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海賊寓話番外編『海賊と海賊狩り』

 オレンジ色の蝋燭の火が、酒場の中を照らしている。大勢の男たちが閑談に夢中だ。その奥まった席に、一人の男が座っていた。

 待ち人が居るのだろう。手元に持った懐中時計を眺めては時折溜息を吐いていた。

 テーブルの上には既に注文されたエールとカポナータ(揚げナスの甘酢煮)が半分に減っていた。本当なら熱々のところを頬張って、喉元を冷やすようにエールで追い討ちをかけるのが最高に美味いのだが、料理もエールもすっかり気が抜けてしまっていた。

『遅うございますな』

『……どうせ、近くの娼婦宿の辺りでアッチコッチと値踏みしているんだろうよ』

 声無く男は従者と会話し、温くなったエールを仰いだ。折角の料理も残すのは惜しいと口に運ぶ。

 追加のエールと料理を頼もうと、ウェイトレスを呼んだ男の瞳が、薄暗い酒場の中で蝋燭の火を反射して煌いた。そこで天体ショーが起こっている様な不思議な瞳。金冠日蝕を思わせる奇眼を持つ男、メーヴォ=クラーガは、己の乗る船の船長を今か今かと待ち続けていた。

 キンキンに冷えたエールのグラスと、熱々に焼けた陶器に入った海老のアヒージョ(ガーリックオイル煮込み)が運ばれてくると、メーヴォは気を取り直してそれに向かった。船に乗る専属の料理人の作る飯も美味かったが、この酒場の飯も中々に美味い。熱々の海老を口に運び、ガーリックの香りごとエールで喉の奥に押しやる。美味しい、と感嘆が出る。

「よう、オニイチャン。美味そうにやってんな」

 蝋燭の明かりを遮る巨漢の影が落ちる。掛けられた声の先を振り返る事もせず、メーヴォは二つ目の海老を頬張った。

「無視すんなよ、蝕眼のメーヴォ。生け捕り賞金首のアンタを相手に悶着はしたくねぇんだ」

 ガーリックの匂いのする溜息を一つ落として、メーヴォはやはり相手のほうを見ずに口を開いた。

「で、その僕に声を掛けてどうする?此処の飯は美味いから、出来れば静かに食事をしたいんだが?」

「なら奢らせてくれよ、なぁ?その代わり、俺たちの海賊団に着てくれりゃ、それゃあ難しい事はなんにも起きねぇぜ?」

 どうして僕が行くと思うんだ?、と口に出す代わりにエールで口を塞ぐ。冷えたエールもこれでは台無しだ。

「すみませぇーん?そちらのお客様にパスタお持ちしたんですけどぉ?」

 困り顔のウェイトレスが男たちの後ろから声を上げる。大男を前にそれでも己の仕事に徹するその姿勢は素晴らしいが、男たちは彼女の仕事の邪魔をしていると言う自覚は無いようで、一向にテーブルの周りから動こうとしない。

