生き残った人の義務
「あっちだ!女の声!あっちから聞こえた!」
「なるべく優しく行こう!リエンチョウがそうおっしゃった!」
「分かりました、小隊長!いこう!女を捕まえろ!」
ぼくはハスタと起きて走る準備をした。しかし、ももりんはハスタの手から手を離れた。
「ももりん!」
「いやよ。姉さんが再参加者なんで。誰も信じられない。どうぜ、そうなるなら、中隊に行くよ。」
「あんた何を言っているの!やつらに捕まえたら女の子は酷い目になるんだよ!」
「どうでもいい!逃げるのはやだ!やだ!やだ!隠すのもやだ!怯えてびびるのもいや。」
恐怖を避けるならその恐怖に降伏すれば終わりになる。
人間は死を恐れるより、死ぬまでの過程を恐れている?
ももりんはその通りに恐怖に食われて恐怖を忘れると考えている。中隊に捕まえたらももりんが言う通り逃げなくてもいいだろう。
ももりんは心を完全に決めたように中隊にこっちの位置を知らせた。
「こっちよ!こっちだよ!」
ももりんの叫びとパイプを叩く声でやつらはこっちの位置を気づいたようだ。もうももりんをここに残して逃げるしか他の方法はないんだ。
しかし、どこまで逃げたらいい?
ぼくはちょっとももりんの気持が理解できる。ゲームが終わるまで、ずっとこのままなら精神が持たない。ぼくがこんな考えをしている間、ハスタはももりんの肩に手を掛けて静かに言った。
「お大事に。」
「え?」
「願わくば、あんたの選択に幸あらん事を。」
え?ハスタ、あんた今なにを言っている?
「姉。なぜ?」
「これはカッタナイフけど、いざという時には役に立つかも知らない。」
「なぜだよ!」
ももりんの顔は涙まみれで、もっと複雑な顔になった。ぼくだってハスタの事を理解できないんだ。
ハスタは彼女の幸運を祈っている。
「ももりん、君も道連れだから、君の選択を尊重する。」
「私は!今、姉を裏切ったよ!」
「いったでしょう。とこにいても君は私の「道連れ」だよ。そして、憎悪して殺すのはもういやよ。そんな物ではこの建物を出る事が不可能よ。な?」
「姉!私!」
「せめて分かれる時には笑顔で。ね?」
ぼくも涙が溢れて前がよく見えなかった。ももりんとハスタは涙まみれて無理やりにお互いを見つめて笑っている。ぼくもももりんに無理やり笑う顔を見せたか、その顔はすぐ鳴き顔に変わった。
「じゃね!」
「ねえ!」
「どんな事があっても、生き残れ!どんな酷い目になっても希望を忘れるな!この建物にここの法則に屈服するなよ!」
その言葉はまるでハスタ、彼女自分に言っているようだ。
この建物に屈服するな。
どんな事があっても生き残れ。
「生き残って「花畑」でまた合おうよ!」
ぼくらはそう言って背いたか、ももりんはぼくを追い掛けていない。ももりんの鳴き声だけが後ろから聞こえた。
ももりんの選択。
彼女は選択をした。それをぼくが責める権利なんかない。ぼくはやっとハスタが「道連れ」にこだわった理由が分かる気がする。いろんな人と出合って分かれて、それでも生き残って前に歩く。前に何があるのか分からないけどぼくらは行ける。
行ける。
行くしかない。
この建物は人生とすごく似ている。
どんな事があっでも生きてなきゃならない。
ハスタは夢中になって道を探してぼくを導いた。もう、中隊の声も何もかも聞こえていないけど、ハスタはぼくの手を握ってパイプのジャングルを走っている。
「ハスタ、もういいよ。中隊の追手はないよ。」
彼女は止まらなかった。
「ハスタ、待ってば。」
彼女は酷い息切れがしても止まっていない。ぼくは彼女の肩を握って彼女を止まらせた。
「どーちゃん。私!」
ハスタはやっと我慢していた涙を滝のように流した。
