・2・とある生贄の乙女
アジュリーンは、辺境にある小さな村の娘であった。
農家の次女に生まれ、上に兄と姉を一人ずつ、下に弟二人と妹一人にはさまれて、普通の農民の生活をしていた。
アジュリーンは、昔から村の中では少し異質であった。
月色の髪に乳白色のひとみ。
肌も透けるように白く、薄茶の髪目を持つ父とも、赤毛で褐色の瞳の母とも似ていなかった。
それに加え、誰もが見惚れるような美貌を持ち、一時は母の不貞が疑われた程だった。
また、彼女自身も少し変わっていた。
綺麗に丸い目を常に眠たげにトロンとさせ、口元は薄っすらと微笑み、はにかんだ表情をしている。
口数は少なく、どこかぼんやりとしていて、良く言えばおっとり、悪く言えばのろまな性格であった。
自身の美貌にはとんと興味がなく、いつも黙々と畑を耕し、少女たちが色めく恋やおしゃれな話より、川辺や森の中で眠る事を好んだ。
実際の所、彼女の色素の薄さは魔力の影響であり、アジュリーンが多量の魔力を持つ証であったのだが、残念ながら辺境の村にそれを知る者はいなかった。
川辺や森を好むのも、そのような自然の場では大地の魔力が染み出し、彼女の魔力と融和する感覚がとても心地良いものであったからなのだが。
もちろん、アジュリーン自身もそんな理由は知らなかったが、温かく母の胎に抱かれるようなそれがとても気に入っていた。
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ある日、アジュリーンの村にいつも税を取りにくる役人と共に、黒装束の男が訪れた。
彼は悪魔使いであり、あの命令を実行するために来た。
その時、彼女は母や弟たちと畑にいたのだが、呼びにきた村人たちに連れられ、村へと戻った。
村人が全て集まると、悪魔使いはすぐにアジュリーンに目を留めた。
命令の条件に合う者はアジュリーンだけであった。
彼女の家族には五年は楽に暮らせる金が渡され、アジュリーンは家族に別れを告げた。
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アジュリーンは一旦その地方の領主の館に連れていかれ、そこにいた他の乙女らと共に王都へと旅立った。
その地方からは、彼女も含めて四人の乙女が選ばれていた。
皆、色は違えど淡色の髪や目を持ち、整った顔をしていた。
そして皆、村娘であった。
不安げにする者、夜な夜な涙を流す者もいる中で、アジュリーンは変わらぬ微笑みを浮かべていた。
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王都へ半分ほど進み、そこでさらに格上の貴族の元へアジュリーンたちは預けられた。
乙女は合わせて十二人になった。
村娘五人に、町娘が六人、そして下級貴族の令嬢が一人。
旅は続き、やがて王都へ辿り着いた。
開戦まで、後二ヶ月を切っていた。
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王宮に迎えられても、アジュリーンは村にいた頃と変わる事はなかった。
人生で初めて食べる高級な食事に、素晴らしい衣服の数々に、そして豪華な部屋に彼女は純粋に感動していた。
しかし、畑仕事がないかわりに、一日のほとんどを庭園や泉のそばで微睡んで過ごしていた。
と言っても、他の乙女たちにも同じような事をする者もいた。
幼い頃から教育を受けた貴族たちは、そんな事は決してしなかったのだが、アジュリーンに似た、おっとりした性格の村娘や町娘は、彼女のそばでゆったりとおしゃべりをしたり、微睡んだり、歌ったりしていた。
アジュリーンはそれらを眺めながら、体に沁みる心地良い感覚にひたっていた。