 もう、と溜息を吐いたウェイトレスの肩を、男が叩いた。

「はいはい、じゃあ俺がお届けしましょうかねぇ」

 緑髪の男がニヤリと笑ってウェイトレスの手からアラビアータの皿を受け取った。

「そして可愛いお嬢ちゃん、俺のためにキンキンに冷えたグラスでエールを一杯持って来てくれるか?」

「あ、お連れの方で……?少々お待ちくださーい!」

 ウェイトレスを見送った男が、テーブルに陣取る大男たちの膝裏を蹴り上げて転ばし、押しのけ、メーヴォの横の椅子に何事もなかったように腰掛けた。

「遅いぞ」

 ようやく視線を動かしたメーヴォの横で、男はえっへっへ、と顔を緩めて笑う。

「娼婦通りの女の子たちが可愛くってさぁ。色々吟味して来たんだよ。後で行こうぜ?」

「そんな事だろうと思ってたよラース。あと僕は娼婦宿には絶対に行かない」

 連れねぇの!と頬を膨らませて男、ラースタチカ船長はメーヴォの手からフォークを奪ってアラビアータを突いて口に運んだ。

 おいそれは僕の!と言うメーヴォの抗議の声と、美味い!と言うラースの声を、男たちの怒声が上書きした。

「てめぇら俺たちを無視すんじゃねぇよ!」

 ドン、と振り下ろされた拳がテーブルを揺らす。よくある小競り合いだろうと、酒場中の客が一瞬だけ目をやり、また自分の手元へと視線を戻して行った。

「俺たちをコケにするとどうなるか分かってんのかぁ?」

 凄む男たちに、今その存在に気が付いた、とでも言う顔で、ラースとメーヴォが揃って顔を上げ、その視線を互いに戻した。

「……メーヴォ、こいつらダレ?」

「……知らない人?」

「知らない人と話しちゃダメって俺言ってるだろ?」

「話してないぞ、多分」

「ふっざけんじゃねぇぞぉぉ!」

 完全に茶化された男たちが額に青筋を浮かべながら、テーブルを再びドカンと叩いた。

「黙ってればいい気になりやがって!力尽くでその男を浚っても良いんだぜ!」

 男が吼えた瞬間、その鼻先に冷たい銃身が触れた。

「あのさぁ?黙っててくんない?この酒場の料理美味しいんだからさ、静かに食事がしたいの、俺たちは」

 聞いたような台詞を口にしたラースに、男は頬を引き攣らせた。

「エールお待ちどう!」

 エールを持って来たウェイトレスが、ラースの構える銃を見て一瞬笑顔を引き攣らせたが、エールのグラスを受け取りつつ、中指と薬指で挟んだ金貨を一枚受け取らせて黙らせた。そそくさとカウンターへ戻っていくウェイトレスを見送りつつ、口止め料にしてはくれてやり過ぎだ、とメーヴォは思うも口にはしなかった。どうせそれでは足りない程の惨状が繰り広げられるかもしれないのだから。

「なあオッサン達よ。俺はテメェらの脳漿とこのアラビアータを一緒にしたくねぇんだわ。さっさとお引取り願おうか?」

「やるならせめて食後が良いんだが」

 酒場で悶着を起こすと、美味しい料理も中途半端にしか食べられなくて勿体無いんだ、とメーヴォも静かに男たちへ視線を運ぶ。

 今この場で武器を抜くならば死を覚悟しろ、と言わんばかりの殺気の篭った視線を二人分。死弾と異名を囁かれる海賊団のツートップが揃って睨みを利かせれば、男たちはその実力差を認めざるを得ない。

 しかしそれで引き下がれないのが、海の男たちの気概なのだ。

「なめやがってぇ!」

 銃を突き連れられている男の横に居た手下が、剣を抜いた。それに端を発して、男たちが次々に武器に手を掛けた。

 次の瞬間、空気を裂く音と発破音、そして男たちの悲鳴が酒場の中に響いた。

「剣を向けるという事は、此方からの反撃も視野に入れてのこと、で間違いないな?」

 床に倒れた男たちは、軒並み耳や肩の一部を吹き飛ばされて身悶えている。男たちよりも一瞬早く武器を手に取り、火薬を仕込んだ特性の鞭、『ヴィーボスカラート』でメーヴォが男たちにピンポイント爆破を仕掛けたのだ。

 ただの小競り合いでないと分かった酒場の客たちがザワザワとどよめき出す。中にはそそくさと席を立つ者も居た。賢明な判断だ。

 額に銃砲を突きつけられたままの男は、その顔色をざぁっと青白く変え、それでもと言う風に手を握り込んだ。

「時には退く事も大事だと思わないかい?」

 にんまりと笑って嫌みったらしく口にしたラースに、とうとう男も後には引けなくなったようだ。

 大柄な割に素早い動きで一歩下がって低く構えた男は、何処から伸ばしたのか格闘爪をラースの頭部目掛けて振り上げた。

 椅子から立ち上がってそれを避けた際に、ラースの腰に下げていた絹布の包みを格闘爪が掠めた。切り裂かれた布から、金色の髪がはらりと散った。

 あ、ヤバい。メーヴォが静止の声を掛ける間も無く、目にも止まらぬ早抜きで、その両手に銃を構えたラースが二発ずつそれを撃っていた。大振りな一撃を外した男の背中はがら空き。その背中、腰、首、心臓に後ろから一発ずつ。どれも致命傷に至る銃撃を打ち込み、ラースは男を瞬殺した。

