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竜種少女と静かに暮らしたい  作者: るっぴ
第三章 「時計仕掛けの大司教編」
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2 「竜種会議」

不穏の地、サンクトザイツブルグに起きている事件とは…

星の世界を流星のように飛翔し、出口の黒い穴を通過する。

そこはやっぱり今回も大浴場の真上だった。


召還主である婆様がそう調節してるのか、あるいは星門と水が相性良いのか。

俺達はもんどりうって湯船に飛び込む。


「ぷあッ! 毎回毎回、もっと丁寧に降ろしてくれないものかね!」


俺は額に張り付く髪をかきあげて言い放つ。

クリスタはむせこんでるし、ルビィは尻をさすっていた。

アクエリアスだけは涼しげな顔で髪から水分を絞り始めている。


「お兄ちゃん、おかえりなさい!」


緑のツインテールの髪の少女、エミィが俺の胸に文字通り飛び込んで来る。

俺は背中から再び湯船に倒れこんでしまった。


「ただいま、エミィ。 良い子にしてたか?」


エミィは予め予測してたのか、大き目のタオルを一枚、体に巻いただけの格好だった。

どうやら俺との再会を湯船で祝う気満々だったようだ。


娘ほども年が離れてはいるが、俺の魂の妹が元気そうで何より。


「お兄ちゃん、お背中洗ったげるよー!」


「嬉しいけど、まだ服を着たままだよ。」


「じゃあ脱いじゃおう! それー」


一気に上着を剥ぎ取られた。 あーれー

小さくても竜種、あなどれないスピードとパワーだ。


しかしエミィの天下もそれまで。

クリスタに叱られ、口を尖らせたまま小脇に抱えられ、脱衣所へ運ばれていった。

まあ仕方ない。 無理矢理脱がそうとして、服のボタンを全て弾け飛ばしたのだからなあ。

そのボタンがクリスタのこめかみにヒットしたのが運の尽きだった。


しかしこの状況なら、大浴場から出て行くのは俺の方のような気がするが…


「じゃあルビィ、一緒に入ろうか。」


「なっ…! そういうのはもっと上手く誘ってくれなきゃ、うんって言い辛いじゃない!」


嫌ではないのか。 さすが俺の奥さんを自称するだけはあるな。

でも何だかんだ言って出て行ってしまい、俺は一人取り残された。


軽く汗を流して、髪を拭きながらリビングに入る。

婆様が淹れていた爽やかな茶の香りが心地良い。


「海、久しぶりじゃな。」


「お久しぶりです…と言いたい所ですが、俺にとってはわずか3時間ぶりですよ。」


「なんじゃ、またゆっくりできなんだか。 

 こちらではもう3ヶ月も過ぎたというに。」


「3ヶ月経ってましたかー… 短い休暇だったなあ。」


「働け働け、お前の信者達が困っておるのじゃからな。」


「俺の、じゃなくてルビィの、でしょうが。」


「同じ事じゃ。 なんじゃ、今回は土産は無しか。」


「無いですよ! 俺の母に3人が見つかってそれ所じゃなかったんですから、もう。」


「なんじゃ、連れてくれば良かろうものを。」


…その手があったか。 いや、無いだろ。

普通の人が星の世界を通過してソーサリスに来たら変異しちゃうんだから。

そう教えてくれたのは婆様でしょうが。

下手に星門をくぐらせようものなら、着いた時にはトロールあたりになってそうだ。

母親がトロールって嫌だなあ。


「そう言えば忘れてた。 カチナは? 無事か?」


「…もう出ても大丈夫ですか?」


カチナの声が響くと、ルビィの首の後ろから飛び出した。

またポンッというコミカルな、カートゥンじみた音を出している。


「海さん! 何ですか海さんのあの世界は!」


「何だと言われても…」


「精霊力がほとんどありませんよ! 皆無です! 死ぬかと思いました!」


「ええ…皆無なの? 俺の世界、そんなに殺伐としてたのか。」


「海さんの生まれた世界だから、もっと精霊の楽園のような所だと思っていたのにー」


「それだったら精霊の事についてカチナに頼ったりしないだろ。」


カチナも怒ったり怖がったり忙しい子だ。

出会った頃はもう少し大人しいタイプだったが、精霊の力は心の力。

シャーマンであるカチナは精霊力が高まりすぎて感情も豊かになり過ぎている。

もっぱら、その関心は俺とルビィの仲がどこまで進展しているかに寄せられているのだが。


しかも当のカチナも俺の奥さんという事になっている。

竜種一門は一夫多妻制なんだそうだ。


「それで婆様、アクエリアスから少しは聞きましたが、詳しくいいですか?」


「うむ。 まずどれから話そうかの…」


「一番差し迫ってるのはドラゴン教の信徒達が行方不明、と言う件ですね。」


