21 「タイタンバトル決着! 大勝利の再生神話」
狂える精霊魔王ロンガロンガ、その正体とは
ルビィは自分の目とルビードラゴンの目でロンガロンガをにらんでいる。
ドラゴンが左手でパチンと指を鳴らすと――
…鳴らせるの?
タイタンとロンガロンガを燃やしていた炎は消え去った。
俺達は急速にルビィの魔手から生き残った他の惑星から遠ざかる。
いや、違う。
急激に元のサイズに戻っているのか。
そして遂には土星のリングの名残である岩石のひとつに
全員が降り立った。
元のサイズに戻ったタイタンは、やはり500mくらいはありそうだった。
「思い知ったかしら!」
ルビィが二人を前に仁王立ちかつ腕を組んで言い放った。
「はい…」 「思い知りました…」
二人が正座をしている。
なんで異世界で正座が存在するのかはもう考えまい。
しかもタイタンは良く見ると正座じゃなくてトンビ座りだ。
体柔らかいのね。
ロンガロンガは半分に、タイタンは100分の1ぐらいに小さくなった。
逆もできたのか!
いや、かなりどうでもいいな!
ルビィはフンッ! と荒い鼻息をひとつ飛ばす。
「人の話を聞く時は仮面を取りなさい!」
「あっはい…」
仮面を外したロンガロンガは本当にどこでも居そうな普通の風貌だった。
ただ、どことなく幼い顔立ちだ…童顔とも少し違う。
「聞かせてもらうわよ。 何で巨人達を巻き込んでこんな酷い事をしたの!」
ルビィが問い質す。
俺は問答無用で極刑だと思っていたが、ルビィには考えがあるのだろうか。
「僕は…荒野みたいな平地の大規模農村の生まれだったんだ…
病気がちな上に太陽の熱にやられてね。 僕の身長は子供のままだった。
農家なんて体力が無ければただの穀潰しさ。
友達も出来なかったし、家族も全員僕に冷たかった。」
ああ…何か個人的には耳が痛い話だな。
「それでソーサリスのザ・マナサージが起きて、精霊の導きに目覚めたんだ。
この精霊の力で、僕も家族の農場の役に立とうと。
でも皆、僕のこの力を気味悪がったのさ…ついに追い出された。
体力と腕力だけが頼りだった彼らにとって、
チビの僕が怪しい術を操るのが怖かったんだろうね。」
俺は居た堪れなくなって、身動ぎした。
「だから精霊の力を更に高めて奴らを見返してやりたかったんだ。
体力が全てだって言うなら、巨人族を従えて見せ付けてやればいいと思って。
ただ…僕は認めて欲しかっただけなんだ…」
ロンガロンガはボロボロと涙を流していた。
それで妙に童顔のような印象だったのか…
ルビィがガーッとまくし立てた。
「だからって殺しちゃ駄目じゃない!
ましてや巨人族を無理矢理従えるなんて、その人達の事を責められないでしょ!
そんな事する前にどうしてあたし達に相談しなかったのよ!」
微妙に怒る角度が違うけど、まあ説教ってそんなもんだよな。
ルビィはタイタンのほうを向いて更に強く胸を反らす。
タイタンがビクッと体を硬直させた。
「あんたもあんたでしょ! なんで名前が欲しいからって人殺しに加わるのよ!」
「お、俺達も去年までは普通の人間だった…です。
でも巨人族の血に目覚めてからはどんどん体が大きくなって…
周りは怖がったり迷惑そうにするから街には住めなかった。」
まあそうだろうなあ。
特にタイタンは身長500mだし。
「それに巨人族は体が大きい分、たくさん食べる。
やっと仲間と会えても一緒に暮らすことは難しいんだ。
だから、せめて俺達は絆が欲しかった。
精霊使いから正しい名前をもらって、そこから俺が皆に名前を付けて…
巨人の声は風に乗って遠くまで届く。
正しい名前があれば、仲間と離れていても寂しくは無いと思ったんだ。
それにロンガロンガに従えば体の大きさを変える事が出来る様になるという
精霊の術を教えてくれると約束してくれた。
やっと俺達は仲間と集まって暮らせる。
そう思ったんだ…」
流石にルビィも少しだけ鼻白んだ。
ここでも人間の迫害があったからだろう。
巨人の食料という大きな問題があったとは言え、だ。
「貴方達の言い分は分かったわ!
許してやりたいけど、これだけの事をしてしまっては取り返しが付かない。
それは分かってくれるわね?」
「はい…」 「死んでお詫びします。 でも仲間達だけは…」
突如、俺達の背後から大ブーイングが起きた。
誰だ!?
精霊体と化したソーサリスの住人達が集まっていたのだ。
一体、どれほどの人数になるだろう。
数え切れる訳も無い。
彼らは口々にロンガロンガとタイタンに対して罵声を浴びせている、ようだ。
ルビィは八重歯をむき出しにしながらも堪えていたが、
ついに限界に達した。
「黙りなさいな! 特に人間達!」
宇宙に静寂が戻った。
「いい? 元はと言えば、あんた達人間が原因で起こった事件なのよ!