「エリーの髪に何てことしやがったテメェ!ただ殺しただけじゃすまねぇぞ!」

 その時点で酒場の中は狂乱の渦中。女たちは悲鳴を上げて逃げ出し、男たちも被害が及ばないように身を隠すことに必死だった。この騒ぎでは、国軍の兵士が出張ってくるのも時間の問題だ。

「ラース、その辺にしておけ。行こう、軍が来るぞ」

「何だよメーヴォぉ、まだ殺し足りねぇんだって!」

「お前のやり方じゃ時間が掛かるんだ」

 ほら、と腕を引きつつ、メーヴォはコートの裏側から小さな爆弾を一つ取り出し、ぽん、と男の死体に向かって投げた。

「ちぇ!」

 去り際に大きく舌打ちをして、ラースは放られた爆弾の導火線目掛けて弾丸を撃ち込んだ。

「店の修理費に当ててくれ」

 メーヴォが最後に酒場のカウンターに金貨の入った皮袋を投げ、爆音と共に二人は酒場を後にした。

 何処の港でもラースが関わると良い事がない!と憤るメーヴォに、美味い料理を食い損ねた!と憤るラースが二人並んで夜道を駆けていく。仕方ないからエリザベート号の料理長に美味い夜食を作ってもらおう、と二人は急ぎ足で港へ向けて裏通りを走っていった。

 爆破からの小火騒ぎに騒がしい酒場を背に、剣を携えた男が一人。海賊が走り去る方を睨んでいた。



 港への道中、揃って歩を緩めた二人は、はぁと上がる息を整えつつ、ちらりと互いに目配せした。

「つけられてるな」

「やっぱりいるかぁ……国軍だと思うか?」

「いいや、一人だな」

 小さく確認し合った二人は、整った息を三回の呼吸で合わせ、同時に走り出した。背後の追跡者が動揺し足音が乱れた気配がした。二人の走った先には高い塀が立ちふさがっていたが、ラースがその右腕に付けた腕輪を天へ翳し、呪文を口にする。腕輪から光のロープが塀向こうの建物に付着したのを確認し、左手にメーヴォの手を取り、二人は風の魔法をまとって塀の上へとヒラリと身を翻した。

 振り返った先で、塀の下に居たのは一人の男だった。全身を覆うような長い黒髪の隙間から、細い手足が伸びているような不気味な印象だ。

「どちらさん?俺らをつけて来てなんの用だ」

「貴様等、先ほど酒場を爆破した海賊だな」

「だったら?」

「貴様等が、死弾だな」

 黒髪と夜の闇が一体となり、男と闇の境界線が何処だか分からない。ただ、青白い顔の一部とやはり闇を湛えた黒い瞳が暗闇の中に浮かび上がった。

「海賊狩りと言えば、分かるだろう?」

 鉄の擦れる音がして、男が細く長い手で下げていた剣を抜いた。その瞬間、辺り一帯を冷気が走った。

「ラース!」

 剣が閃くと同時に、剣戟が形を成した。メーヴォが叫び、その瞬間二人の体は塀の向こう側へと落ちた。二人の立っていた塀が斬り裂かれ、砕かれた石材が瓦礫となって崩れ落ちる。

 ほぼ全てが一瞬だった。ピヒュン、と音がして魔法のロープが背後の建物の上へと放たれ、二人は地面に打ち付けられることはなかったが、降り注ぐ瓦礫に二人はあっと言う間に埋もれてしまった。鉄を打つ音が辺りに響きわたる。

