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竜種少女と静かに暮らしたい  作者: るっぴ
第三章 「時計仕掛けの大司教編」
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17 「地下墓地」

予定通りに進まない事なんていくらでもある。

人生とか、小説の執筆とかな!

 ―― VRダンス・シナリオライター<バッドシークエンス>ベルナルダン

魔法院とサンクトザイツブルグの街に霧が立ちこみ始めた。 

窓の外の景色は地面に近いほど白く染まり、まるで雲の海を漂っているように見える。


この霧は俺達にとって僥倖だ。 人と人の視認性が落ちてくれれば、これからの潜入ミッションが有利になる。

アクエリアスの肩に毛糸のケープをかけてやり、寒くないかと訊ねる。 物静かで遠慮がちな彼女だから、たまにはこちらから気を遣わないとな。

彼女は優しい微笑を返し、ケープを引き寄せ礼を述べた。 線の細い物憂げな人柄だが、出る所が凄く出ている…じゃない、こう見えても竜種として一騎当千のパワーがある。

事件が片付いたらメガネをプレゼントしよう。 きっと長く青い髪に良く似合うだろう…と、埒も無い事を考えて窓のカーテンを閉めなおした。


「それで、用意させてるローブってのはどこに?」


ジャック=フェレオルに問いただす。 この教団ローブが潜入を成功させる鍵だ。


「あるブティックに金を握らせて作らせてあるのさ。 ただ…」


「ただ、何だ?」 「こんな状況じゃあスマートデッキで通話するのすら、もう危険を伴うだろう。」


「確かに。 潜入以前に、正攻法だと街に入った時点で何かしら妨害されるだろうし、常に監視が付きまとうだろうな。」


「そういう事だ。 街へ侵入して、ブティックにローブを取りに行く時点で一苦労って訳さ。」


「うーむ…目的地までに難関が2箇所。 これは夜に紛れて城壁を登るしか無いか。」


「お前は知らないだろうが、城壁には赤外線センサーが張り巡らせてある。 勿論、監視カメラもな。」


駄目じゃん。 お手上げじゃん。

よし、やっぱり正面から大聖堂をぶっ壊そう。


「おい、何を考えている。 危険な目つきになってるぞ。 短気は起こすなよ。」


速攻でバレた。 腐っても刑事、悪い考えにだけは良く反応するようだな。

だが短気は起こすなって、お前が言うなよ。 お前だけは言うなよ。

顎をつまむ様に手を当てて考えていると、アクエリアスが意見を出してきた。


「あの…その赤外線とカメラというのは良く分かりませんが…私が海様達を放り投げるのはどうでしょう。」


「死んじゃう。 5mもある壁を越えるように投げられたら死んじゃうよ、俺達。」


確かにアクエリアスの竜種パワーなら可能だろう。 何なら竜気を焚けば、絶対確実だ。

だが俺とジャック=フェレオルは普通の人間だ。 普通の人間の身体は5m上空から地面に落ちたとき…まあ運が良ければ手か足の骨折で済むかな。


「上手く雪が積もってる場所に落ちれば無事という事もあるかもしれないが…やっぱり危険すぎるな。」


「では、やはり風の精霊を使って飛びましょう。」


えっ


「できるの!?」 「はい。 お望みとあらば。」


「凄いなアクエリアス。 それなら一気に解決だ。 でも、なんで先に言わなかったのさ。」


「いえ、その。 目立ちますし、先日空を浮かぶ鉄の塊を見かけましたもので。」


「ああ、エアロダインか。 あれは数が少ないし、遠くからでも音で分かるから大丈夫だよ。 よし、目立たない夜の間に街に入ろう。」



休息を取り夜を待つ事になった。 できればクリスタやルビィの到着を待ってからの方が良かったかもしれない。

いや、駄目だ。 ジャン=パウロ大司教とはもう宣戦布告を済ませた状態だ。 数日を無為に過ごせば、取り返しのつかない包囲網を敷かれてしまうかもしれない。

狙われるのはアクエリアスとフランセットだ。 アクエリアスは個人の戦闘力こそ無敵に等しいものの、ここの高度技術についていけない。

一瞬の油断で思わぬ攻撃に屈する可能性が高い。

フランセットはサイバーウェブ内では無敵だが、リアルでは年相応の少女だ。 チンピラひとりを撃退することも困難だからな。

やはり機先を制して打って出るしか無いだろう。 俺を守り抜くアクエリアスの負担は大きいかもしれないが、結果的には最善の道になるはずだ。


「アクエリアス、多分…結構迷惑をかけるとは思うけど、ひとつ頼りにさせてくれ。」


「はい。 でもそんなに改まらないで結構ですよ? 私達は竜種一族です。 迷惑なんて事は決してありません。」


元の家族から隔離され、長らく竜種だけで暮らしてきた彼女達はそう考える。 仲間意識と家族愛に区別があまり無いのだ。

一度仲間だと認めてしまえば命を懸けて守る事に疑問や不満は抱かない。

特に俺は彼女達を竜に変身させるキーパーソンでもあるから、本当に何があっても守ろうとしてくれるだろう。

しかし、それに甘えている訳にもいかない。 もらったものの一部でも返していかねば。

