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PART  -2-

挿絵(By みてみん)




 かくして、僕の日常は変質した。


 というか、まあ、突飛なことに対する許容というものが、僕の脳には少し耐えられない範囲であったものだから、なんというか、まあ、焦りまくったというのは言うまでもないとしても、その現状を僕自身が語るということはあまりにもアレなので、その辺は割愛。


 まあ、いうなれば、僕の姿というものが、完全に消失してしまったのだ。


 いや、語弊があるので、言い換えさせてもらうと、僕という人間の存在が、どこにもなくなってしまった――――のではなく、僕の姿が透明になった、ということだ。


 透明人間。


 冗談じゃないですね。


 というか、透明人間って全裸でいることで完全に見えなくなるっていうきわどいアレだと思うんですけど、違うんですね。


 まいったね。


 そんなこんなで、服ごと自分の姿が完全に消えてしまった僕の行うことは、まあ、とりあえず。


「あのー、すいません、明日少し休ませてもらってもよろしいでしょうか? あの、僕の両親の実家でどうしてもはずせない用事、あ、葬式なんですけど、僕の実家結構厳しいところで、はずせないんです、はい。そのことでできます? あ、可能? ありがとうございます、はい。いや、本当に」


 自分のバイト先のマキちゃんに、しばらくの休暇をもらうことだった。


 僕が実家に帰る(大嘘)ということを説明しつつ、約三ヶ月ほどの休暇をもらうことにした。


 明日から生活どうしようかな。


「ま、なんとかなるでしょう」


 と言いつつ、僕の口調が完全に敬語口調になっていることに気がついて、僕の気がすっかり動転してしまっていることがわかるわけですね。


 困ったことに、僕の気なんてものはその状況からでもすぐに対応可能なようで、わずかに三十分だけでその状況に対応しはじめた。

 

 まあ、自分ながらにあきれるところだけど。


 時計を見て、今が夜中の九時ということを確認する。まだ時間はあるだろう。


 と、考えて、僕はさっそく寝ることにした。


 自分が今見ていることは、まったくの夢であって、完全に僕の妄想としてある、という可能性もあるのだろうから。

 


zzz

 


 で、起きた僕の目の前にあったガラスには、案の上、一人でに浮き上がった毛布のようなものがあるだけだった。


「あれー、こういうのって、持続するものですか」


 光学迷彩だったらとっくに機能が落ちてるところでしょうに。


 本当に勘弁してほしい。


 ただし、まったく効果がなかった、といえばそんなわけもなく、わずかに僕の精神的な動揺は、幾分か和らいだようだ。


 まあ、睡眠時の運動量は起きている時と変わらないそうですし。


 主に精神の休息が主な目的なのでしょうし、睡眠って。


 とりあえずベッドから起きあがって、朝日を意味もなく見て、やかんでお湯をわかし、トースターでチーンとパンを焼いてから物事を順序づけて考える。


挿絵(By みてみん)



 まず、一つ目に、昨日の手紙。


挿絵(By みてみん)

 

 あの黒い封筒に入っていた黒い紙。


挿絵(By みてみん)


 あれを見た瞬間に、僕の姿というものが消えたことは疑うまでもない。


 まあというか、これは透過ではなく、完全に僕の姿が光を透過していない、とみるのが普通か。


 まあ、光が屈折して、僕だけを避けている、とみるほうが適切だろう。


 そもそも僕の体をそのまま光が通過したなら、体に何か有害な反応が起きそうではある。


「だからこそ、体にまとったものや、体の中に入ったパンってものは、見えなくなってしまう、と」


 しかし、僕の精神は落ち着いてきた。一日たって、自分の状況を確認できるくらいには落ち着いたようだ。

 

 まあ、ゲームみたいに、今の僕の姿を見ることができるのは、熱を可視化するサーモグラフィーくらいのものだろう。あくまで、人間の目には、僕の存在をみることはできないということだ。


「まあ、だからどうしたってことなんだけど」


 バイト先には休みの電話をした。現在、僕が大学の講義を休み続ければ、実質、僕にはまったく外にでる必要はない、ということになる。


「あ、でも、しまった」


 そこで、気がつく。


 家の冷蔵庫の中には、食料というものが、完全にそこをついていた。


「…………」


 疑うまでもなく、僕の今の状況というものはまったくマズイ方向にシフトしていることになる。


 透明? いいじゃん、店のもの盗み放題じゃん。


 とか、そんなことはできないわけです。ハイ。さすがにそれをしちゃうと、後々の僕の人生に、何か拭いようのない汚点を残すことになりそうだし。


 自分の財布の中身を確認する。


 中には、虎の子の二万円札が入っているだけで、ほかにはなにもなかった。

 給料を引き出す前だからか、僕の手持ちなんてものにはお金がそもそもとしてなかったのだ。

 

