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竜種少女と静かに暮らしたい  作者: るっぴ
第三章 「時計仕掛けの大司教編」
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10 「一時撤退」

子供? 今時、子供を”育ててる”奴なんているのか!

ありゃあ培養槽の中でAI洗脳して自分好みのモノを”作る”もんだぜ?

  ―― 通りすがりの労働者エドモン

俺はソファに踏ん反り返るように座っている。 今回正座させられてるのは俺じゃない。 ジャック=フェレオルだ。

決して気分は良くないがね! 右の頬に作ってもらった氷のうを当てている次第ですよ。


「すまなかった、フランセット。 もうパパを許しておくれ…愛してるよ。」


そこはまず俺に謝って。 まあいいけど。 不敵なパンクコップも娘にゃ頭が上がらないか。

ジャック=フェレオルの娘、フランセット・トゥラランは腕を組んで父親の前に仁王立ちだ。

ふん! とひとつ、荒げた鼻息で父親の嘆願は一蹴される。 フランセットは顔を背けつつ流し目でちらりと父親を見つめて言う。


「じゃあ、私のお願いを聞いてくれたら許してあげなくもないわ。」


「おお! フランセット! お前のお願いなら何でも聞くさ! 何が欲しいんだい?」


「素敵! パパ大好き!」


打って変わって満面の笑顔になり正座する父に抱きついた。 おねだり上手の微笑ましい娘だなあ。

何となくアクエリアスと顔を合わせ、笑顔と苦笑のミックスした表情をお互いに作った。


「じゃあねえ~ 私が次にしゃべったら、必ず”いいよ”って言ってね?」


「よし分かった。 さあ言ってごらん!」


フランセットは俺の隣に座って腕にしがみついてきた。 なんだなんだ?

…まさか! ソファから腰を浮かすがもう遅かった。


「私、この人と結婚するわ!」


「もちろん、”いいよ” …って、何だとォ!? 駄目に決まってる!」


思わず天を仰いだ。 どうしてこうなった…

とりあえずジャック=フェレオルにまた殴られないうちに、お断りの返事をしておかねば。


「フランセット、君とはまだ会ったばかりで突然そんな事を言われても――」


「愛に時間は関係ありません! 強盗に襲われた私を助けてくれる正義のヒーロー様!」


んん!? そんな場面あったかな? 何とか症候群、とかあの手の心理状態か?

ジャック=フェレオルの目つきが再び危険な色を帯びてきた。 急いで誤解を解かねば!


「フ、フランセット、実は俺は既に結婚していてね。 そこのアクエリアスとさ。 アクエリアス、君からも言ってあげて。」


アクエリアスは笑顔を湛えながらフランセットの両肩に優しく手を添えた。

やはり奥さんの口から言って貰うのが一番だ。 これで変にこじれずに済みそうだよ。


「フランセットさん、大丈夫ですよ。 私は竜種と言って人間ではないので、人間の法律には縛られていませんから。

 海さんならきっとフランセットさんの事も一緒に愛して下さる事でしょう。」


「ちょっ、おまっ…!」


真の敵は味方の内にあった。 駄目だ、竜種の恋愛観と結婚観が理解できない。

ジャック=フェレオルは怒りの表情を消し、アルカイックスマイルになったかと思うと懐に手を差し入れまさぐり始めた。

そこ、拳銃のホルスターですよね?


うわっ、フランセットが飛びあがって抱きついてきた。


「それなら私も有翼人ファルコニアンです! 私も人間の法律には縛られません!」


「フランセットッ、どけ! そいつ撃てないッ!」



ああもう、遊んでる場合じゃないってのに! 


