10 「無を取得」
翌日、目が覚めると俺は朝食の支度も手伝わず
ベッドの上で考えていた。
起き抜けに昨晩の事を思い出し、
何か天啓を受けたような閃きがあったからだ。
そう
俺には何も無い。
魔力も運動能力も特殊技能も才能も。
それはこの3ヶ月で思い知らされた。
元の世界に居た時と同じだという事を、改めて思い知らされた。
婆様が言っていた。
「マナはこの世界のあらゆる場所に普遍的に存在する」と。
だが、俺は魔法が使えない。
マナを魔力に変換できない。
魔法も効果が薄いようだ。
ならば俺は
マナを通しづらい体質
これを最初から持っていたのではないか。
マナ絶縁体、これは俺のとっておきの武器なんじゃないか。
ルビィは言っていた。
俺が闘気を当てると「むしろ力を与えられているようだ」と。
俺は闘気を発してるつもりで、
マナをルビィに押し当てていたのではないか。
通話魔法の矛盾やマナと魔力の違いなど、
本当なら事前に検証しなければならない事は山ほどある。
だが、まずはこの力があると仮定して
自在に操る事ができるかどうかを確かめたかった。
マナを魔力に練り上げるのには
一定量以上は意識的にやらねばならない。
そのためにはそのマナが魔力に変換されるのを意識、
つまり知覚して感覚的につかまねばなるまい。
俺が思案に耽っていると、
クリスタが起こしに来てくれたようだ。
俺は最初気付かず、不安げにクリスタが
俺の顔を覗き込んできたところでようやく気付いた。
「海くん…大丈夫?どうしたの? 具合悪いの?」
「うわっ! あぁ…クリスタか。
おはよう。 ちょっと考え事をしてただけだよ。」
「もう朝食の用意ができてますよ。
下に降りて食べましょう。」
「手伝わなくてごめん。
食べよう、食べよう。」
朝食の用意されたテーブルに着き、
クリスタ以外に昨晩の事をからかわれるのを
愛想笑いで受け流しつつ
パンをスープに浸しつつ先ほどまで考えていた事を
実行に移そうと思っていた。
「クリスタ、良かったら特訓に付き合って欲しいんだけど。」
「うん。 喜んで協力するね。
どんな特訓なのか聞いてもいい?」
「えーと…俺には本当に魔力が無いのか。
あるいは魔力が無さが在るのか。」
クリスタが笑顔と困り顔の中間点のような
複雑な表情を浮かべて首を傾けた。
婆様はハッとしたような顔をした直後に、
ニヤリと笑って語りかけてきた。
「ほう…涙涸れ、海をも涸らす川と成す、か。」
「そんな所です。
まだ上手く行くかどうか分からないので、
大げさには言わないでおきましょう。」
朝食が済むと、
俺とクリスタは道具を準備して道場へ向かった。
やりたくは無かったが、
持ってきたナイフで俺の腕を軽く切る。
10cmほどスーッと腕の表面を滑らせたつもりだったが、
案外深く切ったようで血があふれてきた。
クリスタに向かって頷くと、
クリスタも頷き返し治療の魔法を使う。
傷が塞がった…が、内側で赤いアザのようなものが残る。
予想通り
体の表面は魔力を通す。
しかし薄皮一枚だけで内側には魔力が通らない。
さてここからだ。
これはただの体質か、
それとも自力で使いこなせる能力か。
「じゃあ魔力を最大に込めて、
もう一度同じ魔法を頼むよ。」
クリスタが魔法を詠唱し始める。
同時に魔力が紐のようにクリスタの手から飛び出し
魔法陣を描き始める。
俺は表面だけ塞がった傷の隣に、
同じくらいの深さになるように再びナイフで切れ目を入れる。
いってーぇ
光を帯びたクリスタの手が俺の患部に当てられ
治療の魔法を直接照射しはじめた所で、
俺はそれを阻害しようといきむ。
患部に神経を集中し、
魔法を妨害することに意識を傾けた。
「傷が…全く塞がらない…!?」
クリスタが驚いている。
いいぞ、だがここまでは予想通り。
問題はここから先だ。
患部を穴が開かんばかりに睨みつけ、
意識をそこから「持ち上げる」
クリスタの魔力を照射しているその手へ…届け!
ジジジ…シュワッ!
熱せられた水が瞬時に蒸発するような音を発し、
クリスタの手を覆っていた魔力の光が弾け飛んだ。
「―――ッ!!」
クリスタが驚き手を引っ込める。
その瞬間、俺は目の前が急速に暗くなり…
倒れた。




