・13・畏れるのは仕方がない
結果として、ジーンカイルは命令を遂行し、アジュリーンの望みは叶えられた。
青の国は国境があった平地をまるまる取り込み、領土を広げた。
しかし、青の国には一つ、大きな問題が残されていた。
高位悪魔ジーンカイルと、その主人となってしまったアジュリーンである。
従来なら、高位悪魔は戦争の終結までの契約とし、戦争が終われば自然と魔界へ還る。
しかし、ジーンカイルは"アジュリーンの生ある限り"と契約しているため、当然還らない。
一匹で国を滅ぼせる高位悪魔が、戦時中以外に国内にいれば規則違反である上に、周辺国によけいな威圧を与え、国家間の不和に繋がってしまう。
最も簡単な解決策は、アジュリーンの死であるが、ジーンカイルがそれを許すはずもない。
もしそれを実行しようとすれば、それこそ青の国が滅ぶであろう。
次の手段としては、国外へ出てってもらう事であるが、どこもそんな爆弾を抱えたくなく。
また、問題の大きなところは、アジュリーンという個人が力を持っている事である。
彼女の意思しだいで、何にでも悪魔の牙が剥かれるかもしれないのである。
尤も、アジュリーンがそんな事するはずなどないのだが、重要なのは可能性が存在している事であった。
青の国の国王と大臣らが頭を悩ましてる間、アジュリーンは王宮で最高待遇されていた。
とにかく機嫌を損ねないように、と様々な催しが行われ、大量の贈り物が届けられた。
彼女がそれに喜んだ様子は見られなかったが、悪魔が大人しくしている事は確かであった。
有効な策が見つからないまま、一月ほど経ってしまい、もうこのまま有耶無耶にしてしまえばいいのでは、と国王たちが考え始めた頃、アジュリーンとジーンカイルが姿を消した。
王宮は騒然となり、国内・国外ともに大捜索が行われたが、彼らの消息は分からなかった。
もしや、何かとんでもない事を企み、どこかに潜んでいるのでは、と一時は警戒態勢がしかれたが、一月過ぎ、三月過ぎ、半年、一年と時が経っても二人が現れる事はなかった。
"生贄の乙女は、悪魔に魅入られて魔界へ連れ去られたのだ"
そんな噂がどこからともなく流れ始め、やがてそれが真相として扱われるようになった。
国々はやっと安堵に胸をおろし、数年後にはまた、懲りずに領土争いを始めたのだった。