「自動販売機、かな」

 そう考えるが、それでも、10日も生き残ることはできないだろう。


 困った困った。

 

 まあ、僕の考えでいえば、その辺の問題を深刻に考えない方がいいだろう。冷蔵庫にも、決してまったく食材がないわけではない。チューブの調味料があるし、わずかな白米もまだ残っている。これだけでも、あと一週間は生きることができる。


 ――――しかし。

 

 もし、この状況が改善せずに、一生このまま、ということになるのは、とてもではないが好ましくはない。


「あ、そういえば」

 

 ――――あの本。

 

 「LetterS」と題されたあの本には、なんと書いてあったか。


 僕は、マキちゃんから買わされた本を開いて、目次の一つに、LetterSの仕草、というものを見つけた。


 以下参照。



「LetterSは、主に呪いの手紙から暗示を受けた人物のことです」

「へえ、具体的には?」

「そうですね。まあ、基本的には超能力者と考えた方が適切ですな」

「ああー。超能力ですか。日本にもいますね、何人か」

「その冷めた眼はなんです?」

「あい、いや、別に」

「そう、眼です」

「は?」

「LetterSは、手紙の黒い用紙の中にかかれている、ある特殊記号を目で接種することによって、その能力を発現させるわけです」

「あのー。もうしわけない。それって」

「通常、人間の目の神経は、そのまま脳へとつながっています。フラッシュってありますよね? 人間はアレを目に受け続けると、その衝撃が脳にまでショックを与えて、悪影響を受けるわけです、カメラのフラッシュの点滅や、主に、そうですね、一世代前のアニメで起きた不祥事のことをご存じですか?」

「ああ、アレ」

「人間の目というものは、攻撃の性質を持っていますが、同時に、脳への直接的な影響を与える機関でもあるわけですね。で、LetterSは、主に目から何かの衝撃を受けて、脳が感化されると考えられています」

「(沈黙)。でも、そんなことあり得るんですか?」

「そんなこと、とは?」

「ほら、何かを見て、人間の脳が感化される、なんてこと」

「あなた、だまし絵はご存じですか?」

「はい?」

「あれは、目の神経がとらえた情報を、脳に伝える段階で、脳の方が処理間違いを起こした状態なんです。知ってますよね?」

「はあ、それが」

「脳が影響を受けているじゃないですか。何か特殊な記号によって、人間の脳が何かを感覚する、ということは無理な論理ではないのです。人間の脳には、今の医学でも分かり切っていないことが多すぎます。それに、人間の脳は、常にその半分以上の能力を制御するようにできています」

「つまり?」

「通常、脳は何かの常識や、ほかの感覚によって制御されていますが、逆に、そのつっかえになっている能力を失くすことで、別の機関が発達することも十分にあります。視力を失った人が、ほかの人よりもすぐれた嗅覚や聴覚を持ったり」

「はあ」

「ですから、LetterSはそれに該当する、ということです」

「あのー、その、そのLetterSが、もし突然自分がそういうことになったと知ったら、どう思いますかね」

「(沈黙)。そうですね。まあ、単純に考えれば、ほかの仲間を探すでしょうね」

「仲間? LetterSに仲間がいるんですか?」

「人間という動物は、主に本能というものを持っていません。母性本能も、アレを本能というのは間違いです。人間は、子供のうちから大人を模倣することで、人間らしさを得ていくものです。突如としてLetterSになった人間は、その時点ではなにもわからない赤子のようなものですね」

「はあ」

「であれば、先輩となるLetterSにあって、協力を要請することが求められるわけです。つまり――――」

「そこを、一網打尽にすればいいわけですね?」



 



 長々と、何かおもしろくもないというか、正直なにを話しているのかまったくわからないようなことが書いてあった。


 なにより不快だったのは、最後の文。あー、こいつは本当に人間の線引きが明快なんだなー、という、そんな悪い予想。


「でもまあ、真実なんだよなあ」


 この本に書いてあることは、正直まったく信じてなんていなかったけど、ここまで似通ったような状況があるとすると、これはひょっとして、僕の周囲すべてを巻き込んだ、壮大なドッキリなんじゃないか、という気さえしてくる。


「まあ、仕方がないか」


 手持ちのバッグを漁る。


 チクショウめ。トートバッグしかありゃしない。

 

 とりあえず、その中に財布とSuica、手持ちの資金を詰め込めるだけ押し込んで、家を出ることに決めた。


  





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