22 「大団円、とはいかないようで」
戦いは終わったが、休む間もなく世界の変異に驚かされる海達であった。
俺達は気が付くとヴァルベルデの街に降り立っていた。
何か夢でも見ていたような気分だ。
見渡すと皆いる。 クリスタ達も一緒だ。
ルビィだけはドラゴンの変身を解除して、その場で眠ってしまっていた。
ルビィの首にはクリスタのに良く似た首輪が付いていた。
騎竜具が形を変えてルビィに付いたままなのだ。
クリスタと少し違うのは首輪から細いベルトのようなものが伸び
胴体を経由してガーターベルト状に腰と腿まで結ばれている事だ。
パワー型だから少し拘束が必要なんですかね。
下着姿にガーターベルト状のオプション付き首輪というエロス具合…
いいな。 正直最高だ。
そして首の後ろから一本のベルトが垂れている。
そうだ、これを握ればルビィは俺に絶対服従なのだ。
起きたらちょっとイタズラしてやろうか――
「ひゃんっ!」
カチナが黄色い声をあげた。
どうやらこのベルトを触った感覚はカチナと繋がってるらしい。
「海さんの…えっち。」
どういう事なの。
いや、そういう事なんだろう。
1本で2人と喜ぶべきか、2人で1本と嘆くべきか…
ともかく、
「みんな、このカチナは新しい家族になったんだ。」
俺はルビィを抱き上げながら、カチナを皆に紹介し始めた――
「ところで海くん、身長伸びました?」
「まさか、そもそも成長する年じゃない――
はて、そう言えばルビィが妙に小さいな。」
いや、ルビィだけじゃなくて皆が小さい。
これは…本当に俺が大きいのか!
「どういうことだ!? 俺だけサイズが戻りきってないぞ!」
クリスタが150cmくらいだから、今の俺は2m位になっている。
2.1mくらいか…?
ちょっとした巨人じゃないか。
これじゃ地球に帰れない!
突然身長が50cm近くも伸びたら両親だって驚くだろう。
青ざめた顔でいると、カチナが教えてくれた。
「精霊世界の名残じゃないですか。
最後ルビィさんが、海さんを大きく持ち上げてましたからねー
少しずつ元に戻ると思いますよ、恐らく。」
恐らくか…戻ってくれるといいなあ。
当分、地球へは戻れないか。
仕方ないのでエミィを右肩に乗せて街へと歩むのであった。
ヴァルベルデの街は完全に元通り、とはいかなかった。
石巨人との戦いまでは巨大化が無かったからだろうなあ。
つまり兵士も結構な数が死んだままだという事だ。
俺達は竜種の道場を借り、ひとまずそこで休息することになった。
話をさせてもらった城塞都市の将も兵士も、道を行く途中でも
全ての人が俺達を…いや、明らかに俺を見て平伏したのには参った。
これは逆の意味でやり辛い。
俺としては注目を浴びるのは好きじゃないんだよなあ…
とりあえず許可をもらったが、そのまま居住を勧められてしまった。
一連の事件の収めた俺達が居たほうが箔が付く、みたいな意味なんだろう。
目が覚めたルビィは婆様と一緒に散々隊長に向かって説教をし、
結果、驚くほど大量の金銭をせしめて来た。
何でも当面の軍事予算全てを奪ってきたのだとか。
迷惑料と協力の謝礼と軍事顧問料という名目で。
半分はユーピガル城塞都市に請求するべきじゃないかな。
そもそも向こうの館も家財道具も、ほとんどが支給されたものなのだからさ。
食料を山ほどに買い込んで、館に戻って再会と勝利の祝宴を開く。
元々竜種はみんな大食いだ。
せいぜい9歳児の小さなエミィでさえ、大の大人2人前は軽く食べる。
特にルビィには10人前は食べさせないとな。
一番働いた上に、元が痩せ型だ。
あばらが浮いた日には目も当てられない。
ルビィがしきりに武勇伝をみんなに振りまいている。
ちなみに俺は完全に拘束されている状態だ。
別に逃亡を図ったとかじゃなくてさ。
右腕はクリスタに抱きつかれて、左腕はルビィに取られて
膝の上にエミィがいる。
そしてなぜか背後からカチナが俺に胸を押し付けているのだ。
なぜだ。
俺がカチナの南半球を下から不思議そうに眺めていると、
ルビィが俺の心を察したのか、頬をつねりながら言った。
「カチナはもうあたし達から離れる事ができない体になったんだからね!
あんたが責任取るしかないのよ!」
「責任て…」
「そりゃあ、お嫁さんにもらってあげて幸せにする事に決まってるじゃない!」
お嫁さんて…
何だか常識と倫理観が煮過ぎたジャガイモみたいに崩れていきそうだよ。
「婆様、ソーサリスの結婚制度って一夫多妻制なんですか?」
「いや、人間は一夫一妻じゃな。 じゃがわしらは竜種じゃ。
わざわざ人間の制度に縛られる必要も無かろう。」
竜種オリジナルのルールか。
童貞のまま3人も奥さんを抱えるのか…更には無職のまま。
この分だとアクエリアスを加えて4人になりそうだしなあ。
いよいよ働かなければなりませんかね、このソーサリスで。
「でも一番はあたしだからね! 何てったって竜になるのとは関係なくキスしたんだから!
