23 「開戦と決戦」
夜が明けつつある。空が次第に青く、そして青紫へと変化していく。
俺達の後ろで城門が閉ざされた。
城壁の外は俺とクリスタ達、計四人だけだ。
守備兵が城壁の上へ待機しており、他の兵士は都市の東側で待機している。
クリスタ達が俺を護衛し、俺が魔力王の集積装置を反魔力で壊す。
これしか勝機は無い。
そう
俺は竜の魔法使いになれなかったのだ。
目の前にはなだらかな平野が広がるのみだ。
それまであった家屋などの建造物は、敵に利用させないため全て撤去されている。
互いの顔を確認して松明を捨てて歩き出す。
地平にはもう黒い塊となって魔力王の軍勢が浮かび上がっていた。
怖い。死ぬのが怖い。痛いのも嫌だ。
だが奴らは、初めて見つけた俺の居場所を奪いに来た。
俺には抗う事しかできない。
魔力王の軍勢が目前に迫ってきた。
鬨の声をあげ、威嚇してくる。
敵は魔族、ゴブリンと呼ばれる体毛の無い緑肌の亜人
コボルドと呼ばれる犬の頭をした短い体毛に覆われた亜人
オークと呼ばれる豚の頭をした贅肉に覆われた亜人
そして魔獣、狼やハイエナなどが巨大化し、凶暴化した者達だ。
奴等は知能が低く、攻城戦はおろか機械的な兵器を扱うこともできないが、
魔力王は容易く城壁を無力化できる。
敵は総勢約五万
知能が低いはずの亜人達が綺麗な隊列を組んで前進してくる。
魔力王の魔力で操られ、統率されているのだ。
魔族達の鬨の声に反応したかのように、守備隊が遠矢を射掛ける。
それは統率されたものではなく反射的に放たれたもので効果は低かった。
だが、逆にそれが幸いし攻撃が密になる所と疎になる所の差を生じた。
防御に手間取った隊が遅れだしたため、敵の進軍は乱れ始めた。
クリスタはその隙を逃さず、突撃を開始する。
ルビィ、アクエリアス、そして俺がその後に続く。
後方、城壁に向かって大きく合図をして作戦開始のタイミングを指示した。
受領の印であるラッパの音が響き、旗が振られる。Okだ。
戦いの火蓋は切って落とされた。
クリスタが剣を一振りすると何人もの亜人達が血煙を上げて倒れた。
ルビィがクリスタの両脇を支え囲もうとする亜人を切り伏せる。
俺が慌てふためきながらその後ろに続く。
アクエリアスが後ろを牽制しつつ、味方からの矢をも切り払う。
あまりの突撃とその戦闘力に亜人達はおびえ、俺達の前に立ちはだかるのをやめた。
魔力王はもう目前に迫っている。
クリスタの周囲に白い煌く光の粒がいくつも見え始めた。
竜気を発動したのだ。
マナを無限に吸収し、無限に強くなる。
だが、人間の体は無限の力に耐えられるはずも無い。
パワーはいくらでも増えていくが、体への負担が減る事は無く加速度的に負荷がかかっていく。
臨界点を超えるまでに解除しなければ理性を失った狂戦士と化してしまう。
解除すればパワーで誤魔化していた負荷が一気に体を疲弊させる。
つまり敵陣で竜気は解除できない。
もう、俺達に戻る道は無くなったのだ。
ただ魔力王を倒し、生じる混乱に乗じて生を得る。
そんな細い糸のような希望だけを信じた。
いや、信じてはいなかったが、すがるしかなかったのだ。
潮が引くように魔力王までの亜人達が脇へ逃げ、クリスタは一気に突進しようとした。
クリスタが腰溜めに構えた刹那、彼女を影が覆う。
ルビィがクリスタに向かって「上ッ!」と短く警告する。
クリスタが素早く身を引いたその場所を大きなカトラスが1度、2度切り刻み、地面に切れ目が入った。
地響きと共に巨漢の男が着地する。
浅黒い肌、二本の角と太い牙、両の手に持った二本の巨大カトラス…高等魔族カーラマンだった。
「魔力王軍副官、カーラマン、全力の…三倍でお相手致す!」
カーラマンが両手を高く掲げると、腕が縦に3分割された。
かと思うとそれぞれが同じような元の腕に一瞬にして復元された。
正面からでも見えるほど背中の筋肉も隆起している。
気がつくとどんな仕組みか魔術なのか、武器まで三本ずつに分裂していた。
出てきやがった。
予想通りだが相手にはしたくなかった。
元より俺が相手できるタイプの敵ではない。
増えた腕を反魔力で消すことくらいはできるかもしれないが、構ってる余裕が無い。
カーラマンは6本の腕と武器全てを使ってクリスタに襲い掛かる。
クリスタは高く、高く跳躍しカーラマンの剣を四本かわし、二本は武器で受けた。
竜気を発動しているクリスタの動きは、カーラマンの予測を裏切った。
魔術大会の時と同じく竜気を発動してないクリスタだったら今の攻撃は避けきれなかっただろう。
だがクリスタの跳躍は高すぎた。
加速度的に高まる身体能力を制御できてないのかもしれない。
カーラマンは空中でひねりを加えてバランスを取るクリスタに向かって全力で剣を突き出した!
