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青の桜   作者: 星乃優/優キング
第1章 出会い編
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きっかけの出会い

よろしければ感想ください!!!

 「あ、今少女が病院から出てきました! 見たところ身体に異常はなさそうな様子です。」


 病院から出るとたくさんのフラッシュをたかれ、似たようなセリフが四方八方から聞こえた。少し歩き出してみせると大勢の記者たちが私を囲む。こんな体験は今日が最初で最後だろう。


 「あの! よろしければ少しお話しを聞かせてもらえますか!」


 たくさんのマイクを向けられる。私はそれにため息を吐く。


 「すみません。いまそういう気分になれなくて」


 「そこをなんとか!一言だけでもいただけませんか?」


 無理だ。今口を開いてしまえば私は絶対余計なことを言ってしまう。彼との約束を守るためにはノーコメントを貫き通すしかない。

私は記者たちに目もくれず立ち去る。


 目を閉じるだけで安易に思い出すことができる。彼と出会ったのはもう1年も前の15歳の春のことだーー。


###########################################


 「もうこんな世界に未練なんてないわ」


 とある5階建の建築物の屋上。塀を乗り越えて、下を見ながら私はつぶやいた。

 一歩踏み出せば楽になる。苦しくて価値のない世界にサヨナラを告げられる。

 なのに何故私は震えているのだろう。

 その問いの答えを私は知っている。私が弱虫だからだ。

 苦しいことから逃げ出したいのに、その一歩を踏み出す勇気すら私は持ち合わせていないのだ。

 それが悔しくて悔しくて、私は涙をこぼした。


 「未練ないんだったら早く落っこちまえよ」


 不意に背後で男の声がした。


 「えっ?」


 私以外にこの建物に人がいると思っていなかった私は、動揺して後ろを振り返ると同時に焦ってしまい、足を踏み外した。

 瞬間、これまでに感じたことのない恐怖を覚えて目を閉じた。

 足が地面から離れる一瞬の時間をとても長く感じた。


 ーーそうか、私本当に死ーーーッ!


 その時手に感覚を覚えて私は目を開けた。すると見えたのは私の右手を握っている男。さっきの声の主だ。

 私の体は完全に宙に浮いていて、男に握られている右手が命綱だ。


 「答えろ。お前は心の底から死にたいと願っているのか。もしそうならこの手を放してお前を楽にしてやろう」


 男は薄ら笑いを浮かべているが口調ははっきりとしている。恐らく冗談ではなく本気の言葉だろう。私はその顔をただ見上げるばかりだ。


 「それともまだこの腐れきった世界で無様にもがいてみるか?俺はどちらでもいい。10数える間に考えろ。今お前が流している涙の意味をな」


 そう言って男はカウントを始める。


ーーー10ーーー


 涙の意味……。私はなぜ泣いているのだろう。


ーーー9ーーー


 死にたいと願ってここへ来たはずなのに何に怯えているのだろう。


ーーー8ーーー


 今まで苦しかったじゃない!


ーーー7ーーー


 誰も助けてなんかくれなかったじゃない!


ーーー6ーーー


 願っても願っても無駄なことだって知ったじゃないの!


ーーー5ーーー


 分からない。私は私が分からない。


ーーー4ーーー


 いや違う。嘘だ。私は知っている。


ーーー3ーーー


 ただ、私は認めたくなかったんだ。


ーーー2ーーー


 この涙の意味を。私の弱さを。無力さを。


ーーー1ーーー


 私は、本当の私の気持ちは……!!


 「死にだぐない……まだ、死にだぐないよぉ……」


 涙でぐしゃぐしゃの顔で男を見つめながら私はそう答えた。すると男は私に負けないくらいぐしゃっとした顔で笑った。


 「素直にはなったみたいだが、険しい方の道を選んだな」


 そう言って男は力強く私を引き上げた。


###########################################


 「あ、あの、助けてくださって、!」


 「礼なんてもらっても楽しくねぇんだよ」


 男は180センチくらいはありそうな大きい人で、153センチの私を上から見下ろしながらそう言った。


 「俺は楽しいことが大好きなんだよ。わかるか?蒼乃桜(あおのさくら)


