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竜種少女と静かに暮らしたい  作者: るっぴ
第三章 「時計仕掛けの大司教編」
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19 「肉の罪」

メリークリ…おっと、とっくにハッピーニューイヤーか!

ともあれ、これを見ている君に幸があらん事を

生きてるってそれだけで凄い事なんだぜ!

君も苦痛から開放された時に実感できるさ。

  ――涸れ川のカイ・ミソロギ(30歳童貞竜王、但し無収入)

ゴォーン…


大きな鐘の鳴る音が響き渡る。 しかしここは地下墓地だ。 直接聞こえた音ではない。

地下墓地から繋がっている工場の壁面にあるスピーカーからの音声だ。


俺達は顔を見合わせてから周囲を警戒する。 不審者が潜入した事を知らせる合図だろうか?

あるいはただの定時の鐘だろうか。 ジャック=フェレオルが腕時計を確認する。 特にきりの良い時刻でもないし、時報という事は無さそうだ。

だとすれば、やはり何かの異常事態を知らせる鐘か…?


注意深く工場内の作業員を観察するが、その鐘の音に顔を上げただけで特に慌てた様子も無く作業を続けていた。

非常事態を知らせるものでは無かったようで安心した。 ビビり過ぎか…?


だが、この深夜でも教団が様々な活動を続けているのは確かだ。 気を緩めている暇は無い。

結局手を付けぬままの缶詰を放り出して、俺達3人は先を急ぐ事にした。

ジャック=フェレオルは職業上、缶詰工場をもっと調べたかったようだが休職同然の身の上だ。

それは俺達が大司教を張り倒してから存分にやってくれ。


合計でここまでもう結構な距離を歩いてる。 そろそろ大聖堂への昇り階段があって良いはずだ。

でないと、ザイツブルグの地下が墓地で埋め尽くされてる事になるから。


壁の外側に別の工場が続いているらしく、モーターの唸る音や振動が伝わってくる。

何故こんなに地下にばかり施設を作ったのだろう。 豪雪地帯だからなのか。

いや、人目に触れさせたくない何かがあるに違いない。 技術の独占、秘匿とは別の何かが。

疑念で頭を満たしていると、不意にジャック=フェレオルに肩を叩かれた。


「おい、着いたぞ。 昇り階段がある。」


地下墓地が再びホールのように広がりを見せている場所に出たと思うと、幾つかの別通路へ続くアーチの中の1つに階段が見える。

ようやく辿り着いたか。 後はどこまで部外者だと悟られずに大司教の懐まで近づけるか。


階段を慎重に昇ると、どうやら小さい小屋に出たようだ。 ここにも人は居ない。 窓があり、外はまた吹雪いている。 

その吹雪越しに…これはなんと悪趣味な事か――


ライトアップされた大聖堂がその威容を惜しげもなく振りまいていた。


これがサンクトザイツブルグ大聖堂…全体的にほっそりとした縦に長く尖った塔が本館を取り囲んで構築されたゴシック様式の構造物。

雪が積もり吹雪で撫でられながらも、これでもかと強力にライトアップされ明るく夜空に浮かび上がるその壮大な姿。

俺は美よりも何か醜悪な雰囲気を感じた。 先入観のせいだろうが、これを美しいと表現しようとは思わない。


「俺も初めて大聖堂を目の当たりにするが、こいつは酷いなんでもんじゃないな。」


ジャック=フェレオルも似た感想を抱いたようだ。 クリスマスなんかの祝い事で浮かれてライトアップするなら理解できるが、吹雪の中ですらこれでは尋常じゃない。

アクエリアスは一言も感想を漏らさなかった。 興味が無いのか、語るべき言葉を持たないか…あるいはその両方か。

わざわざ聞いてみる気にもなれない。 


小屋の外にも人影は見当たらず、俺達は吹雪に紛れ大聖堂本館へと容易に辿り着いた。

正面の大扉は半ば開けられていたが、さすがにそこから進入するのは不味いだろう。

監視カメラなどのセキュリティは一見しただけでは見当たらない。 建物の装飾や壁の中に仕込まれていたりするんだろう。

一応、アクエリアスに注意を促して正面アーチから建物の側面へと壁沿いの開放された廊下を歩いていく。

ここまではアクエリアスをローブの懐にしまうように二人羽織状態で歩いて来たが、さすがにもう良いだろう。


建物の側面の廊下は開放されており、壁で仕切られていないので吹雪が差し込み放題だ。 だが床に熱線でも仕込んでいるのか、建物内部からの暖かい空気のせいか磨かれた石の床は雪が積もらず溶けて濡れている。