その瞬間、カーラマンは右に体勢を崩し倒れた。
ルビィとアクエリアスによって背後から右足と二本の左腕を見事に切断されたのだ。
クリスタに夢中になり過ぎ二人から注意を逸らした結果であった。
ルビィとアクエリアスを取り巻くように乳白色の白い粒子が渦巻いている。
二人とも竜気を焚いていたのだ。
「そうか! これが伝説のドラゴンの闘気か!」
残された四本の腕で飛び上がり、クリスタ達の追撃をかわした。
切り落とされた足と腕は既に新しい骨が生え、紫のような赤黒いような肉が蠢き再生しはじめている。
カーラマンは口も裂けんばかりに口角を上げ笑った。
戦う事が楽しくてたまらないって顔だ。
俺には一生理解できないね。
注意が自分から逸れたと見るや、今度はクリスタが跳躍攻撃を仕掛ける。
カーラマンは同じ手は食わぬとばかりに左の再生中の腕でクリスタの斬撃を強く弾き飛ばす。
だがクリスタはその弾き飛ばされた勢いを利用し、魔力王の目の前に降り立った。
ムッ!と声を上げるカーラマンの前にルビィとアクエリアスが回りこみ、追撃を阻止した。
アクエリアスが俺にアイコンタクトを送り、俺は慌ててクリスタの後を追いかける。
あまりのハイレベルな戦いに呆然としていたが、ここは敵陣真っ只中であり、俺は剣を使えないのだ。
クリスタを前にした魔力王がついに動いた。
高く掲げた右手の掌が暗くなる…いや、黒く光っている!?
黒から紫の煙のようなものを吐き出し始めて急速に巨大な玉となる。
「伏せてッ!」
反魔力を練っている暇なんて無かった。
俺は恐怖心のなすがままに頭を抱えて地面に転がり込んだ。
何やってるんだよ、俺ェ!
ゾブゾゾッ…!
黒い光とも言うべき玉が鈍い音を立て直系5mほどにもなったかと思うと、
途端に魔力王と城塞都市の巨大な鉄門が黒い帯で結ばれた。
魔力王の破壊のエネルギー球が射出されたのだ。
あまりの速度で射出されているため、突然魔力王と門の間に黒い帯が出現した、としか見えない。
それは門を貫通し、都市の西区画の地面に着弾した。
音も無い光で周囲は満たされた。白い光で全ての者が視界を奪われた。
直後に俺は吹き飛ばされた。それは鼓膜を打ち破るような轟音だった。
吹き飛ばされ地面を転げまわる痛みよりも耳を押さえてうずくまる。
聞こえなくなった耳を気にしながら立ち上がると俺の目の前に巨大な岩の様な塊が墜落した。
ドロドロに溶け崩れた城門であった。
「うそ…だろ…!?」
震えながら後ろを振り向くと…
城塞都市の西壁と門は瓦礫もまばらに消え去っていた。
角度的に今の俺には見えなかったが、都市の西区画が丸ごと消滅したのだ。
城壁にいた守備隊と共に。
こんな奴を倒さなければならないのか!
いくら反魔力があるとは言え、あれを食らえば体の表面が吹き飛ばされて即死してしまう!
一撃で人体模型図になる事は疑いようも無い。
したたかに地面を転げ回されたおかげで、俺はクリスタの隣にいた。
どうやらそのまま魔力王の足元へ転がっていくのをクリスタが掴んで支えてくれたらしい。
ともかく辿り着いたぜ魔王野郎!
お前が可哀相だとかは絶対に思ってやらねえ。
守備隊千人以上を殺しておいて表情ひとつ変えない様な奴に同情なんて無理だ。
クリスタが引き付けて俺の全力の反魔力で奴の体の魔力装置を破壊する。
タッチダウンを決めればハッピーエンドだ!