きっとここは、30年無職童貞の怠惰な日々を過ごしていた俺の、最後の居場所に違いないのだからな。


休息や食事を取り、夕刻になるとフランセットが突然自分も同行すると言い始めた。

気持ちは有り難いがアクエリアスの負担が大きくなる。 俺とジャック=フェレオルで何とかなだめて言い聞かせようとした。


「でも少しですけど、サイバーウェブなんかの知識で海様のお役に立てると思います。 立ちたいんです!」


やけに強情だ。 俺の腕を掴んで揺さぶる姿は駄々っ子のそれでしかないが…

アクエリアスが俺にお茶を淹れたコップを手渡すついでに、さり気なく耳打ちして教えてくれた。


「フランセットさんは海さんに認めてほしいんです。 嫉妬心もあって、存在感をアピールしたいんですよ。」

 

「確かに役に立つ立たないで言えば、フランセットはとても強力だ。 潜入にフランセット程頼もしいパートナーも居ないだろう。 でも天使回路はそう簡単に使って良い代物じゃないんだ。 体への負担が大きいからね。 フランセットのおかげで、後は敵陣に乗り込んでぶっ潰すだけだ。 すぐ戻ってくるからな。」


何とか言葉を重ねに重ねてフランセットに待機してもらう事を改めて納得してもらった。

本人達には言えないが、フランセットが居るとジャック=フェレオルの気がそぞろになって役に立たないしな。


彼女に見送ってもらい、とっぷりと暮れた闇の中での出陣となった。

晴れてしまったので霧に紛れての侵入とは行かなくなったが仕方ない。

魔法院を出て街から反対方向に街道歩く。 魔法院の周囲は聖門教団の監視下にある可能性が低くないからだ。

街道と言ってもこの数日人の往来が無かったため俺の膝の上まで雪が降り積もっている。 もはや道とは言えないレベルだ。

絶雪都市の異名は伊達じゃないな。

適当に距離を取った所で街道を外れ、雪の中を進む。 街道の外はもはや3mを越える積雪になっていて、穴を掘るようにして進んだ。

10m近く街道から離れたのを確認して、アクエリアスが風の精霊を呼び出し始める。


周囲の降り積もった雪が飛び散り、風が竜巻のようにアクエリアスを取り巻く。 局所的吹雪から腕をかざして顔を守りながらアクエリアスの右手を掴んだ。

彼女は右手に俺、左手にジャック=フェレオルを掴むと風の精霊に命じ、浮き上がった。


正直、体がねじ切られそう。 これは早くしないと腕が折れるぞ。

歯を食いしばって耐えながら、何とか無事に分厚い城壁を越える事に成功した。

ジャック=フェレオルと2人で腕を擦りながらアクエリアスに礼を言う。


「さて、ここからが本番だ。 一応変装の確認をしておこう。」


魔法院を出る時に3人とも簡単な変装はしておいた。 身長が2mを超えている俺は誤魔化し様も無いかもしれないが、アクエリアスとジャック=フェレオルは完全に市民に溶け込んでいるように見える。

目的のブティックはすぐ近くにあり、すんなり注文しておいた偽の教団ローブを受け取ることが出来た。

問題は2着しか無い事だ。 ジャック=フェレオルと消えた相棒用の2着だけだったのだ。

仕方ないので俺とジャック=フェレオルが着用し、アクエリアスは俺の懐の中に隠れようにする。 俺には小さすぎて膝下から丸見えだ。

しかも前が膨らんで足がもう一組見える。 これではすぐに気付かれてしまうだろう。

潜入したら手近の信徒を一人捕らえてローブを奪う事を相談して、地下通路のある建物へと向かった。


「ここが地下通路のある建物か…」


イエローゾーンの一角、打ち棄てられた古い教会がそびえたっている。 聖門教団のものではなく、昔からあるソーサリスの宗教施設だ。

だが、雪がかき分けられていて人の出入りが頻繁にある事を示していた。

裏手口から教会の中に滑り込む。 教会の内側はろくに掃除されておらず、埃っぽかったが人の出入りがあるせいで床の隅以外は積もるほどでは無かった。

部屋のひとつに入ると、そこにはローブが幾つもハンガーにかけてあった。 これはツイてる。 1着もらっておこう。

思い起こしてみれば、街の中で聖門教団のローブを着た人物を見かけていない。

皆ここでローブを脱いで街に出ているのだ。 なぜそんな事をするのか。 

決まっている。 後ろ暗いことを山ほどやっているからだ。


更にその部屋の奥への扉を開けると、地下室への階段があった。 監視カメラが視界に入ったが、偽ローブで誤魔化せている事を願うしか無い。

階下に広がっていたのは、モルタルで固めただけの洞窟じみた地下道だった。

だが、通路の左右両面に隙間無く窪みがあって。 そこに何か箱のようなものが据えられている。



「これは―― 地下墓地カタコンベか!」



天井から染み出してくる溶けた雪による水滴にローブが濡れる。

かなり原始的な埋葬地下道を俺達は無言のまま押し進んでいく。

敵の懐へと潜入を果たした海達。

そこで彼らは信じられない光景を目の当たりにする。

次回、時計仕掛けの大司教編 第18話「缶詰工場」

君のその肉、材料なあに?

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