その廊下の壁面側にはたくさんのアーチ状の入り口があり、ほとんど扉が無かった。 豪雪地帯の建築物としては開放的過ぎるな。

入り口のひとつを選んで入ると、内側から温風が漂ってくる。 なるほど、エア・カーテン状態で冷気を遮断するように計算されているのか。

暖房費がかさむだろうなあ。 これが電動のエアコンだとしたら、その動力と燃料はどんな物で賄っているのだろうか。


余計な考えに頭を回しつつも、灯かりの無い廊下を半ば手探りで進んでいる。 正面が明るいが、入り口から一度も曲がっていない。

このままでは中央の広がっているであろうホールか拝廊はいろうに出てしまう。 

引き返して暗い廊下の脇の通路を行くべきか、ジャック=フェレオルと相談する。


「正直、ライトを持ってこなかったのは初歩的なミスだったな。 てっきり聖堂全体が明るいかと思ってたが。」


「俺とアクエリアスは最初から大聖堂ごと全部ぶち壊すつもりだったからな。 灯かりなんて気にしてなかったぜ。」 


野蛮人め、と呟いたジャック=フェレオルの呆れ顔はスルーした。 ここでまた小突きあってじゃれても仕方ない。

出たとこ勝負だ。 中央回廊を覗いてみよう、と提案した。 

俺が覗きに行こうとすると、アクエリアスに手で制止され「私が見てきますね」と先を越されてしまった。

ジャック=フェレオルは頭をかきながら拳銃を取り出し構える。 奴も本職のお株を奪われた気分なんだろうな。


俺も何か殴打用の武器でも、と思って木の棒でもないか周囲を見回していると、アクエリアスがこっちを向いて手招きをしている。

どうやらそこまで警戒しなくても良さそうだ。

アクエリアスに覆い被さるようにして壁に張りつきつつも拝廊を覗き込む。


近づいただけで集団のざわめきが聞こえてきた。 拝廊には教団のローブを着た信徒達が大勢集まっていた。

拝廊は長い身廊と短い翼廊と呼ばれる部分で十字架の形になるように作られているが、その中央の所に台座になっていて、大きな金色の門が置かれている。

そこには普通、大きな十字架や聖人なんかの像が置かれてるんじゃないのか…と思っていると


「あれが奴らの崇拝している聖門というヤツだろう。」


と、いつの間にか俺の脇に来ていたジャック=フェレオルが唸るように説明した。

そうか、聖門教団というのは確か天国へ至る扉を崇拝してるんだったか。


「じゃあ…あれが異世界、大司教の故郷であるマグナ・ヴァルナという地へ繋がっているのか。」


「なんだそりゃ? あの聖門をくぐると、より天国に近づけるらしいって話は聞いてたが。 なんで扉をくぐると別の世界なんだ?」


ワープゲート、とか言ってもジャック=フェレオルに通じるかどうか。 この場で説明しても仕方ないだろう。

とにかく、あれをくぐれば大司教の元居た世界だと言い通しておいた。


「何とかしてあの集団に紛れ込んで、聞き耳を立てたい所だな。 雑談だろうが、一体何を話してるんだか。」


「礼拝している様子も無いし、奉仕活動もしてない。 やるとしたらこれからだろう。 動き出す瞬間に紛れ込もうぜ。」


ジャック=フェレオルの言葉に頷いて再びアクエリアスをローブの内側に隠す。 長い青髪が首筋をくすぐって何ともむず痒い。

俺は今、身長2mを越える大男だから目立たないように前屈みになっておく。 そうするとローブの内側にアクエリアスがすっぽり入る。

最も足元を見れば4本足なのがはっきり分かってしまうが、集団に紛れ込んでしまえば気付かれる事もないだろうさ。


突然、大きな鐘の音が鳴り響き、俺達は飛び上がって驚いた。 まじびっくり!

