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竜種少女と静かに暮らしたい  作者: るっぴ
第三章 「時計仕掛けの大司教編」
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8 「ジャック=フェレオル」

この街に高級レストランなんて存在しない。 全部工場でパッケージされた料理だ。

では聖ザイツブルグの高級レストランは何を売りにしてるかって?

決まってる、安全と機密性。 店の保安内装が売りなのさ ――料理人デュボワの言

あ、どうも皆さん、海です。 


ついに逮捕されました。 30歳無職童貞、逮捕歴有りです。 もうやだ地球帰りたい。

手錠をかけられて酒場を後にする所です。 あ、アクエリアス、俺に頭からコートかけてくれる?



「っと、この辺でいいか。」


通りを幾つか曲がった見通しの悪い所で、このジャック=フェレオルという警官が立ち止まった。

そして俺の手錠を外す。 俺は反射的に手首をさすってしまった。


「あの、俺なんで逮捕されたんスか?」


「あのなぁー。 お前、あそこで俺が出ていかなきゃ、絶対奴らを殺してただろ。 感謝しろよ?」


「向こうから手を出してきたんだよ!」


「バカが。 奴らはブースターギャングだぞ。 あの場を凌いでも奴らの仲間に追われて街を歩けなくなる。

 だから俺がこうして、しょっ引くふりをして連れ出してやったんだ。」


どうやら敵意だけは無いようだ。 下心はありそうだが、それなりに信用していいと思う。

ザイツブルグでは当たり前なのか、あるいはこの男だけがそうなのか、職権を上手く利用するタイプなのは確かだし。

場合によっては金銭次第で色々便宜を図ってもらうことも可能かもしれない。


ジャック=フェレオルは「よし、ここにしよう」と呟いて、俺達を連れ一軒のレストランに入った。

ザイツブルグでは初めて見かける、比較的上品な店構えで店内もホロ画像が浮かんでいたりVRダンスの端末が置いてある以外は俺が知ってる、地球の普通のレストランと同じだ。

もっとも、それなりに高級そうなので俺が一度も入った事の無いタイプだが。


ウェイターに人数を告げて個室を要望したジャック=フェレオルは俺に向かって振り返り、手の平を上に向け人差し指を俺に差し向けながらウィンクする。


「お前のオゴりだからな。」


屈託の無い笑顔で言ってきた。 まあ仕方あるまい。 本当に前科者にされる訳じゃなさそうだからいいか。

店の一番奥に通され、ジャック=フェレオルに任せるままオーダーした。


「さて、まずはお前らの事から聞こうか?」


「ええ、俺は海。 彼女はアクエリアス、旅行者で魔術師です。 魔法院に滞在する事になって、先程街の様子を見に来た所あのざまですよ。」


「この冬の間に旅して来たのか?」


「ええ、魔術の研究について院長に呼ばれまして。 まあ魔法で飛んできたので旅はあっという間でしたけど。」


「は! 魔術って奴はそこまで便利だったのか。 俺ァてっきり銃の代わりに火や氷を吐き出すだけかと思ってたぜ。」


「それより、ここは何なんです? このソーサリスに存在し得ない技術の文明化は。」



飄々とした態度のジャック=フェレオルの表情が突然危険な光を帯びた。 険しい表情に変わり、俺の胸倉を掴んで立ち上がる。


「な…何をするんだ!」


「お前も…ッ! この世界の変化が認識出てきているのか!?」


「手を離せよ! 苦しいだろうが!」


ジャック=フェレオルはすまん、と軽く謝り着席しなおした。 よれよれのスーツの胸元を正して咳払いをする。


「俺以外でこの糞ザイツブルグの変化に気付いた奴はお前が初めてだ。」


「じゃあ皆、知らない間に<変化>したんですね?」


「ああ、1年半前のあの世界を覆った白い霧事件…確かマナ何とかという…あれの直後に街が変わり始めた。」


マナサージか…やはりあの事件が形を変えて影響した結果なんだろうか。


「俺は昔は街の衛兵の地区班長だった。 槍と兜と革鎧が仕事着だったんだぜ。 でもある日気がつきゃこのザマだ。 犯罪捜査課の薬物科だってよ。 トレンチコートに大口径、しかもレンタル・コップだ! なんだよ警察企業って! 街には体を機械に置き換えた化け物同然のチンピラが我が物顔で歩きやがるし、昨日までの同僚が今日はリザードマンだ! しかも銃撃戦で負傷してついに腕がサイバーアームだ!

