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竜種少女と静かに暮らしたい  作者: るっぴ
第一章 「竜の魔法使い伝説編」
2/86

2 「お風呂と裁判」

僕です。 海です。


ただいま僕は濡れタオルで両の手を縛られ、膝をついて俯き加減に床を見せられています。

首筋の後ろに鉄の塊――どうやら剣ですね――を当てられていて、冷や汗が頬から顎を伝い床に落ちてます。


ここは大浴場、血がたくさん出てもすぐに洗い流せて安心ですね。


腹も括って少し落ち着いてきたので、上目遣いで周囲を確認する。

正面には肉付きの良い体をタオル一枚で隠し、涙目で俺を見てる長い銀髪の少女。


その銀髪少女に寄り添い、背中をさすったり優しく叩いてる青い長髪の少女。


俺の右後方から首筋に大剣を当て、

釣り目を更に釣り上げながら見下ろす小柄な赤髪の少女。


左手側にはやはりタオル一枚の体で、俺を珍しそうに眺める緑の髪の少女。


そして今、初老のやや腰が曲がった、口元と目元に皺が刻まれた老婆が来た。

あれが裁判長か…


初老の金髪婆さんが何か少女達に話しかけている。

かなり英語に近い。

単語はほぼ英語だが発音と文法が違うようだ。


いくつか言葉を交し、婆さんはため息を付いて肩をすくめた。

手にした杖の先で俺を上向かせると、何か問いかけた。


「お、俺は…その…変な妖精に飛ばされて、ここに落とされたんだ!」


しどろもどろに言うと、赤髪の少女が俺に突きつけてる剣に力を込める。

苦しくなり、ぐえっとカエルのような声を出した。


ここはファンタジーな世界なんだろうか。

妖精に宇宙みたいな空間に放り込まれて着いたんだからな。


もうこうなったら矢でも鉄砲でも持ってこい。

出てきたのは美少女のお尻とおっぱいでしたが。

ごちそうさまでした。


老婆が手をひらひらと泳がせながら、自分の喉元をトントンと指で突き耳を両手で覆い、何かつぶやく。

老婆の手と喉から粉のような煌く粒子が周囲へと漂う。


俺の額の中央に両手の薬指を当てながら、一際大きな声で何かを宣言した。

煌く粒子の様な物が俺の体に纏わりついては弾けて消えていく。

そして俺に再び何か問いかける。


「だから不可抗力なんです。 ほんまはええ奴なんや!」


俺は涙目で訴え、助命を嘆願した。

それを聞いた老婆は片目だけを大きく開き、もう片方の目をしかめて首をかしげた。


何かこれは…そう、おそらく魔法のような術を使ったのかも。

洗脳か…自白の術か…いや、多分通訳的な何かだ。

伝われ! 俺の熱い助命嘆願!


老婆は再び喉をトントンと、耳を覆いながら何かを唱えた。

そして自分の額に両手の薬指を当て声に力を込め問いかける。


「お前はどこから来たのじゃ?」

「ッ! 日本語だ!」


その言葉を俺は理解できた。

魔法だ!


「俺は地球という星の日本から来た。

 名前は溝呂木 海です。」


老婆は大仰に頷いた。


「どうやって来たのか。 自分の力で星を渡ったのかい?」

「いや、光る妖精…そうだ、星渡りと名乗ってた。

 そいつに黒い穴に放り込まれて、ここに落ちたんだ。」


ほう、と老婆が小さく嘆息し、杖で俺の左肩をポンポンと叩く。


「お前は魔法を使えるのか?」

「ええっ…? いや、使えない、ですけど…」


「はて…? あれは魔法使いをこちらに迎える使命を負っているはずなのじゃが、お前は違うのか。」


「そういえば、妖精にも魔法使いかどうとかか聞かれたけど。」


「何か魔法の道具を使ったり、身に着けていたりしたか?」


「直前にたまたま魔法使い、という言葉を口にしただけで…」


「つまり妖精が早とちりしたわけじゃな…?」


「はい、多分。 そもそも俺の世界では魔法は存在しないんですよ。

 童話やゲームの中だけのもので。」


「存在しないものが話には登場するものかの?