さっきの地下墓地で聞いた鐘の音と同じだ。 今度は生音だったが。 信徒を集めるための鐘の音だったのか。

聖門の周囲に集まっている信徒達のざわめきも一際大きくなる。


いまだ!


俺達は信徒達が鐘の音に気を取られている間に、上手く集団に紛れ込んだ。

突発的に動いたせいでアクエリアスと足がもつれて転びかけたが。


それにしても前屈みになっていてさえ、俺の身長は周囲から頭ひとつ抜けている。 ちょっと目立ちすぎじゃないだろうか?

だが俺の心配など他所に周囲の信徒達は妙に色めき立っており俺達には全く気付かない様子だ。


「いよいよ大司教様が…」 「はい、ついに私たちも…」 「大司教様を…口にする事が!」


えっ? 今、何て言った?

俺が聞き間違えかと思って声のした方を振り返ってみた瞬間、重い木と石の擦り合わさる軋みの音が聞こえた。

いきなり大音量でパイプオルガンの音色が聖堂内を満たす。 

信徒達がざわめきを通り越して熱狂の叫び声をあげる。


中央の聖門がゆっくりと開いていく。 隙間からはまばゆい光が差し込み、一人の僧服を着た人物と…何て事だ、やはり――


青空が覗いていた。



その男は開かれた聖門からゆっくりと歩みだしてきた。

白地にくどいまでの金の刺繍が施された司祭服ステハリ、自身の頭よりも大きな天辺の尖った司教冠ミュトラ、右手に携えた金銀の権杖、左手には分厚い装丁の聖書。

顔には皺が刻まれ、髪も眉も真っ白な老境に入りながらも目は大きく開かれギラギラとした鋭い目つきだ。


こいつが聖門教団大司教、ジャン=パウロ・ド・シャンパルティエか。

彫りの深い顔に更に深く刻まれた皺だらけの顔で笑みを浮かべている。


信徒達が一斉に膝をつき、両手を組んで祈りの姿勢になりざわめきが収まる。 パイプオルガンの音がフェードアウトしていき、聖堂内に静寂が訪れた。

ジャン=パウロ大司教は笑顔のまま頷くと口を開く。


「今日この良き日に集まってくれた事、嬉しく思う。 このジャン=パウロ・ド・シャンパルティエ、天の御言葉を伝えんがために再びこうして受肉し現世に戻ることが出来た。」



何を言ってるんだ、こいつは。 受肉だと?

異世界を天国に見立てて、自分を天の使いと主張していやがる。

だが、異世界の事など何も知らない人達が、この聖門をくぐって現れた大司教を本当に天国から舞い戻ったと思っても無理からぬ事か。

何せ門の向こうは青空の覗く平地だったからな。 壮大な仕掛けで詐欺をやってのけているわけだ。


「海さん、いつでも行けます。」


アクエリアスが俺の懐の内側から小声で囁いた。 確かにチャンスかもしれない。

だが結構距離がある。 俺達は信徒が円になるように聖門を囲んでいる一番外側にいる。

大司教にアクエリアスが飛び掛るのは1秒もあれば十分だろう。 しかも見る限り年老いた男だ。 竜種の人智を超越したパワーに抵抗できるようには見えない。

だがここはサイバネティック技術の広まっている世界に汚染されている状態だ。 あの司教服に覆われた体の内側がナノマシンとクロームフレームの集合体であってもおかしくない。

何より、聖門がヤツの真後ろで開いたままだ。 あそこに逃げられて向こうから閉ざされたら、俺達にこじ開けることができるかどうか。


「大司教よりも、あの聖門だ。 あそこに逃げ込まれないようにヤツとの間に割って入らないとまずい。」


聖門の扉はこちらに向かって外開きだし、やけに重々しく開いたからその心配は杞憂である可能性は高いが、決め付けるのだけは危険だ。

小声でアクエリアスもはい、と返事をしてローブの下でいつでも飛びかかれる体勢を取った。

俺達は正面からではなく、翼廊から侵入して近づいたから大司教のヤツと門を結ぶ垂直線上にいる。 角度は最高だ。

後はもうちょっと距離を詰めれば…


大司教が聖書を開き、咳払いと共に説教を始める。 いいぞ、この間に少しずつ距離を詰めよう。


「ヴァルナ記、8章より。 このような訳で、神の子が罪に定められる事は決して無い。

 なぜなら、神の子にある、命の御霊の原理が、罪と死の原理から我々を解放したから。

 肉によって無力になったため律法にはできない事を神は成してくださった。

 神は自分の御子を罪のために、罪深い肉と同じような形で御遣わしになり、肉において罪を処罰された――」



大司教は何やら有難いらしい聖書の文章を読み上げている。 

神の子が肉がどうのとか、菜食主義者の集団なのか?