◆◆◆


ドタバタと騒いだ挙句、誤解が解けたのは朝方になってからだ。 北国という地域柄、まだ陽は昇っていないが部屋の時計は6時を指している。

ホントもう息をつく間もなくトラブルばかり起こるな。

少しは落ち着いた時間を過ごしたいなあ…と、俺の腕にすがりついたまま、ウトウトと舟を漕ぎ始めたフランセットを見つめながら考えていた。

ああ…ニート同然だった日々が懐かしい。 ポテチ食いながらネット巡回したい。


ジャック=フェレオルは怒りこそ収まったものの、なぜか銃はテーブルの上に置いたままだ。

やむを得ず一時休戦って思ってるんだろうなあ…あの目つき。


「仕方ない。 ひとまず娘の件は後でケリをつけよう。 お前を殺すのは最後にしてやる。」


そこは譲らないのか。 仕事終わったらダッシュでヴァルベルデへ帰ろう。 振り返らず、止まらずに。


「俺に他意はないよ。 彼女も落ち着けば冷静になるさ。 まずは事件の話と仕事を済ませようぜ。」


「いいだろう。 利用できる間は生かしておいてやる。」


物騒な事を真顔で言わないでくれますか。 少しずつ外が明るくなってきたので、非常用の電池式ライトを消して話を始めた。


「俺達がここに来たとき、電源が落とされてガラス戸が破壊されていた。 中に入った途端、二人組の暴漢に襲われたんだ。」


「二人か。 どんな格好をしていたか見たか?」


「いや、俺には無理だった。 アクエリアスは見えた?」


「ええ、少しだけですが。 あの酒場で絡んできた人達と同じ、上下のつなぎの服のようなシルエットで…」


「ジャンパーズか!」


一瞬声を荒げたジャック=フェレオルだが、すぐに自らの口を塞ぎ手を上げて自制の意を示す。

フランセットを自室で寝かせたいが、今のこの状況で目の届かない所へ行かせるのは得策と言えまい。


「奴等は凄い跳躍力だった。 アクエリアスが二人に蹴りを食らったが金属の足だったという。」


「いい情報だ。 早速情報屋に洗わせよう。 ジャンパーズのサイバーレッグ持ちなら特定は容易い。」


「だが気になる。 俺達が後を着けられたならともかく、先回りして襲われるってのは何か腑に落ちないな。」


「そうでもないだろう。 俺が娘にスマートデッキで連絡した所を盗み聞きして…」


「確かに俺達は買い物をしていたから、先回りはいくらでも可能だったが…ああ、違うな。 そもそも狙いは俺達じゃなかった。」


「ん…! そうだな。 お前達が来て逃げ出したなら、狙いは俺の娘か、ここにある何かという事になるな。」


俺は大きく頷いて買い物した頃からの場面を思い出す。 どこかで狙われるような、隙が無かったろうか…否、やはり俺達そのものじゃない。


「ジャック=フェレオル、お前が追ってる事件絡みって事のようだが?」


「…オーケー、話そう。 俺が追ってる事件は3つだ。 1つは違法ドラッグの正体と密売ルート、1つは聖門教団、1つは消えた親友だ。」


「じゃあ一番怪しいのはドラッグか。」


「そうなるな。 だがこの件はまだ何も掴めてないってのが現状だ。」


「どんなドラッグなんだ? スワッシュみたいな経口接種型か、それとも注射か。」


「それすら分かっていない。 とかく突然死ぬって事だけだ。 しかも体にドラッグの痕跡すら残っていない。」


「それじゃあドラッグかどうかすら怪しい。」


「だが、犠牲者のニューラルウェアの体内口座やクレディチップの動きを追うと、何かを取引している形跡がある。」 


「売人も現物も無いんじゃ、雲を掴むような話だな。」


「まあ捜査の出だしなんてそんなもんだ。 それで怪しい酒場を回っていたらお前を見かけたってワケだ。」


「納得した。 それで、聖門教団てのは?」


「いつの間にかこの街にはびこった糞ったれな宗教さ。 何でも、より高い魂の階層へいくために解脱の修行をして聖門を通って天国へたどり着くんだそうだ。 銃弾をこめかみに一発、の方が早いと思うがね。」


「実も蓋もないな。 それのどこに事件性があるんだ?」


「何分、いつどこから沸いてきた教団か知れねえ。 しかもあっという間に偉いさんに食い込んで骨抜きにしたらしい。 今じゃ領主より教団がでかい顔してる。 教団がこの街の法律だ。 怪しい所だらけ、というより怪しい所しかねえ。」


「例えば?」


「奴ら、街の北門のすぐ外にサンクトザイツブルグ大聖堂を構えているが、そこでニューラルジャックとスタッドインを無料で配布して手術してる。 その際に手術の前後で多少の奉仕活動は求められるが、まずコストにあわねえ。 クッキー焼いて売った金程度じゃ二桁、三桁足りない。」


「領主を抱き込んでるなら、税金を山ほど回してるんじゃないか?」


「だろうな。 だがそれだけじゃねえ。 お前のその紙袋から見えるそれ、ソイレンズ肉もだ。 異様に安いだろ? それも教団謹製だ。 肉なのに牧場も加工工場も見当たらないし何の肉かも書かれてないんだぞ。 良くてせいぜい食用ネズミだ。 おそらく肉に見えるように加工した穀類だろう。」