「金属音……だと?」

 再び剣が空気を切り裂き、塀の残った部分が崩れ、その僅かな石材の隙間から銃弾が二発放たれる。

「ちっ」

 海賊狩りと名乗った男は咄嗟に身を翻してそれを避けた。その視線の先で、ガラガラと瓦礫を押し退けて橙色の鉄の翼が羽ばたく。

『助かったぞ鉄鳥』

『朝飯前でございます』

 メーヴォの従者である魔法生物、鉄鳥(てつどり)がその翼を伸ばし、瓦礫から二人の身を護ったのだ。

「嫌な感じの剣術使いだな」

 オマケに目も良い、とラースが構えた銃をそのままに、先ほどの銃撃を避けられた事に眉根を寄せた。

「俺の一撃をそんな形で防いだのはお前たちが初めてだ。死弾、そう名の通るだけある」

 ゆらり、と闇の中に溶ける男が剣を構える。その銀色の刀身だけが宵闇の中に浮かんで見えるようだ。ひゅうと何処からともなく風が吹き抜け、それが肌を刺すようにひりりと冷たい。

 ラースは銃を構えたまま、メーヴォは腰に下げていた赤い鞭を手に、ラースの後ろに構える。三者が二竦みで見合う。この冷気はなんだ?メーヴォは周囲に漂い始めた異様な空気に気を張っていた。

 程なく、崩れた塀の所有者である建物の住人が騒動に気付き悲鳴を上げた。

 それを合図にメーヴォの赤い鞭が閃光のように閃き、男に向かって火花が散り、そこを潜り抜けるように筒状の爆弾が宙を舞う。ラースが構えた銃を撃ちつつもう一丁の銃を抜いて続けざまに弾幕を張る。

 ぴひゅん、と剣が閃くと同時に、男の姿が飛び上がった。剣戟を足元へ放ち、その衝撃波で上へと逃れ、更にラースとメーヴォへと剣戟を振り下ろす。跳ねるようにラースが後ろに飛び、同時に一歩前に出たメーヴォが鉄鳥の延ばした羽根で飛んで来る剣戟を防いだ。

 ガツンと鉄の震える音、ギュワっと氷の鳴る音がした。

『ほわっ、冷たい!』

 剣戟を受けた鉄鳥の羽根が凍り付いていた。

「氷?そうか、氷の魔剣か」

 敵の武器を冷静に分析する一方で、メーヴォはその武器の脅威に頭を巡らせる。これは爆弾の攻撃が効くのか?炎を持って対抗出来るのか?メーヴォの頭の中で瞬時に対処法が駆け巡った。それはラースも同じようで、片手に構えた氷の魔法銃を太もものホルスターへ戻していた。

 どん、と音を立てて闇が降りて来る。鉄鳥の羽根に隠れたまま二人はちらりと目配せする。どうしようか?さぁて?真剣な顔を向けたメーヴォに苦笑したラースが、ちっと舌打ちされるまでのごく僅かな間に、海賊狩りの男は再び剣を構えて間合いを計っていた。

「俺は海賊狩りのアウグスト。氷刀使いの通り名で知られている」

「ご丁寧に、どうも」

「魔弾のラース、蝕眼のメーヴォ。貴様らを倒した賞金で俺は船を手に入れる……あの海を行くのだ……」

 闇が囁く。妄念を押し固めたような言葉は重く、そこにあるのは狂気的な執着だった。

「ワリィな賞金稼ぎさんよ。俺らはお前の餌になってやるわけにゃいかねぇんだ」

「ラース、そろそろ騒がしくなって来たぞ」

 路地裏に面した家々の窓からは時折光が見え隠れし始め、人々がざわめく声が聞こえる。早く行かねぇと軍の奴らが来ちまう、と毒吐いて、ラースがその手の魔銃を立て続けに撃った。

 アウグストは銃口の向きから素早く着弾点を見出して身を翻した。避けた、と思ったその鼻先に、ひゅん、と音を立てて筒状の爆弾が飛来した。しかしその導火線に火が着いていなかったようで、そのまま後方へと転がって行った。