情熱的で素敵な雰囲気だったわ! 回数だってクリスタより多いしね!」
やばい。火薬庫に火が投げ込まれた。
逃げたい。
「海くん…戻ったら、って言いましたよね?」
クリスタが涙目で顔を近づけてくる。
いやもう、そりゃイチャコラするのに吝かでは無いんだけど。
皆が見てる前では控えたい。
控えましょう、クリスタさん。
カチナも一層強く胸を押し付けてくる。
「海さん、私の事も忘れないでくださいねー
もう私も海さん無しでは生きていけない体なんですから。 きゃー!」
誤解を生むような言い方は…いててて!
クリスタ、腕を強く握りすぎィ!
折れちゃう。
なんかこう、上手くやっていける気がしない。
まともに女性と話した事もろくにない俺が、
いきなり3人の奥さんとかさー
引きつった笑いで誤魔化してると、
エミィが俺の体をよじ登って唇を奪われた。
軽く触れるだけのキスで、むしろ歯が当たって痛かったが。
おやおや、最終的には5人になりそうです。
「ほ、他に竜種の男は居ないんですかね?」
「なんじゃ海、男にまで手を出したいのか!?」
「違う! ほら、俺が満員御礼状態じゃないですか。」
「竜として生きていた時代は不明じゃが、人間の血に混じった竜種は
これまで全て女じゃな。 つまり必然的に…」
「必然的に?」
「自分を竜にしてくれる、お前としか結婚しない事になるわな。」
キスしただけで? とは聞けない。
聞いた直後に俺の全身の骨が砕かれるに違いないんだぜ。
さて、ソーサリスの地に今、竜種は何人いるでしょう。
恐ろしい…
「…それで俺達はこれからどうしますか。
ここに留まって暮らすか、ユーピガルに戻るか、新たな地を探すか…」
「それはお前次第じゃ。 竜種の長なんじゃからの。」
「え!? 長は婆様でしょう?」
「わしもこの年じゃからのう。 お前はクリスタだけでなく竜種全員を変身させられるようじゃし
竜種の長の座は海に譲る時が来たようじゃて。」
この婆さん…明らかに面倒くさい事は押し付けたいって感じだろ。
俺は忘れてないぞ。 何が年だ!
魔力王との戦いの最中で、あの馬鹿でかくて重い騎竜具の入った木箱を
俺に向かって百mも放り投げた事を。
「まあユーピガルに戻っても館は焼け落ちてるし、気まずさもありますから
当面はこちらで暮らしていきましょうか。」
無難な提案をすると、婆様は頷いて了承した。
カチナの氏族の集落にも近いし、この方がいいだろう。
腹が満たされたら、皆ですぐ寝る事にした。
俺とルビィとカチナは散々働いたからクタクタだ。
だが、俺に安眠は許されなかった。
キングサイズのベッドが二つくっつけられ、
俺は拘束状態のまま寝るハメになったからだ…
右腕にクリスタ、左腕にルビィを腕枕して
なぜかカチナが俺を膝枕している。
「カチナ、それじゃあ寝れないだろ? ちゃんと布団に入って…」
「大丈夫ですよー 私、精霊体ですから睡眠はさほど必要ないみたいです。」
あ、そう…
「こう…じっと覗かれてると寝辛いんだけど…」
なぜか目元を手で塞がれた。
そういう事じゃないんだがなあ。
とりあえず、静まれ俺のマジックワンド。
未使用。新品同然。
翌朝目を覚ますと、やはり疲れがあまり取れてない。
元気なのは俺の自前のマジックワンドだけだよ。
これでは身が持たないので、クリスタとルビィの騎竜具のベルトを掴んで命令する。
カチナがまた、ぴゃん! と黄色い声をあげる。
これ欠陥商品ですよ、婆様。
「寝る時は順番で1人ずつ、交代制にしてくれ。」
絶対服従の手綱をこんな用途で使わねばならぬとは。
普通は逆にリビドーを満たす様な命令をして楽しむもんじゃないですかね。
これで当面の安眠は確保できた。
まあ不満は溜めないようにしてあげないとな。
童貞を卒業する訳にもいかないし…
事後処理がひと段落したら、地球へ帰ろう。
こんな俺にも帰る場所がある。
ソーサリスに再び平和が戻り、海達も日常を取り戻したかに見えた。
だがまたも日常はそれまでの日常とは一線を画すものになっていたのだ…
次回、伝説のタイタンバトル編 第23話「後日談 大迷惑オンパレード」 お楽しみに。
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