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Demon Meets Girl  作者: 有寄之蟻
本編
16/21

・16・試練



【まだらの国】。


悪魔とその主人が暮らすそこは、そう呼ばれているらしい。


『あっちに行く前に、二人にはやってもらう事があるの』


そう言ってキュべルージュが告げた事は、ジーンカイルにとって忘れていたい事であった。


"悪魔としての本性を主人に見せる"


彼の本来の姿。


巨大な紅い虹彩の目玉に、黒い霧をまとい、四方から紫の触手を伸ばしている、あれ。


「召喚の間」でアジュリーンに出会ってから、彼はずっと人型のままであった。


自分の本性を見られたくないと強く思い、とっさに変化してからすっかりその気持ちを忘れていたのである。


彼女が目隠しされていた事をいいことに、まるで人型こそが本当のように、見ないふりをしていたのである。


異形そのものの姿を見られたら、きっと彼女は自分を拒絶するだろう。


あの微笑みを消して。


その身に触れる事も許されなくなる。


ゆっくりした口調で「ニコ」と呼んでくれる事もないであろう。


それは、ジーンカイルが抱える最大の恐怖であった。






◆◆◆◆◇◇◇◇◆◆◆◆◇◇◇◇






『・・・・・・本当に、しなければいけないか?』


これまでになく沈んだ声で、ジーンカイルは問いかけた。


次の日の真夜中。


王宮の庭園に三人はいた。


空には中途半端に膨らんだ月。


周囲には結界が張られ、人の気配はない。


『絶対にね。誰もが通る道よ』


キュベルージュは突き放すように肩をすくめた。


彼の隣で、アジュリーンは表情を凍らせているジーンカイルを見上げていた。


心配げに眉根が寄っている。


左腕をそっと握り、彼の注意を引いた。


「・・・・・・ニコ、怖いですか?」


『アズ・・・』


昏い目で彼女を見下ろして、茫然としたようにその名をこぼす。


ジーンカイルは口を開こうとして、しかし、わななくそれを抑えるようにぎゅっとつぐんだ。


こころなしか、体も震えているようである。


「ニコ」


呼んで、アジュリーンは掴んでいた腕を引っ張る。


力なくかがんだその体を受け止め、ジーンカイルの頭を胸に抱いた。


しっとりと髪を撫でる。


「・・・大丈夫ですよ」


ぽつりとした、優しい声。


ジーンカイルはそろそろと腕を回し、縋るように彼女を抱きしめた。






◆◆◆◆◇◇◇◇◆◆◆◆◇◇◇◇






二人から少し離れた位置で、キュベルージュは微笑ましくそれを見ていた。


懐かしい光景であった。


かつて、己れが主人と【まだらの国】へ行くと決めた時、同じような事をしたのである。


キュベルージュが召喚されたのは、今と同様の戦争の規則からだった。


召喚の儀式に偶然立ち合わせた、当時騎士だった主人を見つけ、すぐさま人型をとり契約。


戦争が終わり、その身の置き場がなくなった時、【まだらの国】へと誘われた。


悪魔の本性をしっかりと見せ、主人がそれすらも受け入れるならば、【まだらの国】で暮らす事を許される。


けれど、もし万が一主人が悪魔を拒んだのなら、【上位悪魔】の権限で契約は破棄され、悪魔は強制的に魔界へ還されてしまう。


究極の二択。


"絆の試練"と呼ばれるそれを彼女と騎士は行い、無事乗り越えたのである。


悪魔はみな共通して、終生を誓う主人に対してのみ、本性をさらす事にとてつもない恐怖を感じるらしい。


その恐怖を克服した悪魔、そしてその姿さえも受容した人間だけが、その先の生を正しく(・・・)過ごせる(・・・・)のだという。


よって、この試練は【まだらの国】へ行く者に必ず行われるのであった。




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