あたし達竜種もかなり追い込まれたわ!
この海だって、危うく殺される所だったんだからね!」
何十億もの精霊体たちが俺を見つめた。
怖いよ。
「今回だけは、この海がまだ人間を滅ぼすには早い、って言ったから助けたわ!」
えっ 俺!?
「あたしは正直、見捨てようって言った。
でも海が助けるって言ったから助けた。
だからドラゴン、竜種には感謝する必要は無いわ!
でもこの海にだけは平伏して感謝なさいな!」
やめて。 なんか救世主みたいな扱いするのマジやめて。
胃が痛くなってきた。
「だから気をつけなさいな!
もしそうやって見た目や種族の違いだけで差別を続けるなら、
次に何かあった時は見捨てるわよ!
海が愛想を尽かしたら人類は終わり。
そう肝に銘じておく事ね!」
やめてくれ…
無職の30歳童貞男にそうやって責任を被せるのはやめてくれ。
精霊体、ソーサリスの全生命が「はい」と答えた。
中には一部違う事を言ってる人もいそうだが別に構わないさ。
とにかく、こんなふんわりしたお伽噺の世界はもうたくさんだ。
早く元に戻りたいよ。
ルビィは大きく頷いて満足の意を示すと、ロンガロンガに向き直り
再度ゆっくり重々しげに頷いた。
ロンガロンガがスピリットダンスを始め、
まるで動画を逆再生するかのように、破壊されたソーサリスが元の形に戻ってきた。
ソーサリス大地再生の瞬間だ。
同時に周囲を埋め尽くしていた精霊体達がソーサリスに引っ張られ
喜びの声と共に矢のように飛んでいく。
「さて…これで大方元通りになったわね!」
しかしルビィは首をかしげた。
「何か天空が変ね。 丸い星をいくつか壊しちゃったせいかしら…」
俺にはどう変なのか、さっぱりわからない。
宇宙の星は…ああ、なるほど
一方向に完全に星が無くなってるのが分かった。
宇宙の法則を乱し続けたツケって事なのかな…?
「タイタン! あんたの処罰を決めたわ!」
「はい! 何でもします!」
「あそこの片隅、西の天が落ちちゃってるでしょ。
あんた当分、あの天空を支え続けなさい! 安定するまで!」
「合点! 招致しました!」
「よろしい! 何千年かしたら様子を見に来てあげるわ!」
千年単位かよ…
というか天を支えるってなんだ。
「炎の竜よ。 ひとつだけお願いがあるのですが。」
タイタンが申し訳無さそうに言う。
そうだせめて100年にまけて、くらいは言っておけ。
「貴方達はロンガロンガに勝った。 だから巨人族の新しいボスは貴方達だ。
巨人族のボスとして、天と地の狭間に残る俺に名前を授けて欲しい…です。」
「いいわよ! 最初からそう言ってるじゃない!」
ルビィは顎に手を添えて、少しだけ思案した。
「いい名前が思い浮かんだわ! あんたの口癖が<やっと>だから
あんたの名前は<やっと>よ!」
やっと(At Last)ね…適当な名付けだなあ。
「何か、ちょっと言い辛いわね…ちょっと縮めて、
あんたの名前はアトラスよ!」
「素晴らしい名前だ! 俺は今からアトラス!
天と地を支えるのが仕事のアトラスだ!」
…わざとやってるんですかね。
タイタンは喜んでプレアデス星団の方向へ飛んでいった。
飛んでいくのか…達者でな。
「これで全部終了かしら! でも何か少し暗いわね…」
そうだね。
太陽壊しちゃったからね。
「ロンガロンガ! 貴方は太陽になりなさい!
大きな太陽になって一番高い所からソーサリスを照らせば
もう誰も貴方を見下せないわ!」
「こんな僕が、そんな大役をもらっていいものだろうか…」
「うるさいわね! つべこべ言わずに丸くなって光ってなさい!
夜は休んでていいから! 程好く大きくなるのよ!」
「分かりました! ありがとうございます!」
嬉しいのだろうか。
甚だ疑問ではあるが、本人達が満足してるなら
俺が口を挟む必要は無いだろう。
どちらかと言うと開いた口が塞がらないんだけどね。
「これで全部元通りね!」
「ああ、ルビィ。 お疲れ様。」
「本当に疲れたわ! 早く帰りましょ!」
俺とルビィとカチナ、そして精霊体として残っていた
クリスタ、アクエリアス、エミィ、婆様は
宇宙を後にした。
すっかり土星と水星と火星を忘れてた俺は、後日少しだけ後悔する事になる。
ともかく、一通りの事件は決着したのであった。
何とも不可思議な戦いはとにもかくにも決着した。
しかし大き過ぎる世界の歪みは様々な影響を残すのである。
次回、伝説のタイタンバトル編 第22話「大団円、とはいかないようで」
ソーサリスよ、英雄達の帰還を讃えよ。