14 「大炎上決戦」
いよいよ海が敵の術の正体に迫る
戦いは一方的になった。
元より大きいレッドドラゴンが更に大きくなっている。
身長は30mを越え、全長にいたっては80mや90mはあるだろう。
炎と冷気で対立する属性相性である事に加え、機動力が段違い。
しかも3次元で動けるルビィが圧倒的だ。
右に左に氷の投槍をかわし、炎のブレスを浴びせかける。
カチナが風の精霊魔法でサポートし、避けきれない氷を防御している。
「もう逃げなさいな! 無理に殺したりまではしないわ!」
ルビィが叫ぶが、それは竜の咆哮にしかならない。
「さっきの指揮官を倒そう。 それしか無い。」
「分かったわ! でも指揮官がどれか分からないわよ!」
俺も遠目では見分けが付かない。
「そうだ。 指揮官は身長が一際高かった。 低空飛行で近づいてくれ!」
「了解よ! 気をつけてね! 動きが平面になるから攻撃が当てられやすいわよ!」
カチナが俺の前に出て叫ぶ。
「わたしに任せてください! 風の盾を更に強く張ります!」
「あぶっ! 危ないぞ! 振り落とされたら元も子もない。」
俺はカチナの太ももを握ってを支えた。
そういえば昔、映画でタイタニックってあったな…
どちらかというと組み体操っぽくなってるが。
「ちょっと海…手付きがイヤらしくない?」
ルビィが唸り声で詰問してくる。
嫉妬しとる場合かーッ!
「他意はない! …というか、恋人の背中で浮気するほどの甲斐性はないよ。」
どんなプレイだか。
だが、俺の口から出た恋人という単語は予想以上にルビィの心を躍らせたようだ。
「そっ、ならいいわ! 一気に決めるわ!」
ルビィが再び旋回し、地面スレスレまで高度を下げて巨人の群れに突進する。
スレスレどころか頻繁に腹を擦ってる!
カチナが風の盾の術を強くしたようだ。
風を切る白いマナと陽炎のような揺らめきで正面が見辛い。
そしてここからは俺の仕事、この中から指揮官を見つけねば!
見ろ、探せ! 見ろ、見ろ…探せ…いた!
「右後方! 通り過ぎた、良く見ればわざと少し屈んでいるヤツがいる!」
「オッケー! 上からいくわよ!」
ルビィが急上昇する。
叩き付けられる加速の慣性に振り落とされそうになる。
クリスタの時もそうだったが、ルビィの竜も周辺には慣性制御の場があるようだ。
そうでなければ呼吸どころか目も肺も潰れてる速度で上昇している。
カチナが俺のところに転げ落ちてきて、慌てて抱きかかえて支えた。
「カチナも良い防御だ! 助かるよ!」
「はい。 でも指揮官を仕留めてから、ですね。」
「ああ!」
ルビィがまた「むーっ!」と唸ってる。
言葉で言い訳しても上手く通じそうにないので、
首筋のあたりを擦ってやった。
「ひゃうっ!」
変な声をあげられた。
どうなってるのかさっぱりだな、竜のメカニズム。
「もうっ! エッチな触り方しないでよ!」
「普通に優しく触っただけだぞ。 もう一息だって言いたかったんだよ。」
「わ、わかってるわよっ! いくわよ!」
ルビィはぴたっと止まって急降下に転じた。
慣性制御があるにも程がある!
俺もカチナも体が浮いてるぞ!
カチナは恥ずかしそうに身をよじってるし。
柔らかいし、何だかもう訳が分からん。
「そうだ、そのまま…もうちょっと右、少し上…あいつだ、今走り出した!」
「あれね!」
ルビィはめいいっぱいに息を吸い込み、上空から炎を叩き付けた。
指揮官の全身が炎に包まれ野太い絶叫を上げた。
ルビィは急いで首をもたげ上昇に入る。
俺とカチナはもんどりうつようにルビィの背中にへばりついていた。
「隊長が! バランガがやられた!」
「夏と竜には勝てぬ! 引き上げだーッ!」
フロストジャイアントが口々に悲鳴のような声をあげ、隊列を乱し逃走に入った。
「勝った…のか…?」
俺はカチナを座り直させながら言った。
言った後で気が付いた。
この台詞は二度と言わないと前回誓ったのに。
もちろんまだ勝ってなかったのである。
空にまたもや精霊魔王の姿が絶叫と共に浮かび上がる。
「ムッキャーッ! 何あれ! 竜とか反則過ぎるじゃないですかッ!
ほんッと! 空気読めない奴って嫌いですワ~ッ!
俺様をここまでコケにしてくれるとは命知らずですネッ! フガ・ワッシャ!」
ルビィが「降りてきて勝負しなさいよッ!」と叫んでいるが
竜の咆哮が轟くのみだ。
「バーカ、バーカ! これが真打ち! 最強最後の軍団登場ですよッ!
遠きものは音に聞け! 近くは寄って見て死ねッ!
おいでませ! ファイヤァージャイアーントッ!」
「なん…だと!?」
火の巨人だと!?
そんなものまでいるのか!
同じ炎とか絶望的に相性が悪いじゃないか…
「これは…キツいな。」
「どうしてよ?」
「ルビィの炎が効かないだろ。 効いてもかなり耐えられるだろう。」
「まあ…確かにそうだけど。」
何より、地平から現れた炎の巨人は、その周囲の空気が陽炎のように屈折している。
もう常に体温がかなり高いのだろう。
俺達が近づく間にも、炎の巨人はさっきのフロストジャイアントと同じように
ハカを踊り始める。
こいつらも巨大化するのか!
