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あなたとおまえの物語  作者: ちょめ介
表話という名の本編
3/62

第三話

 早朝、日が昇る前。灯がない室内から二つの声が聞こえてくる。

 

「コルンさん、朝ですよ。起きてください」

「ん~ あとちょっと…」


 少女が屋敷で働くことになり、一週間が経った。

 この間、特に目立った問題を起こすこともなく、しっかりと仕事をこなしていた。

 少女は問題を起こすどころか、とても優秀だった。

 コルン、ジーナ、マリーよりも早く起きて身支度を整えていたり、補佐に付いたコルンよりも手早く仕事を終わらせて他の仕事を手伝ったりなど、まさにコルン涙目な働きぶりだった。


「昨日が休みだったからって気が抜けすぎです。ジーナさんもマリーさんも行っちゃいましたよ」


 この屋敷の朝は早い。日が昇る前には起床し、それぞれの仕事をこなしていく。

 コルンは掃除、ジーナは朝市での買い出し、マリーは料理をすることが、主な分担だ。

 

「頼む… あと、5分だけ…」

「…メイド長さんに怒られても知りませんからね」


 自分まで遅れて怒られては堪らないと、少女はコルンを放ってメイド長の下へ行く。

 毎朝、その日の仕事や屋敷への来客の有無、その他の特別な事項の確認のため、朝礼を兼ねてメイド長の元へ集まることになっていた。

 遅れたらとても厳しい罰が待っている。それはメイド長の独断で決定されるのだ。


「おはよ、新入り。まあ、コルンは寝坊みたいだけど」

「お、おはようございます… き、今日も早いですね…」


 少女が集合場所へ歩いていると、先に出たジーナとマリーに追いついた。

 相変わらずマリーは怯えたように挨拶をしてくる。まだ少女に慣れていないのだろう。

 ジーナを盾にするように後ろに隠れ、覗き見ながら挨拶をしてきた。


「はい、おはようございます。ジーナさん、マリーさん。コルンさん、中々起きてくれなくって」

「コルン、休みの次はいつもああなのよ。まあ、休み気分が抜けないんでしょ。わたしが言えば渋々起きるんだけど、メイド長から新入りに任せろって言われたから」


 ジーナは至って淡泊に言う。

 どうやら、休日の寝坊は今に始まったことではないらしい。


「で、そろそろ慣れてきた? まあ、掃除を見てる限り、心配をする必要はないのかもしれないけど」


 少女が働き始めて一週間が経ち、この三人の役割もハッキリしてきた。


 マリーは屋敷内の料理を一手に引き受け、朝昼夕の食事全てを一人で作っていた。少女の宿屋兼食事処で出されていた濃い味付けではなく、薄くてもしっかりとした味付けで、体にも優しい様な料理だった。

 しかし、三人の中で一番のベテランであるはずなのに、数日前に来客があった時も一人だけ調理場に籠っていた。ジーナが初日に言ったように、人見知りのせいだろう。未だ少女に対しても常にビクビクしている。


 ジーナは屋敷で消費された消耗品や食材などを朝と夕の買い物で補充することになっている。その日一番安い店を短い時間で探し出すことができるせいか、買い物はジーナ一人に任せられているとのこと。

 その他に、メイド長が不在の場合に一時的に指揮をとることになっているらしい。加えて、とても人見知りなマリーの保護者役でもあった。そのせいか、自らの仕事が終わり次第調理場へ赴き、マリーの手伝いをしていることが多い。


 コルンはテキパキと屋敷内の掃除を済ませた後、必要に応じて洗濯をしたり休息を取ったりと、掃除洗濯関連を一手に引き受けていた。

 亜人故に力が強いためか、力仕事が必要だと村から嘆願が来た場合、率先して駆り出されることになっているらしい。いまだそのような場面を少女は見ていないが。


「いえ、ご心配ありがとうございます。実家は宿屋兼食事処でしたので、掃除も得意なんです。父が、働かないと食べさせてくれない人でしたから」




―――




「おはようございます、メイド長さん。今日もお願いします」


「ええ、おはようございます。あなたも、そろそろ業務に慣れてきた頃でしょう。しかし、気を抜かずに励みなさい。業務に慣れたからと手を抜くと台無しになってしまいますから。ジーナ、コルンはどうしたのです」