 にわかに信じがたい。 それに…」


老婆は俺の喉元を再び杖でしゃくりあげた。


「存在しないものの対処法を知っているはずが無い。

 お前は今わしの通話魔法をレジストしてのけた。」


「レジ…レジスト? えーと…抵抗したって事?」


「とぼけるか。 部分抵抗ならともかく、完全抵抗をしてのけるのは訓練された魔法使いだけじゃ。」


「そんな事言われても、俺は本当に魔法使いじゃないんですよ!」


「確かに抵抗した様子すら無かったが、お前の世界では誰もが魔法への耐性がそんなに高いのか?」


「魔法を見た事も使われた事も無いから分からないですよ。」


老婆は軽いうなり声を上げて、俺越しに湯船の上を見た。

俺が出てきたと思われる黒い穴の名残なのか、天井付近が暗く像が歪んで見える。


「さて…どう判断したものか。 魔力を持たぬ者が星門を通れば、普通は死にかける程消耗するか、世界の法則に逆らえず変容するはず。

 お前が無事に星門を通過した事こそ、魔法使いの証のようなものじゃが…

 アクエリアス、どう考える?」


アクエリアスと呼ばれた青髪の少女は、老婆に向かって返答を重ねていくが俺には理解できない。

どうやら老婆の言葉しか通訳されてないみたい。

老婆は手を上げアクエリアスと呼ばれた少女が、つらつらと説明らしき言葉を連ねるのを遮る。


「まあ、洗脳やすり替えの可能性はゼロに等しいじゃろ…

 ちょっと間抜け面で挙動不審じゃ。」


クソババアぁ…!


俺がキレかけた事など気にも留めず、赤髪の少女に向かって同じ問いを投げかける。

彼女は鼻と喉にかかるような甘い声で勢い良く老婆に答えていく。

だんだん言葉が熱を帯び、身を乗り出すようしゃべり始めた所で老婆に制止された。


「落ち着くのじゃ。 殺した所で何も解決せぬ。」


おい! 何てこと言っちゃってくれるんだ!

このちんちくりんめ!


「クリスタは…まだ落ち着いておらぬか。 エミィはどう思う?」


老婆は少し優しい声色でエミィと呼ばれた緑髪の幼女に問いかける。

幼女は俺の顔をまじまじと見つめた後、笑みを浮かべ両手を広げたり振ったりしながらしゃべっている。


どうやら謎の好感触ムード。

頼むぜ幼女、俺の命は君にかかっている!

老婆は頷くと再びかき回すようにエミィという少女の頭を撫でた。


「まあ、そんなもんじゃろう。 ここはエミィの勘を信じよう。」


おおっ!?


「お前を解き放とう。 ルビィ、自由にしてやるのじゃ。」


たーすかったーぁ!



