16 「判定と審議」
クリスタが駆け寄ってきた。泣いてる。超泣いてる。
痛い、痛いよ。右手掴まないで。
ちょっとそこ指が取れかけてるかと思うほど切れ目入ってますんで。
ルビィは俺の背中をバンバンと叩きながら「意外とやるじゃなーい!」と繰り返している。
アクエリアスとエミィも駆け寄ってきて喜んでくれている。
婆様は貴賓席で深く座り直し、大きく安堵のため息をついていた。
「何なんだ今のは…これが君の言っていたイ○ナズンなのか。」
レオンハルトが従者の肩を借りよろめきつつも立ち上がって訊ねた。
「今のは反魔力。お前の剣と頭から魔力を消し去った。ふらつくのは魔力不足だからじきに治る。」
レオンハルトが立ち上がったのを確認して、審判が駆け寄ってくる。
大舞台での勝利とか人生初の快感だぜ。
審判はレオンハルトの肩を叩き、その右腕を持ち上げる。
「勝者! レオンハルト大魔道士!」
…なんで?
治まりかけた会場の喧騒が再び沸騰した。
インタビュアーのおっさんが審判に拡声器具を渡すと、とうとうと説明し始める。
「ただいまの勝負、先に一撃を入れたのはレオンハルト大魔道士。涸れ川の海がレオンハルト大魔道士を昏倒させたのはあくまでもその後!」
会場の一部からブーイングが起き、なにやら色々投げ込まれる。
恐らく、俺に賭けて万馬券をゲットし損ねた人たちだろう。
この程度の傷で負けが確定するのは信じられない。
だが、確かに一撃ルールではあった。
つまり俺の戦法は最初から間違っていたのだとも言える。
ドクターストップ、ジャッジの判断が先に入るのが普通だと思っていたのだ。
現にかすり傷程度の負傷では勝敗決まってない試合ばかりだったし。
レオンハルトの魔力剣が傷つけた俺の肩と右手は、反魔力のせいで体内には届かないが表面は傷つけた。
それを知らない審判がこれまでのレオンハルトの魔力剣の威力から想定して判断してしまったのだろう。
だがレオンハルトは俺を一瞥すると、俺に向かって言った。
「僕の負けでいい。いや、完全に負けた。次はハンデ無しで、全力で相手させてもらう。」
優勝者にはクリスタ達の演武の後に表彰式があるため、特別席を設けられている。
レオンハルトは従者の手を振り払い、特別席に着いた。
堂々と、前を向いて。
嫌なだけの奴だとばかり思い込んでいたが、少なくとも潔い奴ではあったようだ。
貴族としての自負か。お前はきっと本物の英雄になるよ。
次なんて無いよ。二度とゴメンだ。
負けを認める精神的タフさを持ったエリートなんて無敵じゃん。
試合に負けて、勝負に勝った
という所かなこれは。
ケチはついたものの、クリスタを守れたのならそれでいい。
俺にしては上出来なほうだ。
ルビィとアクエリアスは審判に抗議していたが、クリスタがその顛末を話して渋々引き下がった。
「まあクリスタが無事で、あんたがそれで納得してるんならいいけどね!」
「帰ったら残念会を開きましょうか。それともお祝いかしら。」
俺はクリスタと見つめあって笑った。
「花嫁さんから勝利のキスがあってもいいんじゃないかな?」
と自分のほほをつんつんと指差すと、クリスタが照れてそっぽを向いてしまった。
ぐう可愛い。
その隙にエミィが俺の腕を掴んで引き摺り下ろすと、頬にキスしてくれた。
ま、これでいっか。試合には負けちゃったしね。
ふと俺達の後ろにある闘技場選手入り口にいた衛兵が、何か大声を張り上げているのに気付いた。
振り向いた俺の足元に何かが放り出される。
衛兵の首だった。