「はい、新入りが起こしたのに突っぱねて、二度寝してましたよ。当然でしょうね」


 ジーナはコルンを庇うこともせず、いたって普通なように言う。この部屋に来るまでにジーナが言ったように、毎週の恒例行事なのだろう。

 

「新人に仕事を教えているのに、自分が手本から外れる様な行動を示す。それに加え、朝礼にまで遅れるとは…()が必要です」


 メイド長の口から()と言葉が発せられた瞬間、部屋の中に緊張が走った。 

 いや、正しくはジーナとマリーがメイド長を緊張した眼差しで凝視し、少女はどこか蚊帳の外だったが。

 どこか落ち着かない様子でジーナが語りかける。


「メイド長、()はやりすぎだと…」

「ならばジーナ、あなたが代わりに―――」

「いえ、なんでもないです」


 メイド長が言い終わる前に、ジーナは即座に断る。余程その()が恐ろしいのだろう。


「あの、メイド長さん。まだ定刻になっていませんし、まだ鐘も鳴っていません。もう少し待ってはどうでしょう?」

「…まだ数分ほど猶予があります。待ちましょう。ただし、あなたは明日からジーナの下で業務を学びなさい。そうすればコルンも寝坊などしなくなるでしょう。いいですね、ジーナ」

「はい、メイド長。わたしに異論はありませんよ」


 あっという間に少女の配置換えが行われたらしい。どうやら、メイド長がそれぞれの配置の者にその旨を言えば完了するようだ。


「それじゃ、よろしく新入り。まあ、明日からだけれど」

「あ、はい。よろしくお願いします。確か、ジーナさんはお買い物の担当でしたよね?」

「ええ、そうよ。まあ、新入りならすぐに慣れるわよ」


 少女とジーナが握手を交わしたその時、無情にも壁にかかっている柱時計から鐘の音が響いてくる。


「コルン、遅刻ね。まあ、いくら言っても無駄だから、新入りも早く慣れることね」


 ジーナが微笑みつつ、少女に言う。


「定刻になりましたね。それでは、点呼を取りましょう。最初はジーナから―――」


 点呼が始まってしばらくすると、バタバタと誰かが廊下を走る音が聞こえる。

 その音は部屋に段々と近づき、扉が乱暴に開かれた。

 

「寝坊しました! ギリギリセーフ―――」


 髪は寝相でボサボサに乱れ、走ってきたためか息を切らせながら、扉から入ってきたコルンがそう言った。


「もう鐘は鳴りました。遅刻です、コルン」


 その言葉を理解したのか、固まっていたコルンは膝から崩れ落ちてしまった。

 メイド長は持っていた名簿を閉じ、崩れ落ちているコルンの前に立つ。


「さて、コルン」

「は、はい!」


 コルンの返事を確認し、メイド長は言葉を続ける。


「あの子があなたの下で働き始めてから、あなたの働きぶりを見ていました」


 メイド長の言葉に、コルンは身を震わせる。


「業務のほとんどをあの子に任せ、あなたは何をしていたのでしょうか。しかし、それについて言及するつもりはありません。それがあなたなりの教え方なのでしょう」 


 その声はコルンを咎めるものではなく、あくまでも事務的であった。


「あの子は、明日からジーナの下で業務を習います。あなたは今まで通りに働いて頂きますが、異論は?」

「い、いえ、異論は、ないです…」

「それでは、それぞれの業務に取り掛かりなさい。と、言いたいところですが、その前に()を言い渡します」

「ち、長さん、()って…」


 メイド長とコルンがそんな話をしている中、マリーが少女に話しかけた。


「あ、あの、メイド長あんなこと言ってますけど… ほ、ホントにコルンの分の仕事をやってたんですか…?」

「はい。とは言ってもお掃除とお洗濯だけですから、早くに始めればお昼前に終わりますよ?」


 少女はごく普通の様に言うが、マリーからしてみると普通ではない。

 掃除が得意なコルンでさえ、朝から仕事を始めて掃除と洗濯を終えるのはお昼過ぎだ。

 しかし、コルンが屋敷に来てすぐはもっと酷かったのをマリーは記憶している。掃除をすれば花瓶を落とし、床を削り、窓を割る。洗濯をすれば衣類を破り、盥を破壊し、着衣を泡だらけにした。

