15 「カチナ大復活!」
カチナ。その献身と奮闘
「はあ?」
ルビィとカチナは目が点になっている。
そして俺に優しく声をかけた。
「海、あんた疲れてるのよ…」
「違う! 信じろ! 奴らが巨大化したんじゃなくて、世界そのものが縮んだんだ!」
俺はカチナの肩を握るようにして掴み言う。
「族長は言っていた。 世界には決まった形は無い、と。
そこにいる人達次第でいくらでも変わる、と!」
「え、ええ…ワカンタンカの導きのひとつです。」
大きな力を使う時は人や物ではなく、世界そのものを…って、そんなまさか!?」
「そうだ。精霊魔王ロンガロンガは精霊の力を使って、
このソーサリスそのものを変えていたんだ。
ここは今、精霊の世界なんだよ!」
「そんな…術を使う一瞬だけならともかく、世界を変え続ける程の力なんて
ワカンタンカ、つまりグレートスピリッツ自身でもない限りは…」
「教えてくれ、そもそもワカンタンカとは何だ?」
「大いなる、意思無き魂の源泉の事です。この世の全てはワカンタンカと繋がっていて、
人間や生き物、世界の物はワカンタンカという木の枝葉なんです。
生き物や物質を枝葉とすれば、精霊はワカンタンカの水や空気です。」
「なるほどな。確か奴は最初に現れた時に、
グレートスピリッツから天啓と力を得た、そう言っていた。
何らかの方法でグレートスピリッツに直接影響を及ぼせるようになったんだ。」
俺自信が完全に荒唐無稽な事を言ってる自覚はある。
だが、歌や踊りだけで巨大化するなんて、それだって同じくらい荒唐無稽だ。
しかもそこから更に巨大化の魔法で倍にする、なんて在り得ないんだ。
「だが奴は何らかの術で世界を作り替えた。 あるいは摩り替えた。
ソーサリス全土が今やグレートスピリッツの支配下にあるんだ。」
「じゃあ何でわたしが巨大化したのよ?」
ルビィが半ば呆れながら訊ねる。
まあ信じられないのも無理は無いが。
「世界を縮めるには何らかの条件があるんだ。
そらく奴とて完全自在に世界を、大きさを操れる訳じゃない。
ルビィが竜になった時、たまたまその条件を満たした。
だからルビィだけを残して世界は縮んだ。
あるいは変身した事で本来のサイズに戻ったか、どちらかだ。」
「どっちにしろ、それは巨大化してるのと同じって事じゃない。」
「まあ世界の内側にいる俺達からすればそうだな。
この現象を発動させる何かを見つける事が、戦いの勝利条件だ。」
そこまで俺は辿り着いた。
後一歩、その条件さえ見つければ…
「良く分からないんだけど。 簡単にまとめて頂戴な?」
「よし…精霊魔王は世界全体に魔法をかけて世界の法則を作り替えた。
ここは今、ソーサリスに似て非なる精霊の世界だ。
何か特定の事をすると巨大化できる。
その特定の何かを見つければ俺達の勝ち、できなければ負けだ。」
「分かったわ! 要はあんたの仕事って事ね!」
「えっ?」
「その調子で勝利条件って奴を見つけなさいな!
それまでわたし達が頑張るから!」
ルビィがカチナに向かって頷く。
カチナも頷き返し俺に言った。
「恥ずかしいですが、わたしにも良くその理屈が分かりません。
ルビィさんの言うとおり、ここはわたし達に任せて海さんは答えを探してください。」
ええー…精霊の事なんて専門外なのに。
「伝説の魔法使いなんでしょっ!
文句を言わずにさっさと頭を使いなさいな!」
ルビィが赤竜の首元から出てきた。
それは下着姿のルビィだった。
自分の姿に気が付くと一瞬だけ身をよじったものの、
それ以上は恥ずかしがらず、俺を包むように優しく抱きしめた。
「あの族長が言ってたわ。 夫を信じろって。
失礼しちゃうわね。 言われなくたって信じるに決まってるでしょ。」
ルビィは炎の巨人達へ向けて旋回する。
炎の巨人達ももはや街を見ていない。
精霊魔王の指示なのか本能的にか、ルビィだけに意識を集中しているようだ。
ブレスを浴びせる準備をしながらルビィは降下する。
巨人達が揃って右手をあげ、唸り声をあげる。
すると巨人達の手に燃え盛る槍のような棒状の炎が現れた。
巨人達が次々と炎の槍をルビィに投げ付ける。
カチナが風の盾を作り槍を防御しているが、
勢いは殺しているものの防ぎきれてはいない。
ルビィが炎のブレスを巨人達の頭上から浴びせかける!
