始まる生活
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「ねえ、どこに行くの?」
前に座ってバイクを運転する仁に桜は問いかけた。
「なんだって? 聞こえねぇ!」
「だーかーら! どこに行くの!」
「街のはずれに俺がよく使うアパートの部屋がある。今日からお前にはそこで暮らしてもらう。」
また勝手な。だが別に不都合ではない。両親が死んで親戚のうちに拾ってもらったが、あんなのは形だけだ。
心の内で邪魔者扱いしていることぐらい感じ取れる。15歳を子供だと思うな。
両親が死んでから学校に行っていないので、付き合いのある友達だっていない。
私が消えてもこの街にはなにも変化は生じないーー。
「よく使うってどういう意味? 住んでないの?」
「殺し屋は仕事であちこちに飛び回るからな。家という感覚はなかった。まあ、今日からは家になるが。」
ちょっと待て。よく考えてみたらこれって一緒に暮らすって意味じゃん。
「心配すんな。お前は俺のタイプじゃないから神に誓って手を出さねえよ。」
心読めるの!? てかなんだその言い方は。そこまで言われるとなんか悔しいじゃん。
人のバイクをヘルメットつけずに乗回す。もし警察にでも見つかれば逮捕ものだろう。
だが、街の明かりに照らされながら夜の空気を全身で感じることができる。それはもう
「気持ちいいー!!」
と叫ぶしかないだろう。
「そうだろ! やっぱバイクはノーヘルだよな!」
「いや、そこじゃないから。私あなたみたいなヤンキーの発想してないから。」
桜は自然と笑みを浮かべる。
「お?もっと面白くなってきたみたいだな。」
仁がそう言った瞬間、近くで聞き覚えのあるサイレン音が聞こえてきた。
「これってもしかして……!」
「そこのバイク、止まりなさい。繰り返す、そこのバイク、止まりなさい。」
桜の予感は的中してしまった。
「止まるか、バーカ!!」
そう言って仁はバイクを加速させる。
子供のような無邪気な笑い顔しちゃって。
桜はそんな思いを口には出さずただ仁の背中に捕まるのだった。
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「はーい、ドライブ終了ー。」
どこにでもありそうな2階建のアパートの前に仁はバイクを止めた。
そして仁は後ろを振り返って驚きの声をあげた。
「お前! バイクに乗ってた数時間でどこまで老けてんだあ!?」
「いや、もう。なんか、疲れちゃって。」
「疲れただあ? お前俺に捕まってただけだろうが。」
「誰かさんが警察と追いかけっこなんて始めちゃったからなんですが。」
すると仁はギロッと睨みながら私の顎を右手で持ち上げる。最近よく耳にする〝顎くい″というやつだ。
「俺は俺が楽しめればなんでもいいんだよ。生かされてる身で俺の楽しみに口出しすんじゃねえ。」
わかったらついてこいと言いながら仁はアパートへ向かう。
急に殺し屋の顔を出すのはずるい。
そう思いながらも桜は仁のあとを追う。
仁は2階へ上がり、3つある部屋の1番左のドアを開けて、桜を手招きした。
部屋の中にはテレビとテーブルとベッドと冷蔵庫。キッチンらしきところにはコンロが2つ、蛇口1つ、必要最低限の調理器具と調味料。お皿やコップなどの食器もわずかだ。
住むに問題はないが、どこか物足りないような面白みのないような気がする部屋だ。
「これからずっとここに?」
「んなわけねえだろ。裏世界の情報網ならここがバレるのも時間の問題。1ヶ月に1度くらいは引越しをすることになるだろうな。」
その言葉を聞いて桜は気がついた。
仁に頼り切ろうとしている自分に。
仁は元より裏世界の人達から追われる理由なんてなかった。
楽しいことがしたいーー。仁はそう言うけれど、
結局私が巻き込んだんだーー。
「んじゃ、ちょっと出かけるから待ってろ。喉乾いたら冷蔵庫から勝手に取って飲め。眠くなったらその辺で寝てろ。」
「もう出かけるの? 今来たばかりじゃない。」
桜の言葉を仁は鼻で笑ってこう言った。
「暗殺者は夜行性だ。」