。」
「翔悟がそうするなら、わたしもそうする~。」
翔悟と真美が言った。
ホントだ。こいつら絶対リア充だ。
カンカンは黙ってうなずくだけ。
「じゃ、これで決まりね。と、いうわけで、野口自工に集合!いったん解散!!」
真美と翔悟が手をつないで出てく。わたしとカンカンは、ジトっとした目でそれを見送った。
―いいよね、リア充は。
野口自工に着いた。工場の電気がついている。
「大和、カンカン、翔悟が部品作るんだって。見物しよー。」
工場の中から、真美の声がした。
『はーい、今行くー。』
二人そろって返事して、わたしたちは、工場の中に入った。
おれ―野口翔悟は、女子3人の視線を背中に感じながら、作業を始めた。
靴を安全靴に履き替える。帽子をかぶり、保護眼鏡をかけた。
工作物の鉄丸棒はもうすでにチャックに固定してあって、心出しも済んでいる。
旋盤のわきの定盤に置いておいた製作図を眺める。
真美が昨日、メールで送ってきたものだ。
《蒸気機関車の弁装置の部品だから製作図通りに作ること!!》とも書いてある。
「外周を10ミリきさいで、100ミリねじを切る・・・。」
刃物台に置いてあるバイトという刃物の中から、外径切削用のバイトをとる。
旋盤にバイトを固定し、調整用のダイヤルに手を近づけた。
コン、コンコン・・・
ドアをノックするようにたたいて、数値を合わせる。
そして、スイッチを入れた。
キュイィィィィーーーン
工作物が回転する。
バイトの先が工作物に触れ、うねるようにキリコが出てくる。ざらっとした表面が削れて、その下に隠れていた光沢が姿をあらわす。
ブレーキを踏んで、工作物の回転を止めると、バイトをネジきりバイトに交換、送り量変換レバーを調整する。
もう一度工作物を回転させて、バイトを近づける。
光沢のある無垢材の表面に、ネジ溝が浮かび上がってきた。これを何回も繰り返す。
・・・・・・・おれには母親と父親の記憶があまりない。
両親はおれが5歳のころに、借金がかさんで夜逃げした。
当時東京に住んでいたおれは、親がいなくて、大泣きしたことを覚えている。
しばらく泣いていたら、大家さんが来た。
大家さんは、テーブルの上に置いてあった紙を見て、携帯を出すと、どっかに電話した。
一週間後、おれは猪苗代のじいちゃんのもとに引き取られた。
旋盤の使い方は、じいちゃんが教えてくれた。
・・・・・・それ以来、旋盤を扱うことは、俺の日常の一部になった。そして・・・・・
(・・・・・・・おれにとってじいちゃんは、親みたいなもんなんだ・・・・・)
出来上がった部品を、機関車に合わせる。ピッタリと合わさった。
(よっしゃぁ)
おれは心の中でほほ笑んだ。
わたし―國分大和は、家に帰って、食事、入浴を済ませて、部屋に戻ると、パソコンを起動させて、沼尻鉄道保存会のホームページにアクセスした。
脇にあるバナーの中の《保存会Facebook 随時更新中!!》と書かれたバナーをクリック。
出てきたFacebookの画面の中の《更新する》と書かれたところをクリックする。
キーボードに指を置くと、いっきに、今日の活動内容を打ち込み始めた。
《【明けましておめでとうございます】
こんにちは!沼尻鉄道保存会です!
本日、緑の村の保存車に、しめ飾りを取り付けてまいりました。
今年も安全運行で活動してまいりますので、よろしくお願いいたします。》
「これをこうしてっと・・・・・・・・・・」
活動風景の写真も添付する。
そして、アップした。その時。
ピコン♪
机の上に置いといたスマホから、LINEの着信音が聞こえてきた。
スマホを手に取って、画面をタッチして、LINEのアプリを起動させる。
画面には、みんなの会話が表示されている。
《真美:ビックニュース!!!!》
《翔悟:なんだ?》
《栞奈:早く教えて~。》
《真美:なんと、緑の村の保存車両の復活整備の依頼が、正式にわたしたちのもとに来ました~!!》
《翔悟:マジか!!》
《栞奈:すごーい!》
わたしもメッセージを打ち込んだ。
《大和:すごいじゃん!!どうしたの?》
メッセージはすぐに既読になって、真美からの返信が来る。
《真美:猪苗代町が、今度、山のほうに自然公園を作ることになったの。その目玉施設の一つが、沼尻鉄道の車両を使った遊覧鉄道なんだけど、その運営がわたしたちに任せられたの。》
《翔悟:すっげーーー!》
《栞奈:やったね!》
みんなからのメッセージが画面に表示される。
わたしもメッセージを送った。
《大和:これでもう、大丈夫だね。もう遅いし、そろそろお開きにしない?》
みんなのメッセージが出てくる。
《翔悟:たしかにもう眠いわー。おやすみー。》
わたしもLINEを終了すると、自分のベッドにもぐりこんだ。
真美「真美とぉ!」
栞奈「栞奈と」
大和「大和のぉ!」
二人「鉄道ラジオ~!!」
作者「七日町もいるよ!」
―この番組は、白木城運送、野口自工、國分電機店、猪苗代町、沼尻鉄道保存会、株式会社ゼロファイター・ジャパンの提供で、お送りいたします―
大和「さあ今回も始まりました鉄道ラジオ!メインパーソナリティーの國分大和です!」
真美「同じく、白木城真美です」
栞奈「この二人の暴走を止めれるのはわたしだけ、同じく木地小屋栞奈です。」
真美「ん?なんか聞こえたような気がするけど、気のせいだね。それはさておき・・・・・・」
真美、作者をにらむ。
真美「よくもわたしと翔悟だけの愛の秘密を暴露してくれたわねーーーーー!」
作者「ひぃぃぃぃぃぃ!白木城さんご乱心っ!ごめんなさいごめんなさい!」
真美「謝ってすむなら警察も鉄道公安隊もいらないの!それに、この更新の遅さは何!?ちょっと来なさい!」
真美、作者をスタジオ外に引っ張っていく。しばらくして・・・・・・・
作者「ぎゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
大和「作者さん、大丈夫かな?助けに行こうか?」
栞奈「大丈夫、あの作者は生命力だけはゴキブリ並みにあるから。学力と英語力は壊滅的だけどね。」
ガチャ(真美が帰ってきた。)
真美「作者さんにはしばらく黙っててもらうとして、今回は、各地から寄せられた質問に答えていきたいと思います。」
栞奈「まずは、福島県にお住いの奥谷みやびさん、十七歳からです。」
大和「『今回は皆さんに相談したいことがあります。』」
真美「ほぉ、十七歳というと、高校生ですね。」
大和「『実はわたしも飛行機の保存活動をしているのですが、なかなか身が入りません。そこでお聞きしたいのですが、皆さんは保存活動に対しての想いとか、心にずっと持っているものはありますか?』」
栞奈「うーん、想いねぇ。わたしは特にそういうの考えてないな。」
大和「わたしもないな~。ただ楽しいだけで。」
真美「楽しければさ、それでいいと思うよ。わたしはさ。だから、みやびさんも活動をもっと楽しんでみれば、自然と活動に身が入ってくると思いますよ!」
大和「そろそろ、お別れの時間が近づいてまいりました。」
真美「それでは皆さん」
三人「また次回、お会いしましょう~~~!!」