炎のブレスはコーン状に広がる。
いわば火炎放射器だ。
ブレスの中心付近で直撃した数人は全身を炎に焼かれ倒れた。
しかし周囲で炎に巻かれた巨人は苦しそうに悶絶するものの
倒れずに炎の槍で反撃してくる。
お互い炎には強いから致命的な攻撃にならない。
機動力でルビィがやや優勢だが、なにせ数が違いすぎる。
時間さえあれば持久戦でルビィが勝つのだが、
竜の変身は時間制限がある。
このままだと負ける。
やはり精霊魔王ロンガロンガの仕掛けてる何かを、
俺が見破らない限り勝機はない。
奴がソーサリスの世界法則を精霊の世界法則に作り替えた。
世界の法則、ルールを自分たちに有利なものにしたんだ。
ワールド・エンチャント、と言った所だ。
世界の差異、意識も感覚にも知覚はしてないが、
異世界人の俺だからこそ、気付くきっかけがあったのかもしれない。
恐らくルビィが突然、愛とか言い出したのもその影響だろう。
精霊の世界は精神、感情、魂が重視されるに違いないからな。
だが巨大化する謎に届かない。
なぜ世界が縮むんだろう。 あるいは特定の人物の巨大化か。
もう後一歩で、いや、きっかけさえあれば…
何か、何か無いか…!
ルビィも決め手に欠けて攻めあぐねてきた。
どうする?
変身して一か八かに賭けるべきか。
カチナが俺の焦る顔を見て、気遣わしげに微笑んだ。
優しい、いや儚げな笑顔だった。
「ここは私に任せてください。
海さんの本当の出番はこれからです。」
「何か良い精霊魔法があるのか?」
「はい。 氷の女王を私の体に降ろします。
巨人の動きが鈍くなると思いますので、
その隙を逃さず攻撃してください。」
「わかった。しかし、どうやってここから…」
カチナが俺と結索していたハーネスを外した。
まさか!
「後の事は頼みますね。」
ためらいもなくカチナは飛び降りた!
「ルビィ! カチナが! 早く拾うんだ!」
ルビィは無言のまま竜の頭で俺を見つめる。
「ルビィ! カチナを見捨てるのか!?」
「これは決まってた事だったのよ。
族長のお告げを思い出して。
集落を離れる時にカチナにかけた族長の言葉も。」
「っ! そんなものに流されるな!」
だが何を言っても俺自身に返って来る気がする。
俺は持ち時間を使いきったのだ。
だからって割り切れるか!
「何でカチナが、自分たちを虐げた人間を救うために…」
「カチナの生き方を侮辱しちゃ駄目よ。
わたし達には分からないけど、
精霊の教えと導きを信じて生きるって、
海が教えてくれたんじゃない。」
言い返せない。
それは生きるためのちょっとした知恵だとは思うさ。
命を投げうって誰かを助けるためじゃないはずだ!
精霊なんかくそったれだ!
落下するカチナを風が取り巻く。
その風は冷たく、小さな氷の粒を伴っていた。
地表に近づくにつれ風は竜巻のように強くなり
地面が白くなる。霜が降りているのだ。
巨人達は目に見えて動きが固くなり、寒さに凍え始め
悲鳴と怒号を上げている。
炎の槍を作り、カチナに投げ付ける。
だがカチナには届かない。
確かに槍は小さく細くなってはいたが、
竜巻に防がれた訳ではなかった。
カチナは地表近くでいつの間か出現した氷の山に埋もれていたからだ。
「ルビィ!」
俺は泣きながら叫んだ。
ルビィは無言で巨人達に飛びかかり、長い尻尾と首を振り
巨人達を打ち据えた。
壊れかけたロボットのように歩く事すら困難な巨人は
ルビィの打撃を受けると体が文字通りバラバラになる。
巨人達は逃げ出そうとしたがルビィはそれを許さなかった。
俺は視界が涙で歪み、カチナの名前を連呼するだけだ。
「ゲゲェーッ! 何て事してくれちゃってンのォーッ!
糞人間共に味方するシャーマンがいるなんて!
糞グレートスピリッツは怒り心頭ッ! てめえに断罪ユー!
死にさらせ糞ビッチ! ハガラ・ナタ・デリベッ・ザウ!」
空中に浮かび上がる精霊魔法は頭をかきむしり、
両手を頭上で激しく擦り会わせ捩った。
空が一瞬、不自然に苦楽園口なり紫色になったかと思うと
巨大な雷光が蜘蛛の巣のように張り巡らされ、
中央に集まった途端、カチナめがけて落雷した!
カチナを閉じ込めていた氷が粉々に砕け、
カチナの身体が雷に打たれ焼かれる。
鋭い悲鳴と共にカチナは空中に放り出され、
地面に叩き付けられた…
ルビィは声にならない悲鳴をあげる。
「ロンガロンガッ! てめえ! 殺してやるッ!」
絶対殺してやる!
許せる訳があるかッ!
奴は生きていては駄目だ!
