・1・命令
『見目麗しい、魔力の豊かな乙女を探せ』
その命令は、緑の国との戦争の知らせと共に、青の国を駆け巡った。
戦争のきっかけは簡単なものであり、日常的に起こる国境沿いでの小さな抗争で、普段以上の被害が出た事。
常日頃から領土拡大を目論む二国は、堂々と土地を奪える戦争の口実を手に入れ開戦を宣言した。
抗争で主な戦力となるのは、国軍の辺境部隊と辺境伯の私兵であるが、戦争となると話が変わる。
エリート部隊の【悪魔使い】とそれを守る重装歩兵、そして最大の切り札は国王の使役する高位悪魔である。
どれだけ高位の悪魔を使役できるかで国力が測れ、戦争の勝敗を決定してしまう程の強大な力。
高位の悪魔ほど、多くの魔力と質の高い生贄が必要になる。
悪魔によって嗜好は異なり、色欲を好むものもいれば、食べ物を要求するものもいる。
青の国は、どうやら魔力と乙女を好む高位悪魔を召喚するようであった。
高位悪魔の召喚は、戦争な勝利するために最も優先される事であり、命令は絶対である。
国の隅から隅まで命令は伝えられ、辺境の村娘から王都の貴族の令嬢まで、王族を除く貴賎を問わない数十人の乙女が国中から集められた。
皆、はっと目を引く美しい顔を持ち、そこらの悪魔使いにも劣らぬ魔力を持っていた。
青の国では、悪魔使いには男しかなれないのだが、それはこのように高位悪魔の召喚時に、『魔力の豊かな乙女』を生贄に捧げるためであった。
乙女たちは王宮に迎えられ、豪華な食事、綺麗な衣装、贅沢な暮らしを提供された。
全ては高位悪魔の生贄として捧げられるまでの、つまり死と等しい、あるいは死を迎える乙女の最期の時間を幸福に過ごさせてやろう、という国家の計らいであった。
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