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着陸の必要がなく、迅速な移動が可能で、多数の機体と人員を収容可能。
となれば、飛ぶ空母というよりは、飛ぶ要塞と言った方が近いのかもしれない。機密事項の多い、最先端の技術を凝縮した『波の乙女計画』は、このクジラを中心にして進んでいる。
Series Aegir‐Project9 HIMINGLAEVA
『波の乙女計画』で使われている拠点にして、同計画内で最初に作られた機体だ。
『九番ゲート、開きます』
アビゲイルからの通信には応えず、ブラッドはヒミングレーヴァの動きを注視する。
コールガを始め、『波の乙女計画』で作られた機体は、作戦行動中でなければヒミングレーヴァ内部──クジラとして考えると口腔に位置する格納庫に収まることになる。そのため、出入り口のゲートはヒミングレーヴァの口。コックピットの前面モニタには、大口を開けた鋼鉄製のクジラが映し出されることになる。
自身の体がぶるりと震えるのを、ブラッドは感じていた。
喰われる──という動物的な恐怖心も、その中には当然あるのだろう。計器類で埋め尽くされ、鉄の色を残している口内を見て動物らしさは感じないが、呑みこまれることに変わりはない。
だがしかし、なによりも──コールガのような有人機を、八機も格納してなお余りあるスペースを残したヒミングレーヴァが当たり前のように空を飛んでいることに、ひたすら驚嘆して興奮する。たとえ、現在のブラッドにとって家に等しい場所であったとしても。
「……ほんとに、ハンパないデカさだよなぁ……」
『集中してください』
独り言に思わぬ返答があって、ブラッドは思考を切り替えてコールガの観測データを見直した。モニタ下部に表示された風向きと風速を考え、静止状態を維持するヒミングレーヴァに潜りこむ。