ルビィという赤髪の少女とアクエリアスという青髪少女は、口々に何かを老婆に話している。


恐らく抗議をしてるんだろう。

老婆にたしなめられ、渋々ながら俺を縛っていたタオルを解いた。

俺は大きく肩で息をして、その場に尻餅をつく。


老婆に言いつけられたエミィという幼女は、スキップするような足取りで風呂場を出て行くと革のマントを持ってきて俺に貸してくれた。


そう言えばびしょ濡れだったんだ。

冷えてくると服が体に張り付く感触が、何とも気持ち悪い。

着ていたトレーナーとジーパンを脱いでマントを羽織ると、案内されてリビングに通された。


老婆はどうやら4人の少女達にも同じ魔法を使っているようだ。

その様子を見てると、わずかに煌く塵のような光が老婆の手と杖からあふれて体全体に漂い、それが少女に移って消えていった。


「ほれ、終わったぞ。 お前たちも海と直接言葉を交わしてみるがよい。

 こやつは危険な男では無い。」


老婆は俺のほうを向いて大仰に頷く。

どうやら自己紹介を促しているようだ。


「お、俺は溝呂木 海。 地球という星がある世界から来た30歳の男です…

 今はその、在野の士と言った所で…」


無職とは流石に言いたくなかったので、適当な言葉を引っ張り出して誤魔化した。


互いを見詰め合ってた少女達だが、

4人の少女の中でリーダーなのか銀髪の少女が最初に口を開いた。


「は、初めまして。 私はクリスタ。 クリスタ・ドラゴニス。」


「海です。 その、さっきはゴメンな。

 いきなりここに落とされて何が何だか分からなくて…」


「そ、それはもういいよ。 私も混乱して色々投げつけちゃったし。」


「お詫びなら何でもする。 だから許して欲しい。」


「うん…じゃあ聞かせて? 貴方の世界には本当に魔法はないの?」


「ああ。 少なくとも俺は見た事も無いし、テレビやウェブでも魔法を使える人は見聞きしないなあ。」


「テレビ? と、蜘蛛の巣?」


「あー…テレビは電波化された情報を受信して映像化する装置で、ウェブというのは情報を…」


「ごめんなさい。 ちょっと何を言ってるのか分からないわ…」


「い、いや、いいんだ。要するに遠くにいる人と情報をやりとりする便利な装置だよ。」


クリスタはその長い髪をタオルに押し当てて、水分をふき取りながら俺に語りかけている。


もちろん俺がマントに着替えてる間に着替え終えている。

薄いピンク色のオフショルダーなニットだ。


よくあれでずり落ちないなあ…と思ったけど、あれだけたわわなら当然か。

ニットの下にはノースリーブのぴっちりとしたクロスホルターネックのトップスを着ている。

下は白い緩めタイトスカートだ。


俺がまじまじと胸に目線を送っていると、クリスタがその視線にいたたまれなくなり白い肌を桃色に染めて縮こまってしまった。



「変態… いい加減にしなさいよね。 男の子なんて皆フケツ。 いつも私が言ってた通りね。」


と、ルビィと呼ばれてた少女が俺の頭をゲンコツで軽く小突く。

軽く小突かれただけなのに、物凄く痛いぞ怪力女め。


「ふんっ。 私はルビィ・ドラゴニス。 で、何で貴方は魔法がない世界で魔法使いの事をしゃべっていたのよ?」


「手品とか奇術師の事をマジックって言うし、常識外れの技が使える人を例えて魔法使いって言うんだよ。」


「ふぅん…貴方の使う常識外れの凄い技ってどんなのかしら?」


「あー…えと…」


言葉に詰まって俺の目が泳ぐ。

目を泳がせたら世界新記録を出す自信があるわ。

そんな競技ありませんかね。


ルビィは真紅のやや先がウェーブしたセミロングの髪をしている。

エミィより少しだけ年上なのか、身長も低く小柄で肉付きがかなり悪い。


出る所は出てないが、まあ無理矢理スレンダーという事にしておこう。

クレリックシャツの胸元に大きな革リボン付きのブローチをしている。


シャツは下にしまい込んでないのでホットパンツから覗く太ももが目に悪い。

ルビィはいつの間にか自分を凝視していた俺の目線に気付いて、胸元を押さえて体を引いて蔑むような目線で俺を見下す。


いや、胸は見てないから。見るほど無いから。

俺の目線に失礼だから謝れ。


