15 「VS レオンハルト」
審判が試合開始の合図をかけ、仰々しい飾り付けの錫杖を高く掲げた。
ちょっとした市民野球場ほどもある闘技場の喧騒は静かなざわめきだけになった。
俺は右手に持った借り物の安っぽい剣を構える。
左手は空手のまま脇を広げ顔の高さまで上げて備えている。
レオンハルトは魔力剣を発動させ半身に構える。
純粋な魔力だけで構成された刃がレイピアの形になる。
無表情だった顔が笑みをたたえる。
両手を広げて俺を挑発する。
「さあ、どこからでもかかってきたまえ。」
「お前からかかってきてもいいんだぜ。
一撃で勝負を決められたら、むしろ俺と竜種全員で盛大に二人の結婚を祝福してやるよ。」
まずは挑発合戦、奴の出方を伺いつつ絶好の位置取りをしなければ。
俺は精神集中し、両の手に反魔力を集めはじめる。
さて、純粋な魔力をどこまで受け止められるか。
さすがに右手は犠牲にせねばなるまい。
だが右手、お前はクリスタのおっぱいを触ったんだ。思い残すことは無いはずだ。
「いいね。じゃあ…遠慮なく!」
レオンハルトはまるで飛ぶかのように左側に円を描くように疾走した。
えっ、俺の実力を引き出そうとか考えないのかよ!
俺は慌てて右を向く。
だが既にレオンハルトは攻撃距離に入っている。速い!
半回転し地を蹴った。
魔力の刃が俺の右肩を狙う。
辛うじて防御体制は間に合った。剣を捨てて右手だけで対処しようとしたのが幸いした。
重い剣を持っていたら手遅れになっていただろう。
右手を突き出し魔力剣の切っ先に当てようと構える。
反魔力を炊く! 消し去れ!
「な…ッ!?」
レオンハルトの魔力剣が蛇のようにぐにゃりと歪む。
途端に4つに刃が分かれ、弓なりに反って突き出した俺の掌を回避し肩口に切っ先が襲い掛かる。
失念していた。奴は刃の形を自在に操れるのだった。
話に聞いて興味が無かった俺は、脳裏からその情報を消し去っていた。
勝利を確信したレオンハルトはその体勢を決めポーズにしたかったのだろう。
だがまだ終わってない。
切っ先は思ったより深く食い込み、俺の右手を突き出す動作に連れて裂傷を作るが、そのまま動かせる!
俺の右手は剣の返しを掴む。レオンハルトの魔力が俺の掌をズタズタに…
ジジッ! パシィ!
焼けた鉄板に水を垂らした様な音が激しく鳴り、弾けた。
俺の右手に集中した見えない力、反魔力がレオンハルトの魔力の刃を霧散させたのだ。
レオンハルトは大きく目を見張り魔力が消される初めての感覚に驚愕する。
俺はとどめの左手を開き、掌底打ちの形でレオンハルトの頭を打つ。
同時に手のひらから反魔力を打ち出す。
こっちが本命だ。
すこぶるつきの反魔力射出だ。脳から魔力をすっ飛ばしやがれ!
レオンハルトの体が一瞬激しく引きつり、その目が焦点を失う。
一言うめくと、すがるように俺の体を滑り落ちて、足元へ倒れこんだ。
勝った。全身エリートのレオンハルトを倒した。
俺は左手を握ったまま高く掲げ、勝利の雄たけびを発した。
生まれてはじめての勝利よ。
世界に、異世界に轟け。
会場が烈火のような歓声に包まれた。