18 「大竜言語」
精霊世界の戦い方を知ったルビィ達の逆襲が始まる
ルビィとカチナが振り向く。
「やったのね!」 「分かったんですか!」
「ああ、ここは精霊の、つまり精神の世界だった。
ロンガロンガがそうしているんだ。」
カチナは頷いているが、ルビィはこの時点で眉が寄っている。
まあいい。
むしろそのほうが乗せやすい。
「身体の大きさが変わってるんじゃないんだ。
心の大きさが身体の大きさに置き換えられてたんだ。」
「もっと分かりやすく言って頂戴な!」
「つまり…」
「つまり?」
「ビビった方の負けだって事だ!」
「さっぱり分からないわ!」
「巨人が大きくなったのは俺達が恐怖で驚いたからだ。
そしてルビィが巨大化したのも竜に変身して、ロンガロンガが恐怖したんだよ。」
「何となく分かってきた気がするわ。」
「奴は巨大化の呪文と驚かす事を繰り返していた。
それで紛らわしかったんだ。
恐怖で心が縮こまる。心の大きさは体の大きさ。
それで相手が巨大化してるように見えてるんだ。」
「やっぱり分からなくなってきたわ。」
ダメだこの子。
「さっき、タイタンがハカを踊ったとき、俺達は変身して雲の上にいて
それを見ていなかった。 つまり驚いて心を縮める事は無かった。
むしろルビードラゴンを見てロンガロンガのほうが恐怖し、
一時だけとは言え、俺達はタイタンの大きさにかなり迫った。」
「つまり、わたしはどうすればいいの? 教えて頂戴!」
「身長の大きさは関係無い。 奴を驚かせろ!
奴がびっくりして腰を抜かせば、俺達の勝ちだ!」
「分かったわ!」
ルビィが加速して勢い良くタイタンへ向かう。
首もとのロンガロンガに向かって炎のブレスを叩き付けた。
しかし既にロンガロンガの大きさはルビードラゴンの倍以上ある。
風の盾の術で炎のブレスはほとんど防がれてしまった。
「今更その程度の炎が効くと思ってるんですかッ!
いや、ちょっと熱いですケド…
焚き火の炎のほうが、まだましですネェ~!」
タイタンの手が暴風と共に迫る。
ルビィが辛うじてかわし攻撃の機会を伺うように旋回した。
「ダメじゃない!」
ルビィがわざわざ竜の中央から身体を乗り出して
腕を振り回しながら文句を言ってきた。
俺に言われてもなあ。
そういえば、変身すると服は脱げるけど
服を着たまま中に戻っても大丈夫なんだな…
「身体の大きさは関係ないんじゃなかったの!?」
「心の大きさが負けてるんだよ!
タイタンに比べて、今の俺達は心が小さいんだ。 縮こまってるんだよ。」
「じゃあどうすればいいのよ!」
「奴らを恐怖で驚かすしか無い。
タイタンは大きすぎるからロンガロンガを狙う、
その方向性は間違ってないんだが…」
俺は考えあぐねる。
この状況で奴を恐怖か何かで驚かす手段はあるだろうか。
…どう見ても無いな。
「この圧倒的身長差でもまだ抵抗しやがりますかァ~!?
いいでしょうッ! 決定的な身長差をお目にかけましょうッ!」
ロンガロンガが首を左右に振り、足を踏み鳴らしながら呪文を唱え始める。
また巨大化のスピリットダンスか!
同じ種類の術を、巨大化を重ねがけできるのか?
いや、違う。
巨大化すると思い込ませて、俺達の心を縮こまらせようとしているんだ!
「雲の下に逃げるんだ! 奴はああやって
巨大化すると見せかけて、俺達を恐怖させようとしてるだけだ!