「下手くそ!」

「うっせぇ!あんな曲芸じみた事即興で出来るか!」

「もう良い」

 僕が仕留めてやる、と鉄鳥の羽根を閃かせながら、メーヴォがその手に赤い鞭と爆弾を構える。

 蝕の瞳が輝いたように、赤い鞭が闇の中に閃光を描いた。鞭に仕込んだ火打石で爆弾に着火しながらそれを弾き飛ばすメーヴォの攻撃に、アウグストは剣戟で持ってそれを切り落とした。爆弾が剣戟に切り裂かれて爆発音を上げ、仕込んであった煙幕が勢いよく吹き出した。

「なんだと!」

「ラース、行くぞ!」

 おう、と短く答え、二人は崩れた塀の奥へと足早に駆けた。

「くそっ」

 剣戟で煙幕を払うも、既に海賊二人の姿は見えなかった。奥歯を噛み締め、海賊狩りの男は晴れた煙幕の向こうに鋭い視線を投げた。

 まだだ、闇に溶け入るような声で囁いた男が、二人を追って足を一歩前に出した瞬間。

「おっと、残念だったな」

 後ろだ、と言った声と銃声が響く。冷気を切り裂いて弾丸が飛ぶ。

 振り返ったアウグストが、寸での所でその弾丸を避けた。

 あの一瞬でどうやって背後に?煙幕の中で何が起きた。

 そう言葉を紡ぐ前に、行き過ぎた弾丸がアウグストの背後に落ちて来た爆弾を打ち抜いた。

 弾丸によって打ち抜かれた爆弾が頭のすぐ横で爆発し、その爆風に頭を打たれ、火炎が髪と頭部を焼いた。

「きっさま、らぁぁあ!」

 アウグストの叫びを他所に、ラースとメーヴォは魔法のロープを使ってひらりとその体を夜空に躍らせた。

 その後姿を駆けつけた国軍の兵士が目撃する。メーヴォの着ていたコートの裾が羽ばたく翼のように月明かりに浮かぶ。追え!と叫ぶ声も人々の喧騒と、塀を壊されたと言う住民の必死の懇願で掻き消された。

 人々の悲鳴が港の夜に響き、勇敢な男たちが水を片手に海賊に返り討ちにされた賞金稼ぎを救った。医者を呼べと叫ぶ声、しっかりしろと呼びかける声。塀の修理の保障はしてくれるんだろうなと国軍の兵士に詰め寄る商人らしき男の声が、入り混じってアウグストの耳朶を打つ。

 その腹の中にふつふつと黒い敗北の憎しみが湧き上がっていた。

「……ヴィカーリオ海賊団。魔弾のラース、蝕眼のメーヴォ……逃すものか……地の果てまで追って、殺してやる」

 低く低くアウグストは呻き、焼けた髪の隙間から天を仰いだ。



「良く分かったな」

「メーヴォが考えそうな事くらい、分かるさ」

 爆弾が切り落とされるであろう事を予見し、煙幕弾を投げて相手の視界を奪った。その隙に逃げたように見せかけて、魔法のロープで建物の屋根へ移動し相手の背後へ回った。メーヴォが相手の前方に爆弾を投げたのに合わせ、ラースが敵の注意を引きつつその爆弾を打ち抜く。

 何の打ち合わせもなかった。ただそうするだろう、と二人は互いにその行動を予測していた。してやった、と二人は互いの健闘を笑いながら、ひらりひらりと建物の屋根伝いに走り、愛しの淑女エリザベート号へとその姿を消した。

 何処の港でも、騒ぎの中心にいるのは海賊たち。そんな海賊たちの中でも、一際異彩を放ち、そして何者も恐れなかった狂人たちのお話。

 海賊にして唯一生け捕りの手配書が出回る蝕眼のメーヴォ。蝕眼のメーヴォが唯一信頼を置く狂人船長ラースタチカ。

 二人は今宵も港で騒動の中心に居た。


おわり

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