「やはりそれじゃな。 北に絶雪都市と呼ばれるザイツブルグの街があっての。

 そこにもドラゴン教の信徒が20人ほど居たらしいのじゃが、連絡が途絶えたという事じゃ。」


「まだ誰も確かめに行ってないんですか。」


「うむ。 絶雪都市の異名の通り、今あそこは雪に閉ざされておる。

 旅慣れぬ者が迂闊に近寄れる土地では無いのじゃ。」


「なるほど。 それで俺の出番てわけですね。

 俺自身は反魔力の力しか持ってないけれども…」


「そこはカチナの力で援助してやるから安心せい。

 それに表立って動けば奴らに気取られるかも知れぬ。」


「奴ら?」


「聖門教団じゃ。 ここ2年ほどで急速に勢力を伸ばしたらしい、新手の宗教での。

 奴らと何らかの形で衝突したのではないかと、わしもドラゴン教団の幹部も予想しておる。」


「宗教間の抗争とか、一番首を突っ込みたくない話なんだけど。」


「お前の肩書きに教団開祖というのが無ければそれも良かろう。」


ぐぅ… 開祖なんて、安請け合いするもんじゃなかったなあ。


「それで内密に調べるための肩書きが、その魔法院の何とかですか。」


「そう、それじゃ。 都合良い事に、そのザイツブルグの街はソーサリス最大の魔術の府での。

 魔法院から以前、わしら竜種を名誉会員にするから来訪を希望する、との書状をもらってたのを思い出したのじゃ。」


「思い出したって…黙殺する気だったんですか。」


「お前も居なかったしの。 任命するのは自由にせよ、と返信だけはしておいたのじゃが、魔力王の事件についての研究に協力して欲しいと再度の要請もあった事じゃしな。」


「納得しました。 それで皆でザイツブルグに行くんですね。」


「長引けばわしらも向かうが、とりあえず向こうへ行くのはお前とアクエリアスだけにしようと思っておる。」


「なぜです?」


「大勢で行くと目立つからの。 まずは魔法院に招聘しょうへいされたという名目でお前達が現地へ行き、調査する。

 その間にわしらも色々準備しておこう、という所じゃ。」


「分かりました。 では、すぐにでも出立しますか。」


「そこまで急がなくても良い。 カチナがお前達を送迎する準備が後2日かかる。

 豪雪地帯へ行くのじゃから、寒さ対策は入念にせねばな。」


確かにそうだ。

豪雪地帯なんて俺もまだ経験が無い。

冬の北海道に家族旅行でホテルに泊まった程度だ。

氷点下で暖かいね、とか挨拶を交わすロシアみたいな場所だったら慎重に準備せねば。


頬杖をついて不満そうな顔をしていたルビィが抗議の声をあげた。


「なんでアクエリアスなのよ。 わたしと海なら、聖門教団なんてその日のうちにぶっ潰してやるのに。」


これには俺と婆様も苦笑いで応じるしかなかった。


「最初から荒事になるんだったら、俺は確かにルビィと一緒に行くよ。

 でも事は宗教間のトラブルなんだ。 最初からケンカ腰じゃあ収まるものも収まるまい。」


ルビィは直接返事をせず、頬をフグのように膨らませて顔を背け、そのまま部屋を出て行ってしまった。

後でフォローしておこう。


「わたしも海くんと一緒に雪の北国を旅したかったです。」


クリスタが残念そうに言いながら俺の腕にしがみついた。

ああ肘に、肘に…何度味わってもこの感触は最高だな。

手で触らせてくれないのが辛い所だが。


「俺もクリスタと一緒に行きたいよ。 でも事は旅行じゃなくて地味な調査だ。

 それに後から皆で来るんだからいいじゃないか。

 俺とアクエリアスで一足先に行って掃除しておくから、クリスタはゆっくりおいで。

 一緒にゆっくり冬の都を楽しもう。」


「分かりました。 じゃあ念入りにおしゃれして行きますね!」


クリスタは笑顔で自室に戻っていった。

おそらくこれからクリスタの室内で、クリスタ冬のファッションショーが開催されるに違いない。

よし、同じ手をルビィにも使おう。


その他、街の情勢など細かい情報を婆様とアクエリアスとやり取りして、その日は休む事にした。

エミィが大きい枕を持って来て俺の部屋に入ってきたが、やはりクリスタに抱えられて連れ出されてしまった。

別に寒いんだから、一緒に寝てもいいだろうに。

まあ代わりにクリスタと一緒に寝るのだが。

しかし童貞を貫かねば反魔力の能力が消えてしまうので手が出せない。


今日も生殺しの夜が始まるぜ…頑張って耐えてくれ、俺のマジックワンド



旅の準備の合間についに魔法を習得する海。いよいよ名実共に魔法使いとなる日が来たのだ。

次回 時計仕掛けの大司教編 第3話「反魔力で魔力」 お楽しみに。

海のネーミングセンスが光る

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