「そりゃ怖いな。 表面的には違法性が低いように見えるが利権スキャンダルじゃない、何か黒い影が見えてるな。」


「宗教なんて一皮剥けばどこもそんなもんだが、こいつらは桁違いだ。 以前、街にあった2つの宗教も消えたしな。」


そこだ。 俺達が知りたいのはその消えた宗教の片方、ドラゴン教団だ。


「そしてこれらを一緒に追っていた相棒ジュリアン・ロウドが先月消えた。 死体すらあがらねえ。

 通話ログから、売人と接触する直前だったような痕跡があるが、その足跡も途絶えてる。」


「なるほど、大体分かった。 追っていけそうなのはジャンパーズの線と聖門教団だけって事だな。」


「そうなるな。 お前達の人探しってのも聞いておこうか。」


俺は頷いてアクエリアスに買い込んだ食糧を食べるよう促した。 またどこで荒事になるか分からない。

食える時に食っておいてもらわないと。


「実はその消えた宗教のひとつ、ドラゴン教団の人達だ。 聖門教団に改宗でもしたかと思われてるが、手紙ひとつ無しに20人消えた。 特に厳しい戒律があるわけでも無いのにおかしいだろう。 そもそも聖門教団はともかく、ドラゴン教団は二重入信すら禁止していない。 消息と無事だけでも確かめられれば、俺達はそこで任務終了だったのだが…どうもそんな雰囲気では無くなって来た。」


「聖門教団に消された、といいたいのか?」


「いや…ジャック=フェレオル、これから突飛な話をするが否定や馬鹿にするのは一通り終わってからにしてもらえるか?」


「いいだろう。 配属部署柄、頭のネジが飛んだ奴の話は聞き慣れているからな。」


「OK、それでいい。 今、この街サンクトザイツブルグは別の世界に侵略されている。」


「は!?」


「思い出せ、お前はある日気がついたら街の衛兵隊長から刑事に変わっていたんだ。 これはソーサリスの世界が別の何者かの世界へと置き換えられた事を意味している。 普通の人間はその変化に気付かないがお前はその違和感に気付いた。」


「お前達がソーサリスを亜人だらけにしたように、か?」


「あれはソーサリス自身の変化だ。 世界の法則が捻じ曲がった訳じゃない。 今回のこの街、サンクトザイツブルグに関しては明確に<世界が書き換えられている>。 お前自身も知覚はしてるものの、異世界からの侵略者の世界法則に<翻訳>済みなんだよ。」


「流石に簡単には信じられないな。 確かに街と人が突然変化したのはわかるが…」


「詳しく説明しよう。 だが…」 「どうした?」


「恐らく、ここに留まるのは良くないんじゃないか。 電気も復旧してなくて寒いし。 フランセットも保護してやらなきゃ駄目だろう。」


「確かにお前の言うとおりだ。 おい、娘をコートの中に隠そうとするんじゃない!」


「いや、寒いだろうと思って…」 「うるさい。 寝ている隙に離れろ。」


やれやれだ。 これが親バカって奴だな。 フランセットを毛布でくるんで…羽根邪魔だなあ、ジャック=フェレオルに引き渡す。

安全な場所、というより頼るべき所は俺達は1箇所しか知らないので、魔法院に保護してもらう事を提案した。

ジャック=フェレオルも俺の提案に賛同し、ひとまず魔法院に向かうことになった。

そもそもフランセットが一緒だと俺の身が持たない。 ジャック=フェレオルの胃壁もな。


何はともあれゆっくり眠りたいってのが正直な所だよ。

アクエリアスのからかうような一言


「現地妻を作るなんて、流石海さんですね。」


は無視する事にした。 なんだよ、流石って。 俺は未だに童貞ですよ?

現地妻とか生々しい響きだなあ。 相手が羽根の生えた少女じゃなければね。


混沌と退廃の街、ザイツブルグは朝もやに紛れ聖ザイツブルグの名に相応しい様相をしていた。

だが、水面下では何者かの侵略が着々と進んでいるのだ。

この舞台の幕の影でほくそ笑んでいるのは一体誰なのか…

まだ足がかりすら得られていない。

喜劇と騒動は落着し、再び魔法院に身を寄せる海達。

失踪したドラゴン教団の信徒の足跡を追う。

次回、時計仕掛けの大司教編 第11話「消えた教団」

宗教、それはただ支配者に都合の良い道具でしかないのか。

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