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竜種少女と静かに暮らしたい  作者: るっぴ
第三章 「時計仕掛けの大司教編」
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11 「消えた教団」

は! 魔法だってよ! サタデーナイトスペシャル(安価で低品質な使い捨て拳銃)が2クレディで買えるんだぜ?

蛇口をひねればお湯が出てきて、マーケットが24時間開いてるこの街で、魔法って何の冗談だよ、兄弟。

 ――半グレのブースター<早撃ち>アラン


魔法院に戻り、事情を院長に話すとフランセットの保護を快諾してくれた。

しかし無料ではなかった。 交換条件を出してきたのだ。


「実はもう一度ザ・マナサージを起こせないかと考えていまして…言わばセカンドサージをですね。 更にマナと魔力に溢れたソーサリスにしたいのです。」


ザ・マナサージで世界にマナが溢れ、神話時代のようなマナが戻ってきた。 だがその栄華もわずか1年、気が付けばソーサリスは精霊世界へと変貌を遂げていた。

それが魔法院としては悔しくて仕方がないらしいのだ。 しかもザイツブルグの街があっという間に機械技術に取って代わって、魔法や自然のマナに関心を持つものが激減していると言う。

なるほど、魔法院としては立場が弱くなって街からの援助と魔術師や生徒が減る事を恐れている、という背景があって俺達が招聘されたのか。


「分かりました。 私達の巻き込まれている事件が解決したら全面的に協力しましょう。 街の様子の変化もそれに関わりがあります。」


魔法院長は飛び上がって喜んだ。 それなら、と魔法院を挙げて協力体制を取る事を約束してくれる。

巻き込むかと思って事件の事は黙っていたが、どうやらそれは間違いだったようだ。 間接的にとは言え、この街に住む誰もが無関係では無い。 多大な影響を受けているのだから。

有り難く協力をお願いし、魔法院で聖門教団に関わりが在る者に気をつける事と、教団の噂や情報を知っている人がいたら協力をお願いするように頼んでおく。

ドラゴン教団の消息を知っているかも訊ねてみたが、そもそも知名度が低すぎて魔法院長ですら知らなかった。 草の根教団だから仕方ないね。 そうあるように布教活動を厳しく制限したのだし。


しかしここで保護される当のフランセットがむずがった。 事実上の軟禁になるから退屈させてしまうのは申し訳ないが…


「私は絶対、海様と離れません! 私の運命の王子様なのですから!」


しまった。 変なスイッチが入ったままだったのか。 フランセットは自分も協力すると言ってきかない。

気持ちは有りがたいけど、正直役に立たないんだよね…羽根があるだけの普通の女の子だから。

父親のジャック=フェレオルはスマートデッキに向かって怒鳴るのに忙しい。 家の修理、その痕跡調査、襲撃犯の調査、ジャンパーズの洗い出しなどあちこちの部署に連絡と指示を入れている。