 一か月程度で慣れたようだが、自身とジーナの仕事を掛け持ちしてのフォローは大変だった。

 それを、この屋敷で働き始めて一週間程度の少女が、コルンと同等かそれ以上の働きぶりを見せている。


「それと、私の分のお仕事が終わったら、メイド長さんのお手伝いしていますけど…」


 マリーは確信した。

 今目の前にいる、自分の半分程度しか生きていないであろう少女は熟練者(プロ)だ、と。

 

「でも、実家はもっと厳しかったですよ? 日が出ない内から起きて冷たい水で洗濯をしたり、汗臭い洗濯物を大量に洗ったり。それと比べれば簡単ですよ」


 事実、少女の実家である宿屋兼食事処ではサービスの一環として、洗濯が無料であった。

 冒険者が大量に宿泊する日は、それはもう大変だった。外で【魔獣】と戦ってきた後の血生臭い、汗臭い衣類が大量に積み重ねられていたりした。

 また、男女混成の冒険者グループが一緒の部屋に泊まったりした後始末も少女が行っていた。それはそれはもう…臭かった。

 

 それと比べれば、この屋敷の環境は素晴らしい。

 洗濯物など実家の半分もなく、掃除をするにしても毎日の掃除の賜物か、汚れなどほんの僅かだ。

 テキパキと掃除と洗濯を行えば、昼前には完了する。


「あ、あの…」

「えええええぇ!?」


 マリーが再び少女に声をかけようとすると、コルンの絶叫が響き渡った。

 その声に驚き、少女はコルンの方を向く。


「そ、そんな…お願いします! それだけは、それだけはああぁ!」

「今さら何を言っているんです。契約書の第1条1項7号にハッキリと明記されています。これを言うのも何度目なのでしょうね」


 メイド長がそう言い、少女は自分が契約書に目を通した時の事を思い出す。

 細かい文字がズラズラと羅列され、随分と面倒な物だったと記憶している。確かそこには『明確な理由もなく業務に支障を起こした場合、メイド長の指示に従い()を受ける』と記載してあった。

 

「規則に従い、私はあなたへ()を言い渡しました。これに違反した場合は、第1条1項8号にあるとおりの措置を取ります。これも、あなたが遅刻をするたびに言っていますね」


