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自殺未遂

今日は気分がいい。絵の具で塗ったような、気持ちのいい青空。それでいて暑すぎない、最高の秋晴れ。昨日の雨が嘘のようだ。


しかしこの気持ちの理由は天気だけではない。今日は私にとって特別な日だから。この日のために用意した、三メートルほどあるロープ。結構細いが、強度は申し分ない。肌触りもバッチリだ。今日は特別な日だから、どうせならと、思い切って高いやつを買った。


それにもう、お金のことなんて考えなくてもいい。既に、ロープは天井から吊るしてある。ちゃんと届くように、高さも調節してある。準備は万端だ。愛用していた勉強机に登る。


これを買ったのは幼稚園を卒業してからすぐだった。好きなキャラクターのデスクマットを買ってもらって、初日だけ張り切って勉強したなあ。新しくノートを買ってもらったときも、同じようなことをしたっけ。懐かしい思い出が脳裏にちらつく。思えば、生きているのだって、最初だけはすごく楽しかったはずだ。空き地でトンボを捕まえて羽をむしったあの日。それだけで、すごくワクワクした。それなのに、今では、そんなことをしても楽しめそうにない。だから生きている意味なんてない。


痛い思いをするのも、これで最後になるんだ。私は輪っかになったロープに首をかけると、そのまま、机から飛び降りた。最初は首が締め付けられるように痛かった。実際締めつけられてるんだから当然か。それでも、少しずつ意識が遠のいて行く。


どうやら私は、そのまま眠っていたようだ。晴れて永眠できたわけではなく、残念ながら、普通に生きたまま眠っていた。


体にかけられている白い布団は、いつもと違う手触りと匂いだった。それに加えて布団が軽い。家にある布団は、もっと重たくて、体を押さえつけるような安心感がある。そしてもっと柔らかい匂いがするのだ。いいや、別に家の布団が好きなわけではない。ただ、この布団の寝心地が悪いだけだ。ここはどこだろう。


漆喰で塗り固められた白い壁。それとは少し違う材質の高い天井には、青白い光を纏う蛍光灯が等間隔で四つ取り付けられている。床はフローリングでできていて、薄汚れてはいるものの、きちんとワックスが掛けられているようだ。向こうには、ブラインドのカーテンが見える。


あたりを見回してまず思ったこと。狭い。そしてそこらじゅうの物が白い。その割に、ごちゃごちゃしている印象を受ける。


私から見て左側には、私のものと同じようなベッドが三つ、横に並んでいた。一番近くにあるベッドの横には、透明な液体の入った袋が、スタンドに吊るしてある。点滴の袋から伸びた管は、先端に針がついていて、患者と思わしき少女の腕に刺さっていた。死んだように、寝息もたてず眠っている。つやつやした、腰まで伸びている黒髪とこの病室の壁くらい白い肌が不気味だった。


少女のベッドより奥の方のベッドでも人が寝ているのを確認できたが、顔までは分からなかった。よく見ると、一番奥のベッドと隣のベッドとの間が、何か透明なもので仕切られているようにも見える。


ここは病室か。余計なことをしてくれたな。ちゃんと死ねなかったじゃないか。それならばここで首を吊って死のう、そう思って立ち上がる。…はずだったが、体が動かない。何か拘束具を付けられているようだ。そのうえ体が物凄くだるい。動こうとするたびひどく痺れる。一体どうすればいいのだろう。


この時私は、自分が舌を噛み切って死ぬ度胸も無いことに気が付いた。そういえば、あのときだって、あんなに痛いとは思ってもみなかった。そしてそのことに気付くと、急に死ぬのが怖くなってきたのだった。


もう一度あの痛みを味わう勇気はない。それでも私は、生きていたいわけじゃない。どうにかして、痛みを感じずに死ぬ方法を考えなければ。私はとりあえず、何もせずに誰かが来るのを待つことにした。

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