45 「星の世界と時間酔い」
俺は朦朧とする意識を、頭を振って固定させた。
どうなったんだっけ…
ええと、俺は海。ただの無職童貞。
うんしっかりしてる。
いや、してないな。別の意味で。
クリスタとキスしてドラゴンにして戦って…
そうそう、魔力結晶の爆発を止めるために体に埋め込んだんだったな。
失敗したなあ。
自分で反魔力なんて名付けておいて、すっかり言葉に騙されてたよ。
対消滅じゃなくて反発なんだって確認しておくべきだった。
そんな暇なかった気もするけど。
まあいいや。
クリスタ達が無事なら何でもいいのさ。
あれが現実だった事は、この体の傷を見れば分かる。
しかしここは…星の世界だ。
ソーサリスに飛ばされる時に通った所だな。
宇宙空間のように暗くて遠くに星や太陽、星雲が見える。
何でここに飛ばされたか、これも簡単だな。
あの魔力爆発で、あの一帯に高密度の魔力とマナの嵐が吹き荒れて
反魔力の俺の体が存在できなかったんだ。
やはり俺の力は魔力消滅じゃなくて反発だった事が証明されたわけだ。
だから空間を押し出されて隣の世界へ投げ出されたわけだ。
何だか色々大変だったけど、終わってみれば目出度い。
完璧とさえ言っていいくらいだ。
まあ、せめて最後にお別れ会くらいは開いてから戻りたかったけど。
と、いうか弾き出されてここに居るという事は、
元の地球がある世界に戻れない可能性が高いなこれは。
上手い事どこかの世界に飛び込めればいいのだが、
そんな都合良くいかないよな…飛び込んだ世界がまともじゃない可能性のほうが高いし。
体は痛いし、腹は減ってるしで、こんな所は一秒でも早くおさらばしたいが、
今の俺に出来る事は無さそうだ。
反魔力を出せば推進力になるかな?
傷のせいか、また頭が混乱してきたな…
幻覚みたいな景色まで見えてきた。
第一、俺の妻であるグロリアは何で助けに来ないんだ。
お前の頼みだからホームユニバースを救ってやったというのに。
こんな所で遊んでる暇は無い。
早く黒のリヴァイアサンを改造してサイオニクス達と合流しなきゃ。
ってそれはまだ先の話だったな。
…先の話って何だ?
何か混乱してるぞ。
そう、我は界。
海の上位アストラル体だ。
海の奴めが馬鹿をしでかすから我までかような目に会っているのだ。
反地球など最初から消滅させるだけで良いものをウジウジと…
いや違う。
誰だ俺、海です。海くんです。
無職童貞印の海ですよ。
何か朦朧とし過ぎて訳が分からなくなってきた。
死ぬの? 俺…
誰か何とかしてくれ~
早く戻ってサイバネティック司教の典範ワイヤードを壊さないと。
ダメだアクエリアス、それ人肉の缶詰だから!
それは来世の話だっけ?
いや、来世って何だ。
辞めとけ辞めとけ、クリスタ。
お前に神様なんて似合わないよ。
クリストなんて微妙に名前変えてもダメダメ。
だから一緒にドラゴンスレイヤーとか言い出すレオンハルトを倒そう。
いや、これは昨日の話か。
違うな。この軸はまだ固定してない。
ああ…ダメだ。考えていると頭が余計におかしくなる。
もう考えるのはよそう。
眠りたいのに眠れない。
いや、むしろ何百年も寝てた気がする。
「ひっどい有様ね! 次元の暴君がアストラル体で死に掛けてるなんて見物だわ!」
何だこの小さい妖精。
あぁ見た事あるな。
確かそう、星渡りだ。
どこから現れたんだ…?
「貴様、下賤な次元の浮きクズ如きが。暴君の名を知っいてその口ぶり、そんなに根絶されたいか。」
何でこんな事しゃべってんの俺。
「まだ貴方はただの人間よ! 無理矢理に魔法ユニバースから押し出されて時間酔いしてるの!」
「日本語で頼む。マジたのんます。」
「ここアストラル空間はどこのユニバースとも時間軸が影響し合わないからよ!
自分が居た時間軸からズレかかってきて未来と過去の記憶が混濁してるのよ!」
「そうなの。良く分からないけど治してもらえる?」
「どこかのユニバースに早くシフトする事よ! それでしか治らないわよ!」
「じゃあちょっと俺の居た世界へ戻してくれませんかね? 俺に出来るお礼ならなんでも…」
何でこんな次元のフロットサム程度にへりくだってんの俺。
お前らを消滅させないために静かに動く俺の身にもなって素直に絶滅しろよ。
「俺はもう未来の貴方からもらってあるわ、マイロード。」
「あ、元の世界って地球がある所だからね。君と最初にあった場所覚えてるよね、星渡り。」
「なんてこと! この私をあの星渡り(アストラルマイグレーション)と見間違えてたなんて!
私の名前は<星渡し>、気軽にイミちゃんって呼んでもいいのよ!」
何が何だか分からないが、もはやどうでもいい気分だ。
ともかく戻ろう…
光が前方に見えてきた。
俺はその穴へと吸い込まれていった。