だったら缶詰の肉を作るわけが無いか。

それより中腰でジリジリとにじり寄るのは腰に悪いな。 早くも疲れてきたぞ。


「故に我が兄弟達よ。 成すべき責を負い産まれし我らだが、肉に従い生きる定めを肉に対して負わず。

 何故なら、肉に従い生きるならば、その末は死のみであるからだ。

 しかし霊を以って体の定めを制するなら、貴方達は生き残るであろう。

 神の御霊に導かれている者達は全て神の子らである。

 貴方達は奴隷の霊ではなく、子たる身分の霊を受けたる者達である。」


パタン、と柔らかい音を立てさせて大司教が聖書を閉じた。

気付かれたか!?

一層深く前屈みになり、目立たないように祈るしかなかった。 奴らの神とやらに祈ったわけじゃないが。


「聖書は以上のように述べていた。 では説こう。 すなわち、我ら人は生まれながらにして罪を負っているという事だ。

 お分かりになるだろう。 そう、『肉の罪』だ。 我らは死すべき定めの肉体を持って生まれてきているのだ。

 そしてこの肉体は死を先延ばしにするために、他の生き物を犠牲にせねばならぬ。

 時に家畜を殺して食べ、時に身を守るために獣を殺し、遠くへ追いやる。

 我々は生きるために罪を犯さずにいられぬ定めにあるのだ。」


ただの説教だったか…驚かせやがる。 家畜を食いたくないなら、どうかそのまま死んでくれ。

異世界に侵略してきてまで何を好き勝手言っていやがるんだか。

これだから宗教ってのは怖いんだ。 良い事を言ってるふりをしながら他者や他の生き物を平然と殺す。

知ってるぜ。 奴らは家畜は神が食用に定めた動物だから食べても罪にならないとか、聖別すれば食べてオッケーとか言い出すんだ。

それで自分たちが食べない動物の肉を食べる人を野蛮だとか言い出す。 


「だが、我々は肉の罪に対する回答を得た! もう我々は罪を犯しながら生きていく必要は無いのだ!

 そうだ! 私達聖門の徒が体に宿したニューラルウェア達! これが肉の罪から逃れる神からのギフトなのだ!


 ニューロリンクによって余計な苦痛や欲求は制御する事ができる! もう暴飲暴食とは無縁になった諸君らならお分かりだろう。

 更に、手や足をサイバー四肢に置き換えることによって体の代謝に必要な栄養素を抑えることができる。


 心臓をシリコンに、肝臓を燃焼炉とろ過装置に、腎臓を透析装置に置き換えて行けば更に更に抑えていける!

 すなわちそれだけ必要な食事が減る、つまり肉の罪からより遠ざかる事が可能なのだ!


 そして究極の肉体、いや義体であるフルボーグ化に至るだけの精神力と霊の輝きを持つ者は幸いだ。

 彼らはもはや化学合成されたブドウ糖やいくつかの栄養素で脳を維持するだけで良い。

 つまり、肉の罪からほぼ開放されるのだ! ああ、サイバーウェア技術に祝福あれ!」


大司教が唐突に声を荒げてまくしたてやがった。

ようやく納得がいったぜ。 なぜ宗教の皮を被って侵略してきたのか。

そうだ。 その肉の罪って言葉が言いたかったんだ。

それでサイボーグに近づく事によって、罪から逃れると。

サイバーウェアに対する不信感を取り除き、浸透させる言い訳として、古い宗教を倉庫から引っ張り出してきたわけだ!

大司教の説教、いや説教の皮を被せた扇動は熱を増して続けられた。


「そして究極の形態、精神と霊のデジタル化だ! 精神と霊がサイボーグ化に適合しなくても、一度に聖なる階梯を駆け上がる素晴らしい手段!

