43 「魔力崩壊とマナ津波」
第三者視点です
レオンハルトはけたたましい笑い声をあげながら再び魔力結晶に剣を突き立てひびを入れていく。
海は四つん這いでレオンハルトの足を掴み「やめろ」と呻く。
レオンハルトが煩わしそうに海の顔面をブーツのつま先で蹴り上げた。
そこへクリスタ達が追いついた。
クリスタは手刀でレオンハルトの右手を叩く。
レオンハルトの右手首があり得ない方向に曲がり、彼は音程のずれた声で叫んだ。
「ぼ、僕の右手が~ッ! この売女がッ!」
レオンハルトが常軌を逸している事は明らかだったが、
それでも普段の彼からは想像もつかない言葉にクリスタは愕然として顔をゆがめた。
ルビィとアクエリアスが海を助け起こしている。
海は朦朧としながらも魔力結晶を修復しようと手を伸ばす。
だがルビィが「バカ! 離れるわよ!」と引き剥がす。
その瞬間に海の脳裏に天啓の閃きがあった。
(そうだ。反魔力を出す力はもう無いが、俺の体内には無限の反魔力がある――)
海はクリスタの首輪から伸びる紐を掴み、命令した。
「俺の傷口に全ての魔力結晶をねじ込むんだ。俺の体の内側は無限の反魔力だから!」
クリスタは命令に絶対服従する。
「嫌だよ…海くん死んじゃうよ…」と泣きながら海の傷口に結晶を押し込んでいく。
傷口に当てると確かに成人男性の胴体ほどもある魔力結晶が吸い込まれるように消えていく。
ルビィが叫ぶ。
「爆発するわよ!」
海が力の入らない体から最期の気力を振り絞って叫ぶ。
「だったら早くしろ! 傷口は前後に2つあるんだ! 死にたくなったら手伝え!」
ルビィとアクエリアスも海の傷口に魔力結晶を当てた。
「仕方ないから最期まで付き合ってあげるわよ!」
「海さん1人に押し付けるわけにも参りません。」
口々に覚悟の台詞を述べると、あとは黙々と作業に専念した。
しかし異変は既に起こっていたのだ。
海はそれに気付いた。
失血のせいで視界が歪んでいるのだと思った。
だが違う。これは実際に自分の目の前で蜃気楼が発生しているのだ。
自分の肩口を中心に。
激しい鳴動する。地ではなく天が、大気が鳴動していた。
空の色がおかしい、まだ夕方でもないのに赤紫に染まっている。
霧も無いのに視界が青くなる。
海は自分が致命的なミスを犯していた事に気付く。
反魔力の作用は魔力を消し去るのではない。
魔力に反発し、組み上げられていた術式を崩壊させていただけなのだ。
消された魔力はそこで形を失って霧散する。
だが、純粋な魔力の結晶が反魔力の内側へ無理矢理差し込まれれば…
結晶の最後1つをねじ込んでいるクリスタに命令する。
「クリスタ、全力で二人をここから離れさせろ!」
消え入りそうな声しか出なかったが、クリスタの耳には届いた。
絶対服従のクリスタは二人の手を引いて走り出していた。
海の与り知らぬ所ではあるが、ジャダ・ドルゲスタはそれが研究のテーマだった。
究極まで圧縮し物理結晶化した魔力を更に圧縮させ、開放させる。
その時に発生する魔力は開放のエネルギーで波の性質を持ち、マナへと波及する。
魔力波によって励起されたマナの振動は自身の振動を増幅し、驚くべき速さと範囲で共鳴現象を起こす。
海の中に押し込まれた魔力は、逃げ場の無い反魔力でたった1点に集中した。
ジャダ・ドルゲスタが100年かけて集積した、物理化するほどの量の魔力が
海の中で圧縮し、臨界点に達した。
「まあ、俺にしては上出来かな…」
海がこの世界に来て3度目の事を口にした。
海の反魔力の場が崩壊し、物理崩壊して波となった魔力が開放された。
文字通り、世界中が光で満たされた。
魔力場崩壊によるマナ津波がソーサリスの星を覆った。
世界の法則が崩れたのである。




