釣り
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更新少し遅くなりました。すみません。
逃亡生活が始まって3日が過ぎた頃、
「そろそろかな。」
仁が朝食の途中に不意にそうつぶやいた。
仁が部屋から出たのは初日の夜の一度きりだ。
「そろそろって?」
「釣りだよ、釣り。撒いたエサにそろそろ獲物がかかる頃だ。」
なんの話だかさっぱりな桜は流すように「ふーん」とだけ返事をした。
しばらくして仁は両手を合わせてごちそうさまとつぶやく。
相変わらず律儀だ。
「お前も早く食い終われ。今日は出かけるぞ。」
「え、は、はあ!? ちょっとそういうことは前もって言ってよ!」
「なんでだよ。出かけるのなんて突然のほうがむしろ面白いじゃねーか。」
「なんでってあんた、18年も生きてて常識ないわねー。女の子は出かける前にある程度の準備がいるものなのっ。」
すると仁はため息をついて、
「なるべく急げよ。」
とだけ言った。
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「なあ、お前なめてんのか。」
準備完了を告げた桜に対して仁はイラだった声をあげた。
「俺はなるべく急げと言ったよな?」
「これでも急いだんだけど。」
「どこがだよ! あれから1時間も経ったじゃねえか! お前忘れてんじゃないだろうな。お前は〝マムシ″に狙われてんだぞ!?」
「忘れてないよ。」
「じゃあなに、死にたいの? それとも俺が殺してやろうか。」
「やだ。私は戦うと決めたんだから。」
「やだじゃねえよ! この能天気バカ女ぁー!!」
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帽子を深く被り、大きめのサングラスをかける。
顔を防具したファッションで桜は町を歩く。
隣には見覚えのない顔をした男。
変装マスクを被った仁だ。
殺し屋は仕事の都合上10種の変装マスクを持つのが基本らしい。
仁は町をキョロキョロしては「大漁、大漁」と
つぶやいている。
「いい加減何のことか教えてよ。」
「なにがー?」
「なにがじゃないでしょ! 夜中にいきなり家を出て行ったり、町をキョロキョロしながら大漁とつぶやいたり。いや、そんなことよりも」
桜はそこで1度息を吸って力強く言った。
「なんで私があなたの彼女のフリしなきゃいけないの!?」
「俺がお前の命ためにかけるものに比べたらマシだろ。」
それを言われてしまうと何も言い返せない。
「それにほら、改めて見てみると俺って意外とイケ」
「きもっ。」
仁の言葉を遮ってそう言った。
そして自然と笑みがこぼれた。
瞳に映る仁も笑っていた。
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「冗談はこの辺にしておいて、真面目な話をする。」
桜はそう言う仁をただ見つめる。
「まず、今確認しただけでも〝マムシ″の連中が30人はこの町にいる。」
「さ、30人!?」
「声がでかい。それに全員ザコだからそこの心配はいらない。」
仁はさらっとすごいことを言ってのける。
「ただ、昼間に戦うのは避けたい。町の連中が騒ぐと警察が来るし、町の連中を警戒してると人数差で殺られる。」
「なるほど、そのために変装。けどなんでこのウェスタンシティ(西の町)に〝マムシ″がこんなに?
〝マムシ″の本部は私がいたセントラルシティ(中心の町)にあるのに。」
「その事なら家で話そう。それより食料仕入れてさっさと帰るぞ。」
「えー。私まだ町を歩きたいー。セントラルシティ以外の町初めてなんだもんー。」
「セントラルシティは東西南北すべての町の集合体なんだから、セントラルシティ知ってるのにわざわざ他の町回る必要ないだろ。」
「はあ。これだから男は。」
桜は呆れた顔でそう言った。
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日は落ちて町は暗闇に包まれる。
それと同時に町から人の気配が少しずつ減って行く。
日付けが変わる間近。
今日が昨日に、明日が今日になる間もなくの時間に、仁は町に戻る。
人気のない夜の町を1人歩いていると1人の男が話しかけてくる。
「〝マムシ″の者だ。この辺りでガルゴ様が殺られた。そのことについて何か知らないか?〝レッドタイガー″のコードネーム死神。」
すると仁は鼻で笑う。
「コードネームを持ち、俺の本名を知っている隊長クラスの奴ならまだしも、お前ら雑魚に情報をやってなんのメリットがある?」
「では質問を変える。 ガルゴ様を殺したのはお前か……?」
その言葉に仁はニヤリと笑う。
「いいね、その質問は楽しい。じゃあ逆に質問しよう。もし俺が殺したとしたらどうする?」
「〝マムシ″第4隊40人にその他の暴力団員など裏の人間80人を加えた120人の相手をしてもらおう。」
言うと同時に男は胸ポケットから銃を取り出して仁に向ける。
「ひゃはっ。それ最高。」
仁は狂気に満ちた笑顔を向けた。