 人格チップ化という祝福された御業により、諸君らは肉の罪から完全に開放される!

 希望者はいつでも名乗り出よ。 少々時間がかかるが、その罪に穢れた肉体から精神と霊は完全に解き放つことを約束しようではないか!」



なん…だと…!? 

精神のデジタル化だと!

在り得ない。 それは欺瞞だ。

フランセットがサイバネティックデッキで典範網に接続した時も、あくまでも肉体と精神はそこに、デッキの前にあった。

ニューロリンクとサイバネティックデッキの感覚置換作用によって、デッキやサーバーのメモリ空間内に居るかのように「錯覚」しているだけだ。


だが、いま大司教は可能だと言った。 本当に可能なのか、あるいはまた詐欺の一環か。


答えは後者だ。


これは詐欺だ。

本当に魂のデジタル化が可能なら、フランセットにサイバーネット空間の戦いで負けるはずが無い。

例えフランセットがガブリエル・オーバードライブというチート能力を発動したとしてもだ。


そう、むしろあの天使回路の存在こそが、大司教が詐欺を働いている事を雄弁に物語っているんだ。

大司教が喉から手が出るほどに欲しかった能力、あるいは機能。

それは生者の生身の肉体にしか無かった。 魂のデジタル化が可能であれば天使回路なんて物を作ってばら撒く必要は無いんだ。


こいつは完全に詐欺師だ。

ソーサリスを掠め取りに来ただけではなく騙して殺しに来ているのだ。

何らかの理由で、その肉体を奪うために。

サイバーウェアは奪った肉体の穴を埋めるために付けているだけの、文字通りの義肢なのだ。


この詐欺師大司教は俺の知らない更なる目的がある。 今ここでコイツを殺すのは正解だろうか。

コイツの後ろに誰か真の黒幕でもいるのか?


俺の額に汗が浮かぶ。 この外が吹雪で寒風が差し込む大聖堂の中でだ。

頭の中に迷いが生じてしまった。 ここで大司教を殺してしまうと、何か大事なモノを取り逃す。 あるいは手繰るべき糸が切れてしまうかもしれない。


そんな疑念が俺を精神の迷路に誘い込んだ。

アクエリアスが俺の様子に気付き、ローブの中でその小さな手を俺の胸に添えて撫でてくれた。 心配してくれているのだ。

よし、冷静になるきっかけはもらった。 とりあえず落ち着いたぜ。


だが考えはまだまとまらない。 いま少し時間が欲しい。 大司教の言葉を反芻して奴らの目的を探る時間が。

俺が逡巡している間に、なぜか大司教はそのステハリと呼ばれる司教服を脱いでいた。

司教冠も聖印も全て脱ぎ、薄い白い布一枚を身に纏っただけの姿になっている。

爺さんの裸なんざ見たくも無いが…そんな事を考えている頭のリソースは無い。

とにかく考えろ。 奴らがソーサリスの住人の肉体を奪う目的、天使回路…狙いは何だ?


「では諸君、迷える子羊らよ。 待ちきれないといった様子だな。

 恒例の最後の晩餐会を始めようではないか。」


何で最後の晩餐会が恒例なんだよ。 最後のファンタジーか? イケメンがレザーファッションで荒野を車で走ってサボテンをたこ殴りにするのか?



「今日は特にスペシャルでね。 素晴らしいゲストを招いてある。 君らは実に幸運だ。」


あっ

もう嫌な予感しかしない。 これ絶対に――


「我々聖門の徒の新たなる血肉となってくれる、ドラゴン族の王カイ・ミソロギ陛下だ!」



ですよねー


俺と大司教の視線が絡み合った。 嬉しくない。

無意味になった変装用の教団ローブを剥ぎ取って、せいぜい格好つけて放り投げてやった。


結局やるしかないんだ。 殺し合いをな。

正体が露見した海達。 ついに大司教を討ち取るための戦いが…始まらないのである。

なぜなら大司教は――

次回、時計仕掛けの大司教編 第20話「晩餐会」お楽しみに。

長らくお待たせしてしまって申し訳ない。 もう少しだけ付き合ってくれたまえ。

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