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竜種少女と静かに暮らしたい  作者: るっぴ
第一章 「竜の魔法使い伝説編」
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36 「ドラゴンブレス」

ほのかに輝く白い竜は優雅に空を一周した。

目の前に落ちた落雷もかくや、という声量で吼えた。

その場に居た魔族と兵士は戸惑い、逃げ出した。


…のだが、俺の耳にはその吼えた声が同時に通訳されて耳に入ってきた。


「やっほーーーぅ! 海くぅ~ん! 見てみて~! わたし、竜になったよぉ~!」




…色々台無しだ。これは俺にしか聞こえてないのか?


周囲を見回すとパニックになっている者ばかりで、

どうもこの声を通訳されてるのは俺だけらしいとわかる。


どの道、俺達にはシリアスは似合わないって事だったんだな。

分かってみれば簡単明瞭。

童貞だからこそ使える能力。

童貞だからこそ辿り着けない答え。

取扱説明書は分かりやすく書いてくれって事だ!


「あっ、成るんじゃなくて纏う、だっけ? えへへ~

 なんかフワフワして空を飛んでるみたいだよ~ って飛んでるし~」


喉をゴロゴロ鳴らしている。あれは笑ってるんだろうな。

巨大な猫だ。でも音量は雷鳴そのものだ。怖い


「傷口が開かないといいけどな。」


と小さな声で呟いた。が…


「大丈夫、大丈夫。触っても傷跡ないし~! あっ これ竜の体だからかな?」


んん!?

今、風に消えそうな小さな声でしゃべっただけなんだが…

魔法的な何か、地獄耳なのか…?


「あっ! ルビィ! アクエリアス! 大丈夫? 今助けるね!」


今にも止めを刺されそうだったルビィとアクエリアスの前に立ち、カーラマンを見下ろした。

カーラマンの身長は3mをゆうに超えていたはずだ。

それを基準にして概算で5倍ほど…うむ、20m近くあるなあの大きさ。

二本の足で立って20m程だから全長で計れば50mは超えているだろう。


「もっとスマートなイメージだったけど、意外と胴体は太…」


「太ってないよッ!」


やべっ 口に出してたか今の。

クリスタはカーラマンを尻尾で吹き飛ばしながら吼えていた。


カーラマンも必死に6本の武器でガードし、転倒こそ免れるも何十メートルも地面を引き摺られている。

全力で6本の武器を尻尾に叩き付けるも、全く傷付いていないようだ。

遠くから見てる事もあって、もうサイズ的に勝負になるはずがない。


「この…ッ! 化け物めがっ!」


お前が言うな、6本腕。

俺はルビィとアクエリアスの元に駆け寄って助け起こす。

あの場所に突っ立ってたら魔力王に殺されかねないし。

二人はクリスタの姿に、竜の顕現に呆然としていたが

俺が助け起こしに行くと平静を取り戻し、生存したという安堵に表情を緩めた。


アクエリアスは俺の肩を借りて辛うじて立ち上がる。


「これが…伝説の竜なんですね…海さん。」


「細かい事は後で説明するけど、キスして口から反魔力を渡す。これで変身できたよ。」



まあ、と小さく呟いてアクエリアスは笑った。


ルビィはその場で大の字になって寝転んだ。


「あー疲れたわ! この私がピンチになるなんて信じられない!」


竜気の二段目を発動してたら、そうも言ってられる状況じゃなかっただろうけどな。

俺も3人同時に変身させるほどの反魔力は残ってないし。



クリスタの再度の尻尾攻撃をカーラマンは飛び上がってかわした。

そこへクリスタこと白竜は首をもたげ口でキャッチした。

いや、噛み付いたのだ。


「どうしよう海くん…凄く不味い…」


涙声で訴えかけてくる。放したらどうですかね。

むしろ何故食べようと思った。


カーラマンは体のあちこちを竜の牙で貫かれ、首を振った勢いでボロ雑巾のように遠くに捨てられた。

派手に土煙を上げて地面を引き摺り、動かなくなった。


いいぞ! さすがドラゴン、無敵だな!



「よしクリスタ! 倒そう、魔力王を!」


「はい! 頑張りますね!」


殊勝なドラゴンですこと。中身がクリスタだから当然か。

でもガッツポーズをするドラゴンはあまり可愛くなかった。


混乱の中を縫うようにして婆様とエミィが辿り着いた。


「海よ、でかしたぞ! おまえは伝説を成し遂げたのじゃ!」


「やりましたね。でも全ては魔力王を倒してからです。」


婆様はそうじゃな、と言いながら頷いた。

エミィは俺に抱きついて泣いている。感動からか、皆が無事だった安堵からか。

婆様はエミィを手伝わせ、ルビィとアクエリアスの手当てを始めた。


俺の手も指紋が無いとか言うレベルじゃなく削れてるんでお願いします。

血ぃ止まんない。


クリスタこと白竜は魔力王の前に、地響きを立てながら進み吼えた。


「もう貴方に勝ち目は無いわ! 降参しなさい!」


通じてないだろうなあ。


「良かろう。魔力王の名が伊達ではないことを証明しよう。」


うん、さっぱり通じてないようだ。

魔力王ドルゲスタの身長は5m程、そのほとんどが魔力結晶と集積装置で構成された巨人だ。

対する白竜こと現在のクリスタは立ち姿で約20m、6~7階建てのビルに相当するほどの巨躯きょくである。


至極普通の成人男子サイズである俺から見れば、それはもう怪獣同士の戦いであった。

大きさだけではなく、その戦い方もだ。


先に仕掛けたのはクリスタ。

尻尾を勢い良く振り回し、体を半回転させて魔力王の右側面に叩き込む。


ズドムッ!


