表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あなたとおまえの物語  作者: ちょめ介
表話という名の本編
17/62

第十七話

 少女は人混みの流れに任せ、指定された品を売っている店を探し、市場を探し回っていた少女。

 お肉は問題なく買う事が出来たものの、小麦粉の方は難航していた。


 ―――うーん…ちょっとダメ、かなぁ…


 製粉技術が未熟なのか、粉の引きが荒く粒子が大きかったり、ふすまが混ざり黒ずんでいる物も多かった。

 キメが細かく真っ白な小麦粉も有ったものの、通常の三倍の値段は下らない上に量も少ない。

 普段よりも多く資金を持っているとはいえ、使わないに越したことはない。


「どうしようかな…」


 市場が閉じるまで、もうあまり時間がない。

 もう初めに見つけた、ふすまの多かった小麦粉でもいいかと思い始めた時だった。


「やあメイドサン、久しぶりダネ」


 どこか聞き覚えのある声がした。

 そしてこの人混みの中、メイドと呼ばれるのは恐らく自分であろう。


「あ、ミイ…マスターさん。お早うございます」


 ペコリと、律儀に頭を下げた少女。

 声を掛けたのは、以前のお使いで向かったクッキー専門店の店主だった。


 顔を始めとして、肌が露出しているであろう腕までも包帯でグルグル巻きにしている。

 ハスキーな声で男性なのか女性なのか全く分からない謎の多い人物だ


「あア、こんな朝早くに外出するのは久しぶりでネ。あの子は店番…だと言いたいケド、ぐっすり眠ってるんダ」


 ―――え、ソフィー、いないんだ…


 久しぶりに会えると期待した友人がいないと聞き、目に見えて落ち込んだ。


「まあまア、そんなに落ち込まなイデ。メイドさんにも休日があるんダロウ? その時に来ればいいじゃないカ」

「いえ、行きたいのは山々なのですけど…」


 気軽に言うマスターだったが、あの店はこの街から馬車で数時間の距離だ。

 時間もお金もかかる為、そう気軽に行くことはできない。


「あア、無理にとは言わないヨ。お金も時間もかかるからネ。あの子にはワタシから言っておくヨ」


 一応のフォローを入れるマスター。


「ところで、マスターさんはどうしてここに?」

「アー…仕入れの数を間違ってネ。少しでも取り返さなキャ、このままじゃ大赤字で大目玉ナンダ」


 この市場では、路地裏を少し進むと出所不明の怪しい物も売っているらしい。

 用もないので行った事はないが、聞いた話では呪われた魔具もあるとか。


「買わないカイ? 安くしとくからサ」


 そういってマスターが指差したのは、透明な瓶に詰められた真っ白な粉。

 300gはあるだろうか。それが20本ほど並んでいた。


「これは?」

「クッキーを焼く時に使うヒートの粉ダヨ。メイド商会が特注で作ってるんだけどネ」


 と、言う事は薄力粉だろうと見当を付けた少女。

 こちらの小麦粉は使い分けの概念が無いらしく、どちらかというと強力粉に近い。


 ―――これならいいかも。けど、メイド商会って本当に…


 思考を投げ捨て、目の前の問題に集中する。

 とにかく、これなら大丈夫だろう。


「お幾らですか?」

「一瓶25Sでいいヨ。売れなきゃ困るシ」


 指定されていたのはヒート粉1kg。

 その種類について指定はなかった。

 屋敷で何を作るのかは不明だが、外れではないだろう。


「それじゃあ四つ、お願いします」

「はいはい毎度アリ。助かったよメイドサン、全然売れなくって困ってたンダ」


 相変わらず包帯で顔は見えないが、どうやら喜んでいるようだ。


「ところでマスターさん、その包帯は…」

「あア、この前のはもう治ったんだケドネ、今度は爆発に巻き込まれちゃッテ、大火傷サ。この包帯もメイド商会の商品でネ、傷の治りが早くなるノヨ」


 以前と同じようにケラケラと笑っていた。

 と言うより、爆発に巻き込まれるような日常を送っているのか。


「サテ、ワタシはこれで戻るヨ。もう売れそうにないシ、市場も閉じるシネ」


 テキパキと屋台を片づけ、どこから出したのか荷車に乗せた。

 風呂敷のような物を被せるとその荷車はどこかへ消えてしまった。


「それじゃあネ、メイドサン。暇が出来たら遊びに来てヨ、交通費は出すからサ」


 まるで蜃気楼のようにゆらゆらと、溶けるように消えてしまったマスター。

 瞬間移動を傍から見ると、あんな風に見えるのかと思った少女。


 何はともあれ、目的は達したのだ。

 少女は待ち合わせ場所へと歩みを進めた。

※以下、登場人物について。


・少女 [] 16歳 161cm

 種族:人間

 髪色:茶色

 瞳色:茶色

 人物像:在住する地域では一般的な茶髪に平凡な顔立ちの、いたって普通の少女。

     ジーナの送別会の為の買い出しに市場へやってきた。

     案外、目が肥えているようでヒート粉(小麦粉)を買う為に何店か回っているが、質が悪かったり高かったりで購入はしていない。

     諦めかけたところで、ミイラ…もとい包帯を全身に巻いたマスターに出会う。質が良く、それでいてお安い小麦粉を買わないかと言われ、迷わず購入した。


     目利きは出来る方。ヘマをすると叩かれる中で、必死に身に付けた。


・ミイラ [Mummy]/マスター [Master]

 種族:人間

 髪色:茶色

 瞳色:茶色

 人物像:全身に包帯を巻いた人間。

     以前は『酷い怪我』で包帯を巻いていたが、今回は『実験で爆発に巻き込まれて』包帯を巻いていた。その包帯は治癒を促進するメイド商会の商品のようだ。

     メイド商会製の小麦粉を売っていた。質が良く値段もお安い小麦粉を販売していた。たまに市場に店を出しており、珍しい物を売っていると一部で評判になっていたらしい。

     小麦粉を少女に売り付けると『今日はもう売れそうにない』と言い、商品を片付け姿を消した。瞬間移動は必須技能の一つらしい。

     

     趣味は実験(人体実験も含む)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