「何よ! 私を嘗め回すように見て。 やめてよ、妊娠しちゃう!」


…コイツだけは殴っても許される気がしてきた。

八重歯をむき出しにして怒っているが、その印象はただの子犬だ。


だがどうもどんどん俺への印象が悪くなっている気がする。

しょうがないじゃん。 30年無職ですもの。


そんな上手くコミュニケーション取れたらこんな人生歩んでませんて。

この上、30年童貞を守り通したから魔法使い、なんて言えませんてマジで。


勘違いで異世界に放り込まれて問い詰められて…

ほんと、もうおうち帰りたい。

そしてひっそり生きていきたい。


ルビィは様々な言葉で俺をけなしている。

語彙が少ないのか変態とスケベしか言ってない。 放っておこう。


もう強引に話題を変えるしかない。

俺は残った青髪のアクエリアスという少女に向かって言った。


「なんで君達はそんなに魔法使いを探してるんだ? そこの婆様だって魔法使いじゃないか。」


「私達、いえこのソーサリスには、異世界から来た特別な魔法使いが必要なんです。」


「ソーサリスってこの世界の名前? 国? 町?」

「魔法王国ソーサリス、世界で一番大きな国の名であり世界の名でもあります。」


「魔法王国なら魔法使いはいっぱい居そうだけど…あくまでも異世界という所が重要なの?」


「はい。 何もかもが失われた、忘却の時代以前よりの碑文に記録されているのです。


 曰く―――


      一角獣は穢れなき乙女の導きにて闇を切り裂さいた。

       竜は異界より訪れし魔術師により変化し、魔の軍を滅ぼした。


     と―――」



アクエリアスは神秘的な水色の瞳の奥に悲しみを湛え、俺を見つめなおした。


「私達、竜種ドラゴンレイスには異世界から来た魔術師が必要なのです。」


その表情に見とれていた俺は、はっと我に返り言葉を返す。


「そう言われても俺は魔法使いじゃないんだ。申し訳ないけどね。」


「でも貴方には魔法の才能があります。 お師匠様の魔法を完全抵抗したのがその証です。」


アクエリアスは続ける。


「でも―――碑文には魔法使いが異世界から来訪するように書かれていますが、もしかしたら少し違うかも知れない、と考えが芽生えました。」


「というと…?」


「つまり、異世界から何の変哲も無い来訪者が、ここで修行して魔法使いになり、世界を救ってくれる…」


「流石に都合よすぎるな。 俺はたまたま魔法使いというキーワードを口にしただけで、妖精の目に留まっただけの一般人なのさ。」


「しかし無事に星門を通り抜けたのは魔法使いの力がある証拠、とお師匠様も述べています。」


「何でそんなに必死なんだ? 異世界からの魔法使いが居ないと君達はすぐにでも死ぬのか?」


「はい。 長くても1年を待たずに、侵略してくる魔力王の軍勢と戦って私達は死ぬでしょう。」


「逃げればいいじゃないか。 体勢を整えてさ。」


「体勢は整っているんです。 それでも勝算が無いのですよ…」



アクエリアスは困ったような顔で微笑した。


一番年長者なのかと思ったが、このアクエリアスは大人びた顔立ちをしているだけで、年齢的にはルビィと変わらないようだ。


緩やかなワンピースは肩紐だけで、これまたクリスタに負けず劣らずの大きな胸だ。

細身な分、クリスタよりも大きく見える。

長い青髪は先っぽをリボンで包帯巻きにしている。


やけにヒールの高いサンダルを履いてるせいで長身に見えるな。

しかしこの服、丈がまたずいぶん短くて形の良い太もも様が…


「申し訳ありません。 貴方には興味の無い話でしたね。」


俺の視線に気付いたアクエリアスがそっぽを向きながら言った。


「興味無いんじゃなくて、現実感が無いっつーか…」


「在野の士というからには、魔術でなくとも何らかの技を修めていたのでしょう?」


「まあね。 でもこの世界で役に立つモンじゃあ無い。 説明しづらいし。」


「やはり貴方は何かを隠しておられますね。」


隠してるんじゃないよ。

言いづらいだけだよ。

底辺大学に入ったけど、ゲームにハマって中退したなんて言えないよ。


参ったなあ…

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