46 「終わりの始まり だと思った?」
パッと目が覚めると、俺はベッドの上にいた。
俺の部屋だ。
天井にはまだ星振門の黒い円が僅かに残っている。
俺は帰ってきたのだ!
体中が痛むが、傷は何故か塞がっていた。
手当てされていた訳ではないが、星の世界での時間酔いの影響だろう。
あれ? 時間酔いって何だっけ?
上手く思い出せないな。
確か星渡りと再会して地球の次元へ送ってもらったはずなんだが…
まあいいか。
やりたい事が沢山あるんだ。
まずは履歴書を買いにいくって決めてたんだ。
しっかりしようとかは全く思ってない。
ただ、働きたくてたまらないんだ。
自分を試して、壁に当たりたい。
俺は時計を確認すると、玄関から外へ出た。
正確には覚えてないが、時間はほとんど過ぎていなかった。
ああ、30の誕生日直後だから0時30分程度だったはずだ。
俺はコンビニに向かって走った。
あそこなら履歴書もあったはずだ。
なぜかわくわくと胸が躍る。
ソーサリスでカーラマンに、魔力王に立ち向かった時の
あの恐怖や痛みを乗り越えた俺が今、どこまで出来るかを知りたいんだ。
そうだ、何か資格の勉強もしよう。
頭は相変わらず良くなってないけど、とにかく挑戦がしたい。
きっとまたソーサリスには行ける。
それも案外簡単に。
だって星渡りを俺の元へ来させたのは婆様なんだから。
何年か経って、懐かしいと思ったら今日の事を喜び合うために呼んでくれるさ。
それにルビィやアクエリアスだって竜に変身したがって
俺を呼べ呼べと婆様をせっ突くに違いないのだ。
最後の爆発はきっと皆無事だという確信がある。
だって中心にいた俺が生きてるんだもの。
何らかの魔力やマナの影響は出ているだろうが、クリスタ達なら問題ない。
そしてきっと5年も経てばまた新しいトラブルが発生して、
俺の反魔力と竜の変身が必要になるだろうさ。
決して平和な世界じゃないからな!
だからその時が来るまでにしっかり働いて
一回り成長した俺を見せてやろう。
コンビニに入ると、店員がギョッとした表情になる。
あーそっか。
店員からすると30分前に大量にお菓子を買っていった男が再来店したんだな。
あちこち傷だらけになって。服も全部変わってて。
まあ俺は気にしないさ。
店員は事故か強盗を疑ったようで「警察呼びますか?」と聞いてきたが、
「大丈夫です、大丈夫」と軽く手を振って鼻歌で誤魔化してやった。
履歴書を見つけて買い物籠に入れる。
まるで何でも出来る魔法のチケットのように見えた。
今の俺にとってコンビには宝の山だ。
半年振りの弁当が、お菓子が、ジャンクフードが俺に誘惑の視線を送っている。
ああ…文字通り夢にまで見たカップラーメン!
欲望の赴くまま手当たり次第に買い物籠に放り込んだ。
さあ部屋に戻って祝勝会だ!
なんて、明るい未来を描いていました。
でも世の中そんなに甘くなかった。
部屋に戻って大きなビニール袋3つにもなった食べ物の山をテーブルに下ろす。
今なら全部食べてしまいそうな気がする。
久方ぶりのテレビとPCの電源を入れて俺は文明を取り戻す。
んん…なんかテレビのノイズが酷いなあ。
それにジジジ…と変な音が…
いや待て、これはテレビから出てる音じゃない!
ベッドのほうへ振り返ると、思ったとおりだ。
小さくなっていったはずの星門の黒い穴が大きくなってる!
そしてベッドの上へと人が放り出された。
「きあゃっ!」
一瞬遅れてその細い肩に舞い落ちるのは銀髪。
「クリスタ!」
思わず叫んだ俺の声に振り向いた。
「海くん! 久しぶりです!」
クリスタがベッドから飛び掛るようにして抱きついてきた。
え? 久しぶり!?
次に飛び出したのは華奢でコンパクトな体、これはルビィだな。
そして間髪おかずにアクエリアスも出てきた。
会いたかったです~、と泣きついてるクリスタの頭を撫でてやってると、
出てきた途端ルビィが吼えた。
「海! あんた一年も音沙汰無しなんてどういう事よ!
おかげで今、あたしたちは大変な事になってるんだからね!」
「はい…? 一年!? 俺は今戻って…」
「まあいいわ! 許してあげるからさっさとソーサリスに戻るわよ!
道場が人間教の奴らに包囲されてるわ! 竜になって蹴散らすわよ!」
ルビィはクリスタを抱きしめてる俺をクリスタごと黒い穴に向かって引っ張る。
「ちょっ、ちょっと待て! せめて説明してくれ!」
という俺の声は完全に無視された。
嘘だろ…!
明るい俺の計画が全てパアだ!
そりゃいつかは戻りたいと思ってたさ!
だからってノータイムでとんぼ返りとは!
まだ履歴書だって書いてないのに!
いや、祝勝会すら開いてないのに!
俺は天を仰いで呻いた。
「バカな…早すぎる…」
騒がしい日々はまだまだ終わらない。
第一章 完
ここまで読んで頂き、本当にありがとうございます。
明日から第二章! ルビィと海が巨人族と大乱闘! の予定です。
ここまでの感想、ご意見アドバイスぜひお待ちしております。