「見てくださーいッ! 炎の巨人達のこの迫力あるダァ~ェンスを!
しみったれた霜の巨人達より更にパワフリャ! でっしょーぉ?
あっ! せっかくだから映像を中継しますネェ~!
ソーサリス全土の腐れ人間共! これがお前らの破壊神だッ!
イェンガ! イェンガ! シェゲドゥー!」
空中に浮かんでた精霊魔王の姿が消え、代わりに炎の巨人達が映し出された。
巨大なドライブインシアターみたいだな…
俺はやや呆けながらその映像を見つめた。
炎の巨人達は恐らく最初から10mを超える身長だ。
近づいただけで燃え上がっている、
あの木の大きさからすれば12mくらいだろう。
もう大きさの間隔が麻痺してきたように感じる。
そして霜の巨人と同じハカを踊り…
25mはある、大巨人へと変貌を遂げた。
全長はともかく、地に立ったレッドドラゴンのルビィと大差ない大きさだ。
それが明らかに300人はいる。
炎に強烈な耐性のある300人が。
「あ、さってェ~ッ! ここまでは霜巨人のしみったれと同じ事。
だが、見ててくださいネェ~! この俺様の精霊魔術で更にこいつらを…
超ッ! 絶ッ! パワーアップ~プププのプゥ~!
ハゥガ! ギヌロレモゥーボ! ディキディキ! マウノノッ!」
俺達は戦慄した。
俺やルビィだけではなく、ソーサリス全土が恐怖したに違いない。
精霊魔王の術とやらがかかると…
巨人は更に倍に大きくなった。
50m! 15階建てのマンションに相当する巨体だ!
それが300棟…いや、300人!
触れただけで木が燃えるような巨人の群れを300人相手にするなんて…
精霊魔王がゲタゲタと酷い笑い声を空に響かせている。
「ウケる~! 人間のカスども! ビビり過ぎィ~!
どうせこのままソーサリス全土を燃やし歩きますから!
今のうちに好きな死に方で死んでおくといいですヨ~ッ!」
俺は唖然としてしまって声も出ない。
頭も回転してない。
もう勝ち筋が見当たらない。
「海、もう一度キスして! わたしは更に変身できるんでしょ!」
「い、いやダメだ! 二段目の変身は騎竜具が万全じゃないと。
不安定すぎて何が起こるか分からないと婆様が言ってただろう。」
「それでもやるしかないわ! 何が起ころうとこのまま破滅するよりマシよ!」
それはそうだが…やけになるのは、あくまでも最後の最後だ。
ルビィが焦っているおかげで、俺は逆に冷静さを取り戻しつつあった。
「何故でしょう…この辺りの、いえソーサリス全土の精霊の力が増す一方です。」
カチナが真剣な表情でそう呟く。
「奴はスピリットダンサーだ。 何かすれば精霊の力が増すのは当然だろう。」
「いえ、逆です。精霊の力も術として使えば減っていくものです。
あれだけの数の巨人を更に大きくする術なんて使えば…」
道理だ。
そもそも魔法の世界だから気にして無いが、
それでも質量が魔法ひとつで増すなんて現象を引き起こすには
相当の、何かしらのエネルギーが必要であって然るべきだ。
だがカチナが言うには精霊の力は増えている…
そこに精霊魔王の力と巨人達の謎が隠されている事は間違いない。
それを看破して打ち破らねば勝利には届かないようだな。
「ともかく炎の巨人達を止めないと負けよ!
あれが街に到達しただけで大火災が起きるに違いないわ!」
ルビィが決意のこもった目でそう訴える。
正確には竜の頭のほうの目だが。
何かが引っかかる。
そうだ。
俺は何かを知っている。
気付いている。
だが、形にならない。
「そもそも、歌ったり踊ったりするだけで巨大化してるのがおかしいんだ。」
じゃあ実は巨人は巨大化していない!?
ノー。巨人は実体があり、縮尺は見た目通りでルビィが交戦している。
「巨人族ってのは魔法は使えるものなのか?」
カチナとルビィに問うてみる。
「お伽噺の通り、炎や氷の槍を作り出す固有の生得魔法だけね。」
「知能の高い個人が学べば使える事はあるでしょうが、
これほどの大規模魔法はとても…」
そうだ、ここはルビィが言ってた通り、不思議が日常の魔法世界だ。
常識に囚われていては絶対に辿り着けない所がある。
もし実は誰も巨大化していないとしたら。
いやでも、ルビィだって愛の力とやらで巨大化…
巨大化!?
鍵の開く音が俺の脳内に響き渡る。
そうだ、族長が言っていた。
世界に決まった形は無い、と。
そこにいる人次第で自在に形を変える、と。
扉の開く音が聞こえた。
「分かってきたぞ…ルビィ、レッドドラゴンは巨大化してないんだ。」
「どういう事!?」
「そして巨人達も巨大化してはいない。」
俺達が…いや、違う。
「世界が縮んだんだ。」
それが答えだった。
世界が縮む。 ロンガロンガの秘術を見破った海。 だが破る方法が分からない。
時間を稼ぐためにカチナが取った行動とは。
次回、伝説のタイタンバトル編 第15話 「カチナ大復活!」
復活するためには一度死なねばならない。