 「えっ。なんで、私の名前を?」


 「驚いたか? 名前だけじゃねえぞ。お前が15歳であることも、お前の父親が大犯罪者であることも、そのことでお前が命を狙われていることも知ってんだぜ」


 にやけながら言う男の言葉を聞いて血の気が引いた。


 「あなた、何者なの?」


 「おうおう、怖い顔するなぁ。だがその反応で正解だ」


 「どういう意味?」


 桜は怪訝そうに男を見つめてそう言った。


 「俺はお前を殺すために雇われた殺し屋。って意味だ」


 「!!」


 桜はとっさに身構えた。


 「は、遅えよ。殺る気ならもうとっくにお前はこの世にいない」


 「なんのつもり? 私を殺すんじゃないの?」


 「言ったろ? 俺は楽しいことが好きなんだよ。殺し屋の仕事は人を殺すスリルが楽しいからやってた。でも今俺はもっとおもしれえもん見つけたんだ」


 「人を殺すのが楽しいだなんて」


 「狂ってるって? 違いねえ。だがお前の親父も相当狂ってるぜ?」


 男の言葉に桜は歯ぎしりをしながら睨みつける。


 「政府から3000億盗んじまうだなんておもしれことやってんだからなあ!」


 男は楽しそうに満面の笑みを浮かべて言った。


 「ああああ!!!」


 耐えきれなくなって桜は男に殴りかかる。だが殴りかかった腕を簡単に捕まれる。


 「おいおーい、命の恩人になんてことしやがるんだ? 話はここからが本番だ」


 「放せ! この外道!」


 「お前の親父は政府から盗んだ金をどこかに隠し、逃亡。その金はいわゆる闇金であり、暴力団やそーいったヤンチャなやつらとの関係の強い金だった。

中でも関係の強いグループが『マムシ』」


 「そんな話は……!」


 「『マムシ』は業界でも有名なヤバい奴らだ。怒らせたら最後。殺すまで地球の裏側までだって追ってくる。さらにその家族まで皆殺しにする」


 「聞きたくない……!」


 「お前の親父は金の場所を吐かず、自殺した。さらにお前の母親も追っ手から逃げる途中交通事故で死亡。つまり奴らのターゲットはいよいよお前のみとなったわけだ」


 「嫌だ、嫌だ……!」


 そう言って桜は体を震わせた。


 「純粋に興味があるんだ、答えろ。お前消えた3000億のありかを知ってんのか?」


 「わ…私……!」


 桜は震えながら必死に声を絞り出すようにしゃべる。


 「3000億がどこにあるか……わかります…!でも、返したところで私は殺されてしまう……だから逃げるしかなかった……」


 それを聞いて男は楽しそうに笑う。


 「はは、キタァー!! 楽しくなってきたぞ!」


 「え?」


 「蒼乃桜! 俺に金の場所教えろ!」


 「あなたも結局お金が欲しいの?」


 「いや、違う。お前の親父と共犯してやろうってんだ」


 「どういうこと?どういうつもりなの?」


 「そうすりゃ大勢の殺し屋や暴力団が俺を狙ってくれるわけだ! こんなに楽しい事はねえぞ!」


 「ちょ、ちょっと!」


 「決まりだ。お前俺についてこい。どうせ俺がほうっておいたら殺されるか自殺がオチだ」


 「つ、ついてこいってそんな!」


 すると男はウキウキした様子で言った。


 「ゲームだよ、ゲーム! 暴力団や殺し屋を敵に回してお前を生かせたら俺の勝ち。お前が殺されたらゲームオーバー」


 「そんなの無茶よ。あなた『マムシ』の規模の大きさを知らないの!?」


 「知ってるさ! 知ってるから楽しみなんじゃねえか。で、どうする? 俺のゲームにのるか?のらないか?」


 「それは……」


 冷静に考えてみれば信用するべきじゃない。なんせこの男は殺し屋らしい。私を今まで何度も絶望させてきた、あの男たちと同じ。

 でもこのままだと私は死んでしまうだろうというのは自分でもわかっている。

 だから自殺を図ったのだ。でも結局それもできなかった。

 私は臆病だから、私は弱いから、なす術がない。でも頼りにできる人なんていない。死人が増えるだけだ。

 ならもういっそこの男にかけてみるのもーー。


 「どうする? 蒼乃桜」


 考えても仕方ない。悩んでもどうにもならない。私に残った可能性は一つしかない。


 「わかった。あなたのゲームにのるわ」


 すると男はまた笑う。


 「さすが。親父と一緒で狂ってるぜ、お前。

俺は龍間仁(たつまじん)だ。一緒に楽しもうぜ!」


 1年前の春のある日。私の人生は終わるはずだった。いや、終わったのかもしれない。この日私は新しい自分への一歩を踏み出したのだから。



 これは国を敵に回して戦った、私と彼の、龍間仁との逃亡生活を記した物語ーー。

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