第十章 ボイラーの件について
大阪のサッパボイラから検査結果が来たのは、一週間後だった。
みんなが集まった時に見てみた。意味を要約するとこんな感じ。
《今回承りました3つのボイラーを調べさせていただきましたところ、6号と363号のものにつきましては、日頃の保存状態が良かったのか、特に問題はなく、使用できるものと思われます。
しかし、芭石鉄道1号機につきましては、ボイラー自体が粗悪品らしく、たとえ整備しても、日本では使用認可が下りないと思われます。実際、水圧検査を行ったところ、あまりにも多くの破断箇所が見つかりました。私どもから見ても、悪いことは言いません。このボイラーは使用しないほうがよいです。》
「・・・・・・・・・・」
微妙な沈黙がみんなの間に流れる。
「悪いことは言いません。使わないほうがいいです・・・かぁ」
翔悟が言った。
「新しく作るとなると?」
これはカンカン。
「億はくだらないだろうねぇ」
これはわたし。
「それに・・・」
大人メンバーの井川さくらさんが言った。
「車両があるのはいいものの、レールも、土地もないよね」
「全部にかかる金額は・・・かなりのものになるねぇ」
大人メンバーの吉川美南さんが計算した。
「とりあえず、ボイラーの件は保留。資金の件は、なんとかする。ということで、今回は解散だな」
大人メンバーの飯野武さんが言って、今回は解散になった。
もうすっかり暗くなった帰り道、足取りが重い。
(億はくだらない・・・かぁ)
そんな大金、とても無理。
家について、自分の部屋のベッドに倒れこむ。
(やっぱあきらめたほうがいいのかなぁ)
気晴らしにラジオでも聞こう。
ラジオの電源を入れると、スピーカーから若い女の人の声があふれ出てきた。
《♪その目は死んでいる・・・・》
(あ、この歌知ってる。)
最近人気のアイドルグループ『欅坂46』の『サイレントマジョリティー』だ。歌はさらに続いて、サビの部分に入った。
《君は君らしく生きてく自由があるんだ大人たちに支配されるな 初めからそうあきらめてしまったら僕らは何のために生まれたのか? 夢を見ることは時には孤独にもなるよ・・・》
その歌詞にハッとした。
(初めからそうあきらめてしまったら 何のために生まれたのか? 夢を見ることは時には孤独にもなる・・・)
その部分の歌詞が頭の中をぐるぐる回っている。
(そうだ、まだ終わったわけじゃない。なんか方法があるはずだよ。わたしはただ、逃げてるだけじゃん)
わたしは意を決すると、真美の携帯に電話をかけた。
数回のコール音のあと、電話がつながる。
《もしもし、大和、なんかあった?》
電話から聞こえる真美の声。
「あ、もしもし、ちょっと真美に頼みごとがあるんだけど・・・・・」
そしてわたしは、真美にあることを頼んだ。
《わかった。やってみる》
真美からの電話が切れた。
わたし―白木城真美は、大和からの電話を切ると、自分のパソコンに向き直った。
パソコンの画面には、黒っぽいCADの画面が表示されている。
そこに描かれているのは、蒸気機関車のボイラーだ。
「ふぅ」
一つ息をついて、データを保存すると、CADを閉じる。
「一応、一人でもやるつもりでいたからね・・・・」
パソコンに、画面を呼び起こして、キーボードをたたき、マウスを操作する。
それが終わると、自分のスマホをとって、電話を掛けた。相手は、台湾にある図書館。
「・・・・你好,我叫白木城真美。关于铁道部门用的蒸汽机车的设计图想拜访,不过・・・・・・・(すいません、わたしは白木城真美と言います。軽便用機関車の設計図についてお伺いしたいのですが・・・)」
しばらくのやり取りののち、受話器から相手の声が聞こえてきた。
了解したという返事、やった。交渉成功。
同じような電話をベルギーの車両メーカー、アングロ・フランシスコ・ベルジ、ドイツの車両メーカー、コッペルにも送って、両方とも承諾を得た。
わたしはスマホを置くと、ベッドに倒れこみ、そのまま眠った。
大和「大和とぉ!」
真美「真美の~!」
大和・真美『鉄道ラジオ~!』
―この番組は、白木城運送、野口自工、國分電器店、猪苗代町、沼尻鉄道保存会、ゼロファイター・ジャパンの提供でお送りします―
大和「こんにちは!メインパーソナリティーの國分大和です!」
真美「同じく、白木城真美で~す!」
大和「本日は、リスナーの皆さんから寄せられたお手紙にお答えしたいと思います。」
真美「福島県の御先さんからの質問です。『ボイラーを作るのには、何円かかるんですか?』」
大和「詳しく教えることはできませんが、億単位のお金がかかることは間違いありません。」
真美「現在、沼尻鉄道保存会では、ボイラー新製費用のご支援を受け付けております。皆さんのご協力を」
大和・真美『お待ちしております』
大和「それでは、今日はこの辺で失礼します。それでは皆さん」
大和・真美『また次回、お会いしましょう~!』