 その言葉通り、第1条1項8号は『()を無視した場合には一月の間、無給無休とする』と記載してあった。

 一か月の間無休で働くなど、確かにその()とやらがどれだけ厳しいものであっても、無視することはできないだろう。


「それでは各自、業務に移りなさい。コルンは()を忘れないように」


 それだけ言うと、メイド長は部屋から出て行った。


「…あの、コルンさん?」

「ううぅ…あの()だけは…あれだけは…」


 床に寝転がり、ブツブツと何かを呟いているコルンに話しかけるが、返事はない。

 これまで仕事中に見せていた、威厳が溢れて自信を持った雰囲気が一転、メソメソグチグチと弱音を吐いてみっともない姿をさらけだしている。


「あの、ジーナさん…」

「何よ。早く持ち場に行かないと、わたしたちもメイド長に怒られるわよ? まあ、コルンも慣れてるからすぐに立ち直るわよ」


 コルンを気にもしていないのか、ジーナはマリーに袖を掴まれながらそう言った。

 それに少女は反論する。


「いえ、いつも明るいコルンさんがこんなに落ち込むなんて、メイド長さんはどんな()をコルンさんに?」

「ああ…新入り、聞いてなかったの?」


 メイド長がコルンに()とやらを言い渡す時、少女はマリーと話し込んでいたため、聞き取れなかった。

 それをジーナに言うと、少し驚いたように言う。


「へえ、マリーがね。まあ、この子も慣れてきたってことかしらね」


 そう言いつつも、ジーナは袖を掴んでいるマリーの頭を撫でる。ジーナよりも幾分か背の低いマリーはされるがままだ。


「まあ、いいわ。で、コルンの()だっけ?」


 ジーナの言葉に少女は頷く。ゴクリと、ツバを呑む音が聞こえた。


「お昼抜きよ」

「…へ?」

「だから、お昼抜きよ」

「…お昼抜き、ですか?」

「そう、お昼抜き」


 少女はジーナの言葉を冗談か何かと思ったが、表情を見る限り嘘を言っているようにも思えない。


「えっと…コルンさん、お昼抜きくらい(・・・)でどうしてそこまで…?」

くらい(・・・)だって!?」


 ガバッと、今まで床の一部になっていたコルンが飛び起き、少女の両肩を掴む。


「マリーの作るご飯はすっごく美味しいんだ! それを一食でも食べられないなんて! そうだ、新入り! なんであたしを起こしてくれなかったんだ!」

「こ、こ、コルンさ、さんん。落ち、ち着いてくだ、だださいい」


 ガクガクと肩を揺すられつつも少女は口を開こうとするが、亜人であるコルンの力は思ったよりも強く、それもまともにできない。

 視界が揺らぎ、世界が上下にガクガクと移動する。そして、目の前が真っ黒になる直前。


「そこまでよ、コルン。まあ、わたしも、新入りが先輩に虐められてるのを見過ごせるわけないわけよ」


 ジーナの声にコルンは動きを止め、その顔を睨みつける。

 

「なんだよジーナ。邪魔すんなよ」

「あのね、新入りは何回もあんたを起こしたの。あんたは5分だけだって起きなかったらしいけど」

「…なんでジーナが起こしてくれなかったんだよ」

「逆に聞くけど、なんでわたしがあんたを起こさなきゃいけないのよ。今まではメイド長に言われてたから嫌々起こしてたけど」

「…わるい、新人」


 コルンはそう言って肩を掴んでいた手をはなし、少女に謝る。

 目をグルグルと回している少女は力なく地面に倒れこんだ。


「さ、マリー行くわよ。まあ、あんたは新入りにちゃんと謝ることね」

「う、うん…」


 ジーナはマリーに声をかけ、さっさと仕事に行ってしまった。

 部屋には目を回した少女と、あたふたと焦ったコルンがいる。


「うう…すみません、コルンさん」


 まだクラクラする頭を抱えながら、少女がコルンに(・・・・・・・)謝罪の言葉を述べる。

 

