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長かった夏休みが終わった。
部活があったがお互い忙しくて、しかも時間も日にちも一致してなくて会うことは出来なかった。
大好きなはずの夏休みが、今年の夏はただただ憂鬱だった。
「おはよう」
事柴さんに話し掛ける。部室以外での初めての二人っきり。
学校に来るの早いんだ。よし。
事柴さんはこっちを見向きもせず「おはよー…」と言った。
もしかして…
「宿題終わってないってやつ?」
手がピタッと止まった。
静かな教室にシャーペンを置く音が響く。
風のない教室は窓を開けてても暑い。
蝉が欝陶しいくらいに鳴き続ける。
「意外な…」
続けようとした言葉を遮るように事柴さんが立ち上がった。
またイメージダウンか?
でもいつもこんな感じだし…
ま、事柴さんツンデレっぽいし良っか。
すると彼女は顔の前で手を合わせた。
「お願い!宿題見せて!」
ダメ?と言わんばかりに上目で見てくる。
ズルい。
事柴さんはいつも俺に余裕をくれない。
いつもいつも頭の中は彼女でいっぱいだ。
「良いよ、まぁ間違ってると思うけど…」
鞄から宿題を取り出し、彼女に渡した。
顔がぱあっと明るくなる。
「ありがとう!」
おそらく事柴さんに「その気」はないんだろう。
でもいつも見せる笑顔は、自分だけ特別なものだと思いたい。
笑ったり、怒ったり、考え事したり、半泣きになったり、いろんな顔を見せてくれる彼女が好きだ。
本気で好きなんだ。
「…今日も部室行って良い?」
いたずらっぽく笑う。
「良いけど、私生徒会でいないよ?」
多分、彼女に認められつつある証拠だ。