・12・それは彼女の望みが故。
「わたしは・・・・・・この国に負けてほしくないです」
ジーンカイルの問いに、アジュリーンはそう答えた。
『じゃあ、この戦争を手伝うのがお前の望みなんだな?』
彼が確かめると、小さく頷いた。
「でも」
『ん?』
「条件が、あって」
『なんだ』
訝しげに眉をあげるジーンカイル。
「ただ勝つんじゃなくて・・・この国の人も緑の国の人も、どっちも死ぬ人がいないように」
その言葉に、ジーンカイルは目を見張る。
アジュリーンの表情は、いつもと変わらぬあの微笑みのままだ。
『ずいぶんと欲張った条件だな』
呆れたような彼の声に、アジュリーンはわずかに眉を下げた。
「はい。・・・・・・国が負けたら、土地が取られます。わたしのいた村は国境に近いから、きっと取られてしまいます。・・・家族が緑の国に行ってしまうのは嫌です。でも・・・この国の人も緑の国の人も、どっちも国に待っている人がいるかもしれないから。・・・死なないでほしいんです」
普段言葉少ないアジュリーンがこれだけ長く話した事が、彼女の思いの強さを表していた。
ジーンカイルは、ス、と目を細めた。
視線はアジュリーンを向いているが、どこか違う景色を見ているように彷徨う。
じんわりと、彼の体から魔力が漏れだした。
やがて、意識をこちらに戻したジーンカイルは、険しい顔をする。
『アズ、誰一人死なない、というのは無理そうだ。すまない』
唐突な謝罪に、アジュリーンは不思議そうに目を瞬く。
『今少し"先読み"してみたが、どうしても被害はでてしまうようだった』
「先読み・・・?」
『オレは"先見の悪魔"だからな。一定の未来を見る事ができるんだよ。 ――――で、だ。あちらの国に召ばれる悪魔が知ってる奴で、何してくるか分かるから、被害を最小限に抑える事はできる。・・・それがオレができる最高だ』
告げられた言葉に、アジュリーンは目を伏せしばし考えるようにした。
そして、ジーンカイルを見上げて言う。
「お願いします」
『御意に。――――と言いたいところだが、それじゃあだめだ、アズ』
ジーンカイルは茶化すように笑うと、彼女の右手をとる。
『主人は僕に"命令"しなきゃな。そうすればオレは全力でお前の願いを叶えられる。――――我が主人殿、ご命令を』
アジュリーンはわずかに首を傾けると、己が悪魔に命令を下した。
「・・・ニコ。なるべく人が死なないように、この国を勝利に導いてください」
ジーンカイルは満足げに笑うと、主人の手に口付ける。
『仰せの侭に、我が主人アズ』