奴を見なければ大丈夫!」
だが俺は読み違えていた。
あくまで巨大化、つまり心の大きさは俺達とロンガロンガの相対的な物だと
そう思っていた。
しかし違った。
ロンガロンガはソーサリスの街全てに、あの巨大なスクリーンのような映像を送っていた。
ソーサリス全土、世界中の人々がロンガロンガとタイタンに恐怖していたのだ。
企図してか偶然かは分からないが、
タイタンの巨大化する足が街の一部を踏み抜いた。
その恐怖を餌に
タイタンの身長は15kmを軽く超えた。
「大きすぎてもう上が見えないわ!」
「ホント、もうどうすりゃいいのか分からんなこれ。」
ここまで大きさが違うと勝負にもならないだろう。
地表に伸びるタイタンの足は
もはやつま先から踵までの長さが1kmに達する。
奴らがその気にならなくても、もう2.3歩身動ぎするだけで街はぺちゃんこだ。
そろそろロンガロンガの身長も1kmくらいありそうだな。
謎は解けたものの、あまりのサイズ違いに
俺はもう驚くとか恐怖とかを通り越して呆れ返っている心境だ。
これだけ差がつくと逆に冷静になれるもんだな。
「海、海! 一体どうしたらいいの!」
「いやー… 流石にもうどうにもならんでしょう。」
「その割にはやけに冷静じゃない! 何か策があるの?」
「無いような、それとも有る様な…とにかくだ、
これだけサイズ差があったほうが逆に楽かもしれない。
むこうはもう、こっちを正確に狙って攻撃できないよ。
当てられたら完全に致命傷ではあるけどね。」
俺は割り切った。
現実が馬鹿馬鹿しい状態なら、
もうこちらもいっそ馬鹿馬鹿しい手段で対抗するべきなのだ。
それなら、俺のハッタリと口八丁手八丁の出番だな。
まずは手近なカチナ相手に小手調べだ。
「カチナ、シャーマンとかスピリットダンサー達の世界では、
空の更にその上ってどうなってるか知ってるか?」
「空の更にその上、ですか…? 太陽の精霊と星の精霊が暮らす所で…
詳しくは語られてませんね。」
「宇宙って言葉は?」
カチナは怪訝そうな顔つきになる。
よしよし、ソーサリスの宇宙観はシャーマン達でもまだ漠然としているようだな。
何せソーサリスのシャーマン達はまだ目覚めて1年経ったばかりだ。
そこまでディープな観念をしっかり把握してる者はほとんど居ないだろう。
これならやり易い。
「あとタイタンが言ってた名前ってのも気になるしな。
名前が何か重要なのか…」
「名前は精霊体としての形を現すもので、高位の人から授かったり
占いや天啓で得るものです。
正しい名前をもらう事が私達にはとても重要なんですよ。」
「その名前か…俺は命無き星、とか呼ばれても嬉しくないけどなあ。」
だが、タイタンとロンガロンガの関係は大体分かった。
何とか出切るのは、奴らと同じ立場になってから、だな。」
筋道は見えてきた。
だが、奴に目にもの見せる一発が何としても欲しい所だ。
「ルビィ、たった1回でいい。 全力で奴らを驚かせる攻撃を仕掛けてくれ。
そこでお前が奴らを心の底から大した事ない、と思い込めれば
このサイズの差は一気に逆転できる。」
「本当なのね?」
「疑ったら負ける。 俺を信じてくれ。 約束する。
勝ち筋はもう見つかった。
それさえルビィが成功したら、後は俺がお前を勝たせてやる!」
「分かったわ。 でも…」
珍しくルビィが言いよどむ。
これだけのサイズ差がある状況だ。
信じられないのも無理ないか。
「海の事は信じてる。 でも、正直に言うとやっぱり少し怖いわ…
あれだけの巨人に勝てるのか。」
「無理も無いさ。 それがロンガロンガの狙いなんだ。
誰だって自分より大きい敵は怖いからね。
でも、そんな条理不条理をぶち壊すのが竜種、そして竜の本質だ。
非常識はドラゴンの専売特許、大きいだけの奴らに負けてられないぜ。」
「竜の本質…」
「そうだ。 ルビィならできる。 むしろルビィにしかできない。」
「…うん。 やってみる。 いえ、出来るわ!