「私ってなにも出来なかったよ。この建物にまた入って誰も救う事ができなかったよ!誰一人も!」
ずっと我慢していた彼女の感情も堤防が崩れるようにぼくの心に流れ来た。
「約束したよ。あの人と、一人でもいい。一人でも白い羊をこの建物の外へ導いってくれって。黒い羊から救って!」
やはり、彼女の目的はそんな物だったのか。彼女の話からなんかキリストの姿が見えた。あいにくにキリストもこの世に来たのは一人でも多く「羊」を救うためだった。
ぼくとしては考えも出来ない心だ。
一階でも人がどうなるか分からないほど、この建物は狂っているどころだ。アイディ稼ぎのためにまたここに戻るのは、これなりの理解になる。しかし、誰を救うためにこの中に入るのは・・・。
気高い目。
ぼくはなぜか分からないが彼女を抱き締めた。この細い体のどこからそんな意思が出てくるのか?この小さい体格で狂った人ばっかりの空間に入るなんで、ぼくは彼女がもっと可憐に見えた。
彼女の心臓の音がドンドンと感じられる。女の人をたきしめるなんで始めてだけと、ぼくはただ「人間」だけを感じている。
ぼくはまだ生きている。彼女もまだ生きている。今日の朝から酷い事の連続だったけど、どうやらぼくらは生きている。
彼女はぼくの胸の中で静かに嗚咽した。ぼくも彼女と同じに涙を零した。
長との出会い。
中隊の防衛線を越えて戦ったこと。
ぺルの死。
ももりんとの分かれ。
その全てがだった一日に発生した。ハスタはそんな悲しい別れを何度だけ経験したのか?どんな人と出会って何故、またここに戻って来たのか?
あ、彼との約束だと言ったな。
ぼくは「あの人」が心に引っ掛かった。
「あの人は誰?あなたがここへ最初に入った時、一体、何があった?」
ハスタは口を閉じた。彼女が経験した事はぼくが考えても考える事ができないほどの事だったろう。ぼくは何も言わずに彼女の頭を撫でた。しかし、彼女は決心したようにぼくから離れてぼくを真っ正面から見つめた。
「彼は・・・。彼はぼくの代わりに酒呑童子に殺されて食われた人よ。」
「え?それって?」
ぺルの死、ももりんとの分かれとは比べない過酷なことだ。
「以前に、生き残った人は四人。最後の最後に酒呑童子に捕まえて選択を迫られたよ。みんな頑張ったか仕方なかったよ。」
「まさか?」
ぼくの頭にふっとある状況が思い出した。このゲームは人間競走馬ゲームだ。四人だったらみんな全部を助けるのは不可能だ。
つまり、四人の中で一人はしななきゃいけない。
「そうだよ。消防官だった彼は自ら死を選んだよ。彼は言ったよ。」
なんと言う酷い状況だ。仲間だった四人がお互い信じあって苦痛だらけの建物を降りたのに、最後の選択はハスタたちを絶望に詰め込んだ。
誰が生きて、誰が死ねばいいのか?
その状況で「彼」は死を選んだ。
「彼は笑って私をみつめたよ。この建物に屈服するな。胸を張って人間として生きろ。そして、他の羊を救え。罪ない人を救え。それが「生き残った」あんたらの義務。」
彼女の話はついに絶叫に変わった。また中隊のやつらがいるかも知らないのに、彼女の叫びはぼくの心も刺した。
その後の話は聞く必要もない。あの消防官は喜んで殺された。死ぬ瞬間まで「胸を張って人間として生きろ」だと叫ぶ男。
ぼくは真似も出来ない。
今、ぼくは何故、彼が「人間として」だと言ったのか分かる気がする。
ぼくもここでは「人間」として死にたいだから。
多分、ハスタも死んだ男もこの中で人間じゃない「ヒト」を沢山見ただろう。
死んだ消防官はハスタと仲間の中で弱い人を殺せば「三人」に入ってこの建物を出る事が出来ただろう。しかし、彼は人間を信じて喜んで死を選んだ。彼が死を選んだその気持がぼくにも伝えて来た。
この建物に屈服するな!
