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Demon Meets Girl  作者: 有寄之蟻
本編
17/21

・17・受容




『アズ』


「はい」


『アズ・・・』


「はい」


『・・・・・・オレは』


ジーンカイルは顔をあげ、アジュリーンの柔らかい瞳の色を見つめた。


丸い目はトロンと潤み、じっと彼の紅い虹彩を見つめ返した。


『情けない。体が震える。・・・・・・4位悪魔のこのオレが。――――あぁ、でも、怖いんだよ、アズ』


額と額を合わせ、苦しげに吐き出す。


アジュリーンはその頬に両手を添え、強い視線を送る。


「大丈夫です、ニコ」


『本当か・・・?』


「本当です」


アジュリーンははんなりと口に弧を描き、


「ニコの全部、わたしに見せてください」


甘えた声で、そうねだった。


『っ・・・!!!』


カッと目を見張り、みるみる朱に染まるジーンカイルの顔。


世界から音が消え、アジュリーンしか見えなくなる。


完全な殺し文句であった。


「――――――――――――んんっ」


しばし時が経って、遠慮がちな咳払いが響いた。


ゆっくりアジュリーンが目線を動かすと、『仕方ない子達』と言った様子でキュベルージュが腰に手をあてていた。


『覚悟は決まったかしら?そろそろ試練を始めましょう』


アジュリーンは頷き、ジーンカイルに顔を戻して、ぺちぺちと優しく頬をはたく。


我に返ったジーンカイルは、一度強く彼女を抱きしめ、やがて腕をはなし十歩ほど距離をあけた。


焦がれるように見つめるジーンカイルに、アジュリーンはしっかりと頷いてみせる。


ジーンカイルはすっと目を閉じると、大きく息を吸った。


――――じわりと体から魔力が漏れ出し周囲に漂う。


そしてほろりと輪郭が崩れ、黒い霧が生まれていく。


ざわざわと膨らむ霧は宙へと浮き上がり、不意にずるりと細長いものがとびだした。


紫色のそれは、一本、二本、三本と数を増やし。


蠢く触手の塊の中心から霧が動き、白い肉球をあらわにしていく。


完全に剥き出しになったそれは、血のように紅い虹彩の巨大な目玉。


大気を押し潰すような魔力を発しながら、ついにジーンカイルはその本性をさらしたのであった。






◆◆◆◆◇◇◇◇◆◆◆◆◇◇◇◇






異形へと戻ったジーンカイルは、恐る恐るアジュリーンへと意識を向けた。


そこには、顔いっぱいに歓喜を湛え、涙をこぼすアジュリーンの姿があった。


ジーンカイルは凄まじく戸惑った。


彼女は見たことない程嬉しそうな表情をしている。


けれど、一度も見たことのない涙が頬を滑り落ちる。


「見せて」と望んだのだから、喜んでいるはずだが、なぜ泣いているのであろうか?


ジーンカイルは"嬉し泣き"というものを知らず、己れがアジュリーンに初めて会った時の事も思い出す事はできなかった。


悪魔である彼さえ、本能的な喜びに涙を流したというのに。


動きをみせないジーンカイルに向かって、アジュリーンがゆっくりと両の手を伸ばす。


「ニコ」


ただ、一言。


その二つの音があまりにも優しくて、ジーンカイルは思考を吹き飛ばされてしまった。


"受け入れてくれた"


ただまっすぐに悟り、ジーンカイルはアジュリーンの元へと降りた。


彼女の倍はある巨体に無数の触手があるため、どう近寄ればいいか迷ったものの、アジュリーンが白い眼球に抱きついた事で解決した。


するすると、触手で彼女を包む。


アジュリーンが滑らかな目玉の表面をゆったりと撫ぜる。


その感触に快感がはしり、ジーンカイルはぞわりと身を震わせた。




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