「ここで待っててくれ、フランセット。 毎日ここに戻ってくるんだからさ。」


「でもでも! 海様と一緒に居たいんです…」


「えーと…そ、そうだ。 結婚するなら、奥さんは家で旦那の帰りを待つものだよ。 今はここが俺達の家代わりだから。」


フランセットはこれで渋々ながら納得してくれた。 ジャック=フェレオルのスマートデッキが手から滑り落ちる。 真顔で俺に視線を送っているが面倒なので気にしない。

ともかく、体勢は整いつつある。 俺達はドラゴン教団と聖門教団を、ジャック=フェレオルは襲撃犯とジャンパーズを追う。

アクエリアスには睡眠を取って貰い、今日は俺一人でドラゴン教団の教会を訊ねてみようと思う。

しかし彼女に断られてしまった。 護衛も兼ねているので自分だけは何があっても俺の側を離れない、と言う。 参ったな…


土壇場で竜気が発動できるかどうかも怪しいのでは意味が無い。 竜気抜きでも十分強いけれども。

今日の所はドラゴン教団の痕跡だけ軽く捜索しておくだけにしよう。


アクエリアスと二人で昼食後に街へ出た。 相変わらずの極寒ではあるが、雲は晴れ日差しが街を明るく照らしている。

こうなると銀世界に浮かぶ都ザイツブルグは、霧に彩られた幻想的な神秘さと清らかさを持っているかのように俺の目には映る。

だが、表通りから1本入ればそこはドラッグと銃弾が飛び交うディストピアでもあるのだ。


幸い、ドラゴン教団の教会はグリーンエリアにある。 ひと区画裏はイエローゾーンだが…

街の北側にあるため、かなり歩かされたが特に事も無く辿り着くことが出来た。


教団の敷地は雪に埋もれており、俺の腰辺りまで隠されている。 と、言っても俺は今2.1mの巨漢であるから一緒にいるアクエリアスからすれば首から下がもう雪の中だ。

敷地の入り口から玄関まですらこの状況だから、人の出入りは全く無かったんだろうな。


俺が雪を掻き分けようとすると、アクエリアスが制止して自分がやると主張した。 あまり彼女を疲れさせたくないのだが。


「お任せください、海さん。 大丈夫です、火の精霊を使いますから。」


あら、それは便利。 じゃあ申し訳ないけど頼っちゃおうかな。

アクエリアスが炎の精霊を作り出す。 ゆらゆらと揺らめく俺の拳大程度の火の玉が1つ現れ炎の舌を渦巻かせている。

彼女が指差すと雪の中へ炎の玉が突入し、小さな竜巻となって雪を溶かし始めた。 物凄い蒸気が立ち上がっている。

ものの30分で玄関手前まで達し、さすがに建物に燃え移るのも怖いから玄関のポーチあたりからは手で掻き分けて扉まで辿り着いた。


結果から言うと、苦労して進入した割にはこれと言った成果を得られなかった。


数十人が暮らしてたと思われる教会は多少の生活臭が残る状態で完全に放棄されていた。 雪の重さで窓ガラスや屋根の一部が崩れてはいたが、争った形跡も無い。

急いで手近の荷物をまとめたのか、少々生活道具が散らかっている程度で、これと言った不審な点は見当たらなかった。

言ってしまえば、「積雪が激しくなる前に教団全員で夜逃げした。」程度にしか見えない。

これと言って置手紙も無く、信仰を放棄したように破壊活動をした痕も見当たらない。 信徒の誰かが教団資金を使い込んで借金取りから逃げ出したのだろうか。


アクエリアスと互いに捜索したその成果を、あるいは成果の無さを報告し合ってやや落ち込んだ気分になりながら魔法院へ戻ることになった。

魔法院へ戻ったのはもう陽がとっぷりと暮れてからで、大した事の無い捜索時間でありながら冬の日の短さを思い知らされる。

ジャック=フェレオルは俺達より先に魔法院に戻ってきており、彼も今日一日は大した成果を得られていないとの事だった。

もっとも各方面に指示を出して、その報告待ちという状況であり、彼自身は署に顔を出して報告をして家でフランセットの荷物をまとめて運んできただけだった。


夕食を全員で取りながらもジャック=フェレオルはあちこちに電話しており、その会話からは芳しくない状況がうかがえる。

軽い会話のつもりで一応訊ねてみた。


「どうも調べは進んでないようだな?」 「ああ、その通りだ。」


「こっちもドラゴン教団はもぬけの殻だった。 どうも夜逃げしたように全員軽く荷物をまとめて出て行ってる様子だ。」


「そうか、やはり聖門教団に改宗したんだろうな。 こっちは早くも暗礁に乗り上げてる状態だ。」


「と言うと?」 「ジャンパーズにサイバーレッグをスタッドインしたチンピラは居ないそうだ。」


「じゃあ、何者かがジャンパーズのカラーを装って計画的に犯行を?」


「どうもそうらしい。 となると、直前にお前らと出会って電話をかけた事は関係ないって事になる。」


「じゃあその聖門教団か、ジュリアン・ロウドの身柄を確保した組織からの差し金か…あるいはその謎のドラッグの密売組織か」


「そうだな。 ただ憶測に過ぎないが、この3つは恐らく同じ源泉の事件だ。」


「何故そこまで一気に飛躍する!?」


「ここまで痕跡を残さずドラッグを密売できる組織はこの糞ザイツブルグに存在しない。 闇ルートとは言え、サイバーレッグを2組作ってスタッドインできる組織もな。

 俺達警察が追えないって事はそれ以上の組織、つまりは聖門教団が関わっていなきゃそんな芸当は無理ってこった。」


「なるほど、排除法で聖門教団そのもの、ないしそれなりの地位に居る者が絡んでる事は間違いないってわけか。」


「俺達の知らない謎の組織がはびこっている可能性も否定できないが、まあ有り得ないだろう。 せめてドラッグの正体だけでも分かれば聖門教団中枢に踏み込めるんだが…」


「突然死する、しかも痕跡が残らない謎のドラッグねえ…そんな密売組織に有利なドラッグが存在するのか?」


俺の一言にフランセットが何かを気付いたように見つめてきた…が、俺は話と無関係かと思って笑顔を返しておいた。


「あるいは俺達警察が思い違いをしてる可能性も否定できない。 俺は上からの指示で調べ始めただけで、ドラッグを前提としてるのは俺が麻薬捜査科だからって理由だからな。」


「つまり、恐らくは違法性がある証拠の残らない何か。 使うと死体からは何一つ痕跡が出ない形で死ぬ。 これ以外はさっぱり分からないと…」


ジャック=フェレオルは諦めたように頷きを返した。 二人で示し合わせたかのように肩で大きく溜め息をつく。


フランセットが突然、椅子をずらして俺の体にくっついてきた。 ジャック=フェレオルの表情が頑固おやじじみてくるが無視しておこう。


「海様、海様。 フランセットの頭をナデナデして抱きしめてから愛の言葉をささやいてくれたら、きっと捜査が進むと思いますよ!」


「はは、天使のおまじないか。 よーしよし、フランセットは可愛いなあ。 ご利益がありますように。」


と、抱きしめるふりで軽く両手をフランセットの肩と腰に回す。 ジャック=フェレオルが何か脅しのような言葉をかけている。

フランセットも軽くかわされた事に頬を膨らませていたが、表情を切り替えて髪をかきあげ首の後ろ、ニューロリンクのソケットに手を伸ばした。

そこから取り出した小さな青いチップを俺の手に握らせた。


「はい、フランセットからの海様への愛のプレゼントです!」


「これは…何のチップなの? 文章? 画像?」


「天使回路です!」 


「なんだか可愛い名前だね。 どんなソフトなの?」


「ニューロリンクのOS機能を飛躍的に向上させるアプリケーションです! ニューロリンクのバージョンが合わないのに機能を無理矢理使ってると死ぬことがあるって噂のチップです!」


「まさか…!」 


「はい、インストール形式のソフトなら証拠は何も残りません。 だってソフトは脳内にあるんですから。」




金髪の天使がくれたのは、本当に大した贈り物だった。

フランセットから渡されたチップ、天使回路を手にした海達。

捜査は一気に核心へと突き進む。

次回、時計仕掛けの大司教編 第12話「天使回路」

いつだって若者のネットワークは大人に気付かれない

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