胸を張って人間として生きろ!
死ぬんじゃなくて生きろ!
あ、ぼくはむしろこの建物の「毒」に中毒されたかも知らない。
逆説的な事じゃね?自ら死を選んだ消防官は仲間に「生きろ」って言った。ぼくはその震える声を聞いて、役に立たなかった言葉の思い出した。
どんな事があっても生きろ。
死ぬためじゃない生きるために、この世に生まれたんじゃないじゃない?
相談センタのセラピストとか先生は気軽くにそんな言葉を口に乗せた。彼らには「死」は遠くにある物で理想とか夢とかと同じく、目に見えないはずだ。
しかし、あの男が残した遺言はぼくの体を揺らした。誰より死と人間の悪を経験した男が残した言葉。その言葉がハスタを通じてぼくに伝えてきた。ぼくは震える喉をやっと落ち着いてハスタに言った。
「ハスタ、敗けるな。この建物の悪意に。ぼくは白い羊じゃなくて人を殺す運命だけど、あんたは敗けるな。」
ぼくも真心を込めて彼女に言った。
ぼくもあの消防官見たいに彼女が白い羊を導いてこの建物に出る姿を見たい。
些細な勝利だけど偉大な勝利。
もちろん、その前にあの酒呑童子をなんとかしなきゃならないけど。
あ、そうだ。中隊長も再参加者だったのか?酒呑童子を排除しなげれば最後の「選択」でハスタように悲劇が待っているだけだ。
みんながあの酒呑童子を越えて、勝利する方法何であるのか?
人の首にお金をかけた方は確実な「けじめ」を望んでいる。勝利した競走馬って20人いたら賭博が成立できない。ここはゆとり世代の「みんなが勝利者」とか億万の光年ほど離れているどころだ。
一着した人間競争馬と二等、三等が必要でそれを決着する必要もある。競馬ってどんな馬にかけたがに寄って貰える賞金がそれぞれ違うから。
あ、ハスタの話によると、酒呑童子って最後の審判の役目をしているようだ。最後の最後にやつの前で立った時、人々はどんな選択をするのか?今までの仲間を裏切って生き残るために仲間の裏で刺すかも知らない。
ぼくだって口だけで偉そうに「屈服するな!」って言っただけど、最後の審判で人間として残るか?なおさら、あの消防官の選択が偉大に見える。
「臭いがある!こっちだ!」
ぼくらが感想に落ち込む時間さえない。中隊の追い手はまたハスタの体臭を感じて叫んだ。
「どーちゃん。あれを出せよ。」
「え?なにを?」
彼女はぼくの答えを待たずにぼくの小便を自分の身に撒き散らした。そして、ほこりを頬と体に塗り付けて自分の臭いを消した。
「私が足を引っ張るのはいやよ。」
「分かった。いこう。」
ぼくたちはまた走った。
そろそろ機械室が終わって,彼女は人の気配がないどころまでぼくを導いた。多分、この道は彼女が以前に行ったどころだろう。
ぼくらは機会室を出てまた始まる迷路に入り込んだ。
「ここを通ったら19層はもうすぐよ。」
「しかし、あんたも聞いただろう。19層にも恐ろしい敵があるだと。なんか知らないのか?」
「よくは分からないけど心当たりは何人いるよ。ゼロ層で長い銃を持った人を見たよ。」
長い銃?銃をよく知らない人達は時々「自動小銃」とかの「ライフル」をそういうんだ。しかし、彼女はこのタテモノで一度、修羅場を経験した人だ。そんな勘違いをするわけがない。