「軽率な言葉を言ってしまって、私が全面的に悪いんです。コルンさんは悪くないです」

「え、いや、新人は悪くないって。あたしが全部―――」

「全部私が悪いんです。すみませんすみませんすみません。謝ります、謝りますから許してください」


 ひたすらに謝り続ける少女に、コルンは困惑する。

 明らかに自分に非がある事態なのに、少女は必死に謝り続ける。

 少女の目は虚空を見ているような虚ろな物であり、心ここに非ずといった風だ。

 ひたすらに謝り続ける少女にコルンが呆然としていると、扉が開く音がした。


「コルンが新入りを虐めていると言うから来てみれば、どうやら本当のようですね」


 扉を開いて入ってきたのはメイド長だった。

 どうやらジーナに事情を聴き、この部屋に戻ってきたらしい。


「なるほど…コルンは業務に向かいなさい。この子への対処は私がしておきます」

「え…でも…」

「私は、業務に向かえと。そう言いましたが?」

「…はい、長さん」


 語気を強めたメイド長の言葉に、コルンは渋々と扉を開き、部屋を出ていく。

 部屋に残るは、錯乱したような少女とメイド長。

 少女はごめんなさいと謝り続け、メイド長はそれを静観していた。




―――




「ん…」


 少女が目を開けると、そこは薄ら闇だった。

 窓から入る光はなく、枕もとの灯りだけが僅かに周囲を照らしている。


「ここ、は…」


「起きましたか」


 薄ら闇から声がかけられる。

 この抑揚のない事務的な声はメイド長だろう。


「メイド長さん、ですか? ここは…」

「私の私室です。他人が入るのは、あなたで初めてですね」 


 その声に少女は驚愕する。この部屋がメイド長の私室というのなら、自分が今横になっているのは…


「す、すみません。勝手に眠ってしまって」

「私が運んだのです。あなたが謝る必要はありません」


 そう言ったメイド長は手元にあったであろうランプに火を灯す。ボンヤリと見えるメイド長の顔はいつも通りの表情だ。

 特に心配するわけでもなく、だからといって無視をしているわけでもない、どこまでも中間的だ。


「主人様はあなたにご期待をされています。それに背くことがあってはなりません。これ以後は気をつけなさい」


 そう言い、メイド長は座っていたイスから立ち上がった。


「契約書の第1条1項4号にある通り、本日の休み分は月給から差し引いておきます。明日からはジーナの下で業務を習うように」


 第1条1項4号には『やむを得ずに業務を休んだ場合、日当分に該当する給与を月給から差し引く』とあった。

 ただでさえ低い月給をこれ以上減らされてはたまらない。


「はい…ご迷惑をおかけしました」


 少女は頭を下げ、メイド長の部屋を出ようとする。

 すると…


「待ちなさい。一つ聞きたいことがあります」


 メイド長が少女の傍まで歩いて行く。平均よりも少し背の低い少女にとって、背の高いメイド長を見上げる形になる。


「ご両親が不仲とか、あなたが虐められたりされたことが、今までにありましたか?」

「…? いえ、仲の良い母親と父親でしたよ。確かにお手伝いは大変でしたけど、私に優しくしてくれました」

「…なるほど。今後は体調に気を付け、主人様に迷惑のかかることのないようにしなさい」

「…はい、今後は気を付けます」


 それを最後にメイド長の部屋の灯りが消され、少女は自分の部屋に戻る。

 部屋に戻る道すがら、少女は独り呟いた。


「気を付けないとなぁ…」


 自分が悪くないことは分かっていた。

 あれはコルンの癇癪の様なもので、悪気があったわけでもない。

 少女も気にはしておらず、昔の自分もああいった事があったと、逆に微笑ましかった。

 しかし、他人に謝られるとどうしても狂ってしまう。意識もあるし、自分が何をしているのかも分かっていた。

 ひたすらに謝って、気を失う。ここに来る前からあった悪癖だが、こちらに来て謝られる機会がなかったので、もう無くなったものだと思っていた。


「はぁ…ダメだなぁ、私」




―――




「新人! 大丈夫だったか!?」


 少女が部屋に戻ると、いの一番にコルンが飛びついて来た。

 その目には本気で少女を心配している色が浮かんでいる。ミカンの様な香りが漂ってくるコルンに、少女はほのかに安らぎを覚えた。


「ええ、私はなんともありませんよ。ですから、あの…」


 口よりも行動が先に出るらしいコルンは、少女が部屋に入ってきた途端に飛びついて(・・・・・)いた

 つまり、コルンは少女に抱きついていた。

 強すぎず、弱すぎず、丁度良い力加減でキュッと抱きしめられる。どこかむず痒く、物足りない様な。


「あ、うん、ごめ…じゃなかった。痛かったか?」


 困ったかのような少女の態度に、コルンは抱きつく力を緩める。


「い、いえ。痛くはありませんでしたよ。むしろ気持ちよ―――」

「はいはい。まあ、いちゃいちゃするのはそれくらいにして」


 ジーナが言葉を遮り、少女に聞く。


「新入り、メイド長になんかされた? まあ、新入りの事だから心配はいらないと思うけど」

「いえ、気を失った私を介抱してくれていたみたいです」

「そう? あのメイド長がね…」


「コルンさん、ジーナさん、マリーさん、今日はいらぬ心配をおかけしました。明日からよりいっそう力を入れますので、よろしくお願いします」


 そう言った少女は、コルン、ジーナ、マリーに深く頭をさげる。その様子に三人は各々の反応を返す。


「今日はあたしが悪か…ううん、明日からは新人に迷惑をかけないように仕事をする。だから、あたしからもよろしく!」


 快晴の様に明るい笑みを浮かべたコルンが。


「明日からはわたしの所で仕事をするのよね? まあ、新入りならすぐに慣れるわよ。改めてよろしく」


 雲りの様に掴みどころのないジーナが。


「あ、あの… ぼくも、よろしくお願い… します…」


 雨の様に怯えたようなマリーが。

 