魔力王があの脈動する結晶剣を使ってブロックした。

地面を10m以上引き摺られたものの、ダウンするどころかバランスを崩してもいない。


先の人間の姿だったクリスタとの戦いでボロボロになったマントを翻しながら外し、

獄炎緋毛氈インフェルノカーペット! と叫ぶと同時にクリスタの尻尾に被せる。

マントがするすると尻尾に沿って伸び出し、突如パッと発火し黒い炎がクリスタの尻尾を燃やした。


「熱い! 熱いよ、海くん! 消して~ぇ!」


いやー…俺に言われましても。もう着いていけないレベルですし。

あ、でも魔力の炎なら俺に消せるのかもしれない。


でも嫌だよ。熱さで尻尾滅茶苦茶に振り回してるじゃん。

あんな所に近づいたら絶対ミンチになるに決まってる。


「ドラゴンって吐息攻撃ブレスとか吐かないのかな?」


俺はクリスタを指差し、婆様に問いかける。

その瞬間、白竜が大きく吼えた。


「それだぁ! 忘れてたよぉ!」


ドジっ子ドラゴンなんて嬉しくないなあ…

クリスタはその長い首を大きくのけぞらせると、口から白いブレスを吐き出した。

あれは冷気と吹雪のブレスか。


周囲の温度が更に下がったようで、俺達は寒さで震えだした。

クリスタの尻尾は霜と氷に覆われ、燃えていた黒い炎は消えた。

尻尾を一振りし、クリスタは霜と氷を振り払う。


「素晴らしい。呪いの炎すら消し去るブレスとは! ますます興味深いッ!」


魔力王ドルゲスタの声に熱が籠もる。

両手で構えた結晶剣が巨大化し、魔力王の身長以上に長い刀身となった。

脈動する結晶剣を大上段に構えクリスタの腹に向かって切りかかる。


腹はドラゴンの弱点のひとつだ。

体を自由に稼動させるために鱗が張り巡らされていない。

地の肌のみなのだ。

それはクリスタこと白竜も例外ではなかった。


――が、それでも魔力王の脈動する結晶剣がクリスタの体を傷付ける事は無かった。


「痛ッ! エミィの寝返りキックより痛いよっ!」


基準が分からない。

振り向くとエミィが右手を頭の後ろにやり、えへへと照れ笑いしてた。

エミィはクリスタの言葉が分かるのか。


クリスタは痛い痛いと言いながらも再度尻尾を魔力王に叩きつける。

多分、もう噛み付きはしたくないんだろうな…


魔力王は既に万全の反撃体制であった。

腰溜めに深く構え、結晶剣を突きの構えでカウンターを放つ。


ガキィン! ジャリジャリッ!


クリスタの鱗が二枚、三枚弾け飛んだ。

初めて流した竜の血は普通に赤かった。

一際大きな吼え声が響き渡る。


だが、俺の耳には「ぴいっ!」という声に変換されている。

尻に画鋲が刺さった程度なんだろう。



なんと言うか、もっとこう、ドラゴンには尊大で威厳のあるしゃべり方をして欲しかったなあ…

アニメでキャラ性を無視して、素人の俳優や歌手が声当てしてるのを見てる時の気分だ。

聞いてる側が気恥ずかしい感じで、もやっとする。


「硬い。これがマナと魔力で構成された体だとは、見て尚、到底信じ難い!」


魔力王はそう叫ぶと地面に突き立て、その柄の先に両手を重ねて何かの呪文を唱え始める。


「良いだろうホワイトドラゴン。貴様をS級カテゴリの敵と認識しよう。

 魔力結晶5番から10番までを開放、安全装置解除、マナベントフィルタ除去。」


ゴウンゴウンと鳴動させながら魔力王の背中に巨大な結晶がびっしり生えてくる。


「まずい! クリスタ! 奴にそれを使わせるな!! ブレス攻撃だ!」


クリスタが吼え、吹雪のブレスを魔力王に叩き付けた。

俺の耳に入ってくるクリスタの地の声の「あ゛~!」というのは無視しておく。

扇風機に向かって「我々は宇宙人だ」的な感じだ。竜人だけど。


魔力王の体が霜と氷に覆われていき、完全に停止した。


「…や、やったか?」


俺は尻尾を嬉しそうに振り回すクリスタを無視して魔力王に近づいた。



もちろんやってなかったのである。



シリアス終了

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