でも、あと少しだけ勇気が足りないの。
だから…」
いくら俺でもこう言われれば分かる。
カチナが鼻を丸くして息を荒げて興奮してるし。
「竜になるためじゃない。 本物のキスをしよう。」
ルビィが恥ずかしがりながらも竜の体内から俺の前に出てくる。
やや下を向いて手を組んでもじもじとさせているのが可愛い。
カチナをしっしっと手で追い払い、騎竜具の中に戻らせる。
ルビィの細い身体を抱き寄せ、去年より伸びてロングになった髪を撫でる。
顔を近づけ鼻と鼻が触れ合うほどの距離になった。
「俺がそばに居る。 ずっと一緒だ。」
二人の唇を重ねた。
反魔力を注ぐ必要の無いキスをしたのは初めてだ。
だがその心地良さに浸るわけにはいかない。
ルビィを安心させてやりたい。
甘い吐息を漏らすルビィの唇を優しく撫でるように俺の唇を滑らせていた。
長い、長いキスをした。
ゆっくりと唇を、そしてルビィの身体を放す。
ルビィが俺を見つめている。
何ならもう一回しようか。
お前が満足するまで、不安が全て消え去るまでな。
そんな意味を込めてルビィを笑顔で見つめ返す。
「ん… もう大丈夫。 やれるわ!」
目に力を込めて引き締まった表情に戻るルビィ。
強く頷くと、目に光と焦点が消えたような表情になる。
これは…トランス状態に近い何かだ。
「お師匠様が言ってたわ。 創世の時代、神様は特別な力を持っていなかった、と。」
何の話だ?
誰に向かっての言葉だろう。
「ただ、神様が使った御言葉が全て本当の事になった、と。
言葉そのものが願いの魔法であり、万物を変化させる力だと。」
言霊って奴か…あるいはウィッシュワード、
パワーワードという事もあるな。
「竜は神様が地を統べるために産み出した。
世を汚し、悪を払う絶対の存在として。
神は竜にその御言葉に次ぐ力を持つ言語を与えた…」
ルビィはトランス状態のまま、
ルビードラゴンの中央に沈むように戻っていた。
それが竜言語――と、言い残しながら。
「我は竜。 紅玉の身体を持つ裁定者。」
ルビィらしくないしゃべり方になる。
竜種の意識を何者かに委ねているのか、
あるいは竜としての原始的な何かが目覚めているのか。
そしてルビィの声は途絶えた。
だが、竜の咆哮が、ただの音では無くなった。
それは言葉として天に轟き、世界中に響いた。
誰もが知らない言葉でありながら、誰もが理解できる言葉となった。
「我が炎は絶対の破壊也。 全てを灰燼に帰す終末の炎也。」
ルビィが急上昇してタイタンの頭に向かう。
「世を侵す不遜なる輩に炎の審判を下す。」
俺はようやくルビィが何を言ってるのか分かった。
これは自己暗示だ!
竜言語とやらの効果の真偽はともかく、とてつもなく強力な自己暗示を
ルビィは自分にかけることに成功したのだ。
しかもこの言葉は世界中に広く伝わった。
精霊世界と化したソーサリスで全ての人がそれを信じただろう。
自己暗示と共に、世界に強制暗示をかけたのだ。
それが完全に成功した事は疑いようも無い。
間近にいるカチナですら、騎竜具の中から出てきて、平伏しているからだ。
…平伏する相手の背中に乗ってるのもどうなんだろう。
とか思ったけど言うのは止めた。
ルビードラゴンの頭部が口元を中心に赤熱した。
この時点で俺とカチナは逃げ出したくなるほどの熱に晒されている。
その吐き出された炎は、形は普通の炎だった。
だがもはや赤い炎ではなく、わずかに青と赤で縁取られるだけの白い炎だった。
狙ったのはロンガロンガではなくタイタンの顔
ルビードラゴンの身体の何倍も大きい炎の舌がタイタンの顔を覆った。
炎はタイタンの髭と髪の毛に燃え移り、炎上しはじめる。
タイタンはパニックになり頭と顔を叩き、必死に消化しようとする。
ロンガロンガが水と氷を張り巡らせる術を使い、タイタンの顔を覆って消化した。
「蚊トンボめッ! なんて炎を吐きやがり――」
「びびったわね?」
それはルビィの声だった。
それもとびきり上から目線の見下す口調だ。
ルビィが繰り返す。
「あんた今、びびったわね!」
タイタンとロンガロンガが急速に縮こまっていく。
正確にはルビィの、ルビードラゴンの体が恐ろしい速度で巨大化していたのだ。
ルビードラゴンの巨体はタイタンの倍、
身長40km以上、全長で100kmに達した――
遂に世界法則を逆手に取りタイタンの身長を超えたルビィ。
前人未到の神話級バトルに、今到達する。
次回、伝説のタイタンバトル編 第19話「究極限界巨大戦闘」お楽しみに。
ソーサリス大崩壊、そして宇宙へ。