「―――はいっ! よろしくお願いします!」


 皆、一様に同様のことを口走る。それはそれは見事なものであった。

※以下、登場人物について。


・少女 [] 16歳 161cm

 種族:人間

 髪色:茶色

 瞳色:茶色

 人物像:在住する地域では一般的な茶髪に平凡な顔立ちの、いたって普通の少女。

     主人の屋敷で働き出して一週間ほどが経った。どうやら実家は宿屋兼食事処だったようで、業務に関して不自由はない模様。むしろ先輩三人よりも上手いとか。

     誰かに謝られると一時的に発狂する。昔のトラウマが原因とかなんとか。

     父親と母親は仲が良かったらしい。今でも夢に見るとか。


     仕事一筋に生きてきた働きウーマン。天気的には台風属性。


・コルン [Korn] 15歳 160cm

 種族:亜人

 髪色:茶色

 瞳色:茶色

 人物像:明朗活発、カッコカワイイ顔立ちの、褐色の肌をしている亜人の少女。

     眠るのが好きで、休みの次の日は遅刻ギリギリまで寝ている。今まではジーナが起こしていたが、メイド長の指示で廃止された。

     食べるのが大好き。一食抜くと目を回して倒れるらしい。

     朝礼に遅れたことをメイド長に叱られ<罰>を受けることになった。

     少女を責めたことに負い目を感じ、それを反省した。

     仕事分担は屋敷内の清掃・洗濯。


     生粋のハラペ娘。天気的には晴れ属性。


・ジーナ[Jena] 17歳 162cm

 種族:人間

 髪色:黒色

 瞳色:黒色

 人物像:珍しい黒髪を後ろで縛り、スラリと伸びた体躯と併せ、一見するとイイトコのお嬢様の様にも見えてしまう雰囲気を持つ。

     真面目にきびきび働く新入りの少女に良い印象を持った。だけどどうにも、コルンの事は嫌いな模様。

     仕事分担は朝と夕方二回の買い物。

     

     至って普通の反応を示す少女。天気的には曇り属性。


・マリー [Mary] 28歳 152cm

 種族:エルフ

 髪色:金色

 瞳色:紫色

 人物像:腰ほどまでに伸ばした金色の髪を持った美幼女。

     新入りの少女のテキパキとした仕事ぶりに驚愕し、その腕を熟練者(プロ)と評した。

     あまり一人でいることはない。ジーナの後ろをついて歩いている。

     仕事分担は屋敷で提供される料理の調理。


     弱気なちびっ娘。天気的には雨属性。


・メイド長 []  歳 172cm

 種族:

 髪色:金色

 瞳色:碧色

 人物像:詳細なプロフィールは不明。

     朝礼へ遅刻したコルンに<罰>を言い渡す。コルンが働き始めてから総計24回目らしい。

     メイドの少女たちの仕事分担は彼女が決めている。それぞれの資質を見て決めているとか。

     特質的な反応を見せた少女に興味を抱いた模様。幸か不幸か。

     仕事分担は特になし。手が付けられていない仕事を行う。


     人形のような完璧メイド。天気的には台風属性。


※以下、登場用語について。


・<罰>

 メイド長が定め、契約書にも記されている罰則。基本的に契約書に違反した時に用いられる。

 その内容はメイド長の独断と偏見で決定され、当人が一番嫌がる事をされることが殆ど。

 傾向としては、コルン:食事一食抜き ジーナ:給料2%カット コルン:半日軟禁ということが多い。

 少女に関しては検討中。

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