「くっ…カチナ、カチナぁ…」
再び涙が溢れてきて声が震える。
「まだ何の御礼参りもしてないのに。
戦いが終わったら皆に紹介して
一緒に旅をしたり、狩りをしたり
氏族と竜種で仲間になりたかったのに…
カチナ許してくれ、カチナぁ…」
「あ、はい。呼びました?」
「はは…カチナの声が聞こえる。
幻聴でも嬉しいや、」
カチナが俺の目の前に見える。
幻覚まで見せてくれるとは。
「本物ですよー」
幻覚のカチナがガッツポーズをしてみせた。
こういう健気な子だったな…
「海、わたしあんたの目の前にカチナの幻が見えるわ…
変なポーズしてるけど、素敵な友達だった。」
奇遇だな…
「って! まさかこれ本当にカチナか!」
「はいっ! 皆さんのカチナです。」
笑顔で応えた!
俺は恐る恐るカチナに手を伸ばして触ろうとする。
その手はカチナの体を突き抜けた。
「やっぱり幻か…?」
「海さん案外エッチですね!
恋人の背中で浮気はしないって言ったくせに!」
カチナが身をよじって照れながら言う。
「海、もしかして、それカチナの幽霊じゃ…」
「ど、どうもそうみたいだ。」
ルビィと俺は認めあった。
「幽霊と言いますか、精霊体ですねー。
しばらくしたらワカンタンカの元へ還るんです。」
「はは…お別れの時間をくれるとは、
粋だなあ、グレートスピリッツ。」
「あのスピリットダンサーのせいで、
世界に精霊の力が満ち溢れてますからねー。
海さんとルビィさんの目にも見えてるんだと思います。」
「カチナ、時間の許す限り見ててくれ。
必ず俺とルビィが仇を討ってやるからな!」
「はあ…そういう仇とかはいいですよ。」
あれ、テンション低いな。
恨みとか無いのか?
「それより、お二人の愛の行方が気になって、気になって…」
ええ…
心残りがそんな事ぉ?
「大丈夫よカチナ! 海は必ずわたしが幸せにするから!」
ええ… !? ルビィさんちょっと。
それは逆じゃね?
甲斐性無しに思われるにも程がある。
「まあいっか! どのみち湿っぽいのは俺に合わないからな。
ガツンとアイツを倒してカチナに見届けてもらおう!」
「そうね! 精霊魔王なんて今すぐ倒してやるわ!」
よし、ルビィのモチベーションも戻ったようだ!
仇討ちといこうか!
「あ、カチナ。ちょっと前に立たれると見づらいから後ろに居てもらっていいかな?」
「はいー。 あ、あれ? なんでしょう、これ? きゃあ~っ」
カチナが騒がしい。
騒がしい幽霊、ポルターガイストかな?
「カチナ、大丈夫か? 熱ッ! なんだこれ手綱が―― ぶっ!」
騎竜具の手綱、いや騎竜具全体が発熱して俺は熱さの余り手を放した。
その瞬間、肩に柔らかくて重いものが圧し掛かる。
「カチナ、ちょっと重――」
「失礼ですねっ! 重くないですよっ!」
カチナがバランスを崩して転び、俺の肩と首に乗っかるように倒れ掛かってきた。
「!? カチナ、なんで重さが!? 実体があるぞ! 俺に触ってるぞ!」
「あれっ? 本当ですね。 海さんのえっちー。」
なんでだ。
振り向いた俺はカチナの姿が変わってることに気付いた。
具体的には服装が変わっていた。
ベルベットのドレスだった上着が、体をぴちっと覆うだけのノースリーブのシャツに
丈が短くヘソが丸出しだ。 これはほとんど水着だな。
その上に申し訳程度のやはりノースリーブの革ジャケット
そして鉢巻だったのがテンガロンハットに変わった。
これは…カウボーイスタイルだ。 カウガールか!
「一体、何が起こってるのよ…」
流石のルビィも唖然した声しか出せないようだ。
俺だってもう状況の変化についていけない!
カチナがぷりぷりと怒り出した。
「もう! 何て事してくれるんですか!
この騎乗道具、人の魂を吸い寄せて捉える罠が仕掛けてありますね!」
――そうだ!
俺とルビィ、というか竜の首は顔を見合わせて目を丸くしあった。
婆様が言っていた…後は魂が入れば騎竜具が完成する―― と。
ルビィが大きな声で笑い出した。
赤い竜の咆哮もどこか楽しげに響き渡る。
「あっはははっ! 悪いなカチナ! そう、それは罠だったんだ!
それに触った最初の人は、騎竜具の精霊として俺達の家族になる運命だったんだよ!」
「ああ、なるほどー。 占いで、精霊となって世を旅する、と言われてましたがー」
占いでも予言されていた事だったのか!
やれやれ、これは誰の筋書きだったのやら…また婆様が一枚噛んでるのか。
しかし、これだからファンタジーは…
大好きだ!
「これで役者は揃ったって事だ! さあ、ロンガロンガを倒そう!」
「当然よ!」
「はい! 頑張りましょう!」
カチナは死し、そして精霊として蘇った。
荒唐無稽な精霊世界の戦いは最後の決戦に突入する。
次回、伝説のタイタンバトル編 第16話「大タイタンバトル!」 お楽しみに。
魂の強さが具現化する。