おい、うんざりした顔しないで聞けよ。 しまいには疲れて家に帰ってみれば、一人娘に羽根が生えていやがる! 俺にとっては天使のような娘だったが、まさか本当に天使になるとはな! さらには天使のくせに学校で使うから、とニューラルジャックをスタッドインしたいんだと!」



ヒートアップして一気にまくし立てやがった。

しかし半分は俺の責任でもあるからなあ…どこまで説明したものか。

だが、このジャック=フェレオルの人柄は掴めた。 正直すぎて捜査課には向いてない気はするが、善良なタイプだ。

先程俺達を逮捕するふりして連れ出してくれたのも本意だろう。 こちらもそれなりに素性を明かしてもいいと俺は判断する。

アクエリアスに目配せをすると、柔らかい表情を作り頷きを返してくる。 彼女も遠からず同じ事を思ったようだ。  


「落ち着いてくれ。 あんたの事は立場は大体分かったよ。 俺達の正体についてもう少し詳しく教えよう。」


ジャック=フェレオルは「正体だと?」と怪訝そうな顔をしながらも身を乗り出してきた。

かなり端折ったものの、俺達が竜種一門である事と今日ザ・マナサージと呼ばれるマナ増大現象の原因と正体。

それに俺達が深く関わっている事、その後のソーサリスの精霊世界化事件の事もついでに説明した。


コースのメインディッシュを平らげた頃、一通りの説明が終わった。

正直、説明するのに腐心したせいで料理をじっくり味わう事はできなかった。 生まれて初めての本格フレンチだったのに…

リドヴォーって何の肉だったんだろう。 そういう家畜が居るのか?

やや余計な事に脳内を脱線させつつも、ジャック=フェレオルへ向けた説明は一通り理解を得られたようだ。


「この数年で世界を引っ掻き回したのがお前ら、竜種一族だって事は理解したぜ。」


「あくまで敵を倒しただけなんだけど…」


「まあいい。 ホントは何発か撃ち込んでやりたい気分だが勘弁してやるよ。 だから俺に協力しろ。」


ええー…そこはせいぜい何発か殴りたい、でしょ。 血の気多いな、ファンタジーパンク。

だがアクエリアスも賛同の頷きを返している事だし、協力者は確かに欲しかった。 刑事とあらば渡りに船ですらある。


「実は俺達も人探しでここへ来てるんだ。 魔法院に呼ばれたのはその口実でね。 協力体制をとるのにやぶさかじゃないぜ。」


「ほう? 俺も人探しだ。 こいつは根が同じかもしれないな。 まあ探るべき事は他にも沢山ある、この街の変化と聖門教団に本業のドラッグの正体とルートもな。」


そら来た。 こっちの本命、聖門教団だ。 余計な脇道はなるべく避けて、ここに注力して欲しいい所だ。

デザートを平らげるアクエリアスの笑顔を見て目を細める。 いつ見ても女の子が甘い物を幸せそうに食べる姿は良い…

手をつけてなかったので、俺の皿もアクエリアスの前に滑らせる。 今日は竜気を発動したから、正直彼女にはフレンチのコースじゃあ物足りないだろう。


ジャック=フェレオルはスマートデッキを胸ポケットからチラリと出して時刻を確認した。

時刻! なんて懐かしい響きだ。 やはり文明人は時間を刻まねばな。 流れるだけの時じゃ味気ない。 普通は逆に感じるかも知れないが。

地球に戻ってもゆっくりできない俺は確かに今、文明に触れているのだ。 ああもう、もっとじっくり味わって食べるんだった。


「互いにもう少し情報交換が必要みたいだな。 ジャック=フェレオル刑事。」


「刑事、ね。 糞ったれな職名だな。 だがコーポレートコップの辛い所だ。 一度、社に戻って報告をしておかねばならない。

 娘に電話しておくから、俺の家に先に行っててくれるか。 住所はこれだ。 すぐに戻る。」


「オーケーだ。 こちらももう少し買い物があるから、済ませたら向かおう。」


「またトラブルを起こすんじゃないぞ。 買い物は高くてもグリーンエリアでしろ。 イエローゾーンやコンバットゾーンへは行くな。」


「それそれ、エリアとゾーンはどこで見分けるんだ?」


「スマートデッキのナビで…って持ってないのか。 大通りに面してる所はほぼグリーンエリアだ。 通りから見えるところも大抵グリーンだな。

 そこを外れたらイエローゾーンだから立ち入るな。 さらに奥へ行けばコンバットゾーンとまで言われる無法地帯だ。 絶対に入るな。」


レストランでの払いを済ませ、ジャック=フェレオルと一度別れた。 あっ 結構高い。

アクエリアスは満足顔から、まあいいか…


「とても素敵なお店でしたね。 海さん。」


「かなり本格的な店だったなー… 話に夢中で味わって食べてなかったよ。」


「あら、私だけ楽しんでしまったみたいで、ごめんなさい。 また皆で来ましょうね。」


「そうだな。 とりあえず、手近なマーケットで食料を買おう。 正直あの大立ち周りの後じゃ物足りなかっただろ。」


返事をまたずに、手近の交差点付近のデータタームにかぶりつく。 ジャック=フェレオルに教えてもらった住所を検索して位置とルートを確認すると、ついでに手近のマーケットも検索しておく。

時刻はもう日付が変わる頃だ。 それでも人通りはそれなりにある。 それが文明の証なのか、貧しさの証なのかは俺の知る所じゃあない。

ブースターに絡まれたのは誤算ではあったが、怪我の功名で大きなコネが1つできたのは僥倖だった。


更に激しさを増す大粒の雪の中へと俺達は歩き出す。 


か細い街灯の明かりを頼りに。


強力なコネを得た、海達。 ジャック=フェレオルとの共闘で、捜査は快調に滑り出すかに見えた。

謎の宗教、聖門教団とはいかなるものか。

次回、時計仕掛けの大司教編 第9話「聖門教団」

背徳の街、されど冠する名は聖ザイツブルグ。

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