20 「対策と方針」
城塞都市は夜が更けても喧騒に包まれていた。
避難のために家財道具をまとめる人
持って行けない財産を処分する人
食料や旅の道具をかき集める人
護衛団に相談をする人
そして迎え撃つ兵士達だ。
館に戻った途端に領主の使いが来訪し、クリスタ達3人は要請通りに参戦を誓約した。
婆様とエミィは避難するように指示が下されている。
俺はものの数に入ってなかった。
連絡体制や警備などについて一通り打ち合わせをし、使者は館を去っていった。
つい先ほど魔術大会が終わり、魔人と戦ったのに何故か既に遠い過去のように感じる。
これから大きな戦が始まるのだ。
「とりあえずは体を休めよ。準備も色々せねばならぬが、何はともあれ明日からじゃ。」
そう婆様に促され、俺達は買ってきた夕食で済まし部屋へ戻った。
だが、やはり眠れるはずが無かった。
ノミの心臓だもの。不安が渦巻いて眠るどこじゃない。
寝返りをうつのにも飽き、仕方なくリビングへ降りていく。
酒でも飲んで無理矢理寝よう。
リビングには婆様とクリスタ達3人がいた。
俺と同じく寝付けないか、起きてしまったかのどちらかだろう。
「なんじゃ。お前まで起きてきよって、初めての実戦で疲れておるじゃろう。」
「傷が熱を持って火照ってどうにも。寝苦しいですね。」
適当な事を言って席に着く。
クリスタがどちらにしますか? と酒の瓶と茶葉の壷を両手に持って聞いてきたので、お茶をもらうことにした。
お茶が用意されるまで全員しばらく無言であった。
婆様がお茶をすすり、大きく息をすると俺に向かって語りかける。
「海よ…おまえに以前頼んだ事を覚えておるか?」
「エミィの事ですか。」
「うむ。」
「でしたらお断りします。俺はここに残りますんで。」
「ならぬ。おまえが前線で命のやり取りをするにはまだ早すぎる。」
嘘偽りの無い言葉だ。確かに怖いし、おそらく危なくなったら逃げるか命乞いするだろうなあ。
半分以上は見栄かもしれないけど、それでも一緒に戦いたいんだよ。
「婆様が俺を竜の魔法使いと認めたんでしょう。ならば俺が居るべき場所はここのはずです。」
「海よ…」
「エミィは聡い子です。俺達抜きでも向こうの道場で幸せにやっていくでしょう。」
「海よ…ああ、海よ…」
婆様が珍しく迷ったような顔を見せ、俺の名前を繰り返す。
「…言わないでおこうと思ったが仕方ない。海よ、おまえをこの世界に呼び寄せたのは、このわしじゃ。」
「マジですか。」
「ああ、わしが長い時をかけて、あの星振世界の精霊<星渡り>を呼び出し契約したのじゃ。
異世界からの魔法使いを探し出し、連れてくるようにとな…」
「でも、ならば尚更でしょう。俺は反魔力という能力を使えます。
魔力王に対抗するにはうってつけの能力だ。」
「だが伝説の竜の魔法使いとしはまだ目覚めておらぬ。」
俺は椅子から勢い良く立ち上がり、でも! と言いかけてクリスタ達3人の視線に気付いて席に着き直す。
「全ては遅すぎたのじゃ。それでもお前が生きている限り、希望は潰えぬ。
逃げ延びて竜の魔法使いと成れ。わしら四人がその時を稼ごう。」
「嫌だね! 第一、後10日ある。まだ遣り残したことがあるはずだ。」
四人の心配げな表情をよそに俺は参戦を主張した。
そんな顔しないでくれよ…俺にとってだって、もうお前らは家族みたいなモンなんだよ…
「必ずなってみせます。だから俺をのけ者にしないでください。」
婆様のため息をよそに俺はクリスタの腕を取る。
「それに俺はクリスタと将来を誓い合ってるんで。そこんとこ大事でしょ!
逃げ延びるのは婆様ですよ。例え俺がダメでもまた次の候補が来てくれるかもしれないんだから。」
照れて縮こまるクリスタ。
困り顔から仕方ないなと諦めの混じった笑顔に変わるルビィとアクエリアス。
婆様は馬鹿者が…とだけつぶやいた。
「だから婆様、俺に知恵をください。魔力王を倒すにはまず奴の事を知らなきゃ。」




