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『そう思うんでしたら、戦闘許可が下りた瞬間にコード・マジックの発動準備をしていれば無駄な戦闘は──』
「アビゲイル……」
『なんです?』
「お前ってたまにすごく頭いいよな」
ブラッドとしては本心を語ったつもりだったのだが、返答は素っ気ない。
『貴方は一応、優秀なパイロットとしてコールガを与えられているんです。自信を持ってください』
「パイロットとして状況分析力と判断力が欠けていてどうもすみませんでした!!」
かつて様々な機体を乗りこなしてきたブラッドとしては、「自信を持て」という言葉自体がプライドを打ち崩す一言だった。うなだれてみると、うっすら涙が出てきそうですらある。
しかして、そんなことをしている場合ではない。視線をあげてみれば、前面モニタにはブラッドの帰還先である母艦が映し出されていた。
次いで、通信越しのアビゲイルの声。
『着艇準備を』
「──了解」
ブラッドの声が硬い。それは緊張のためではなく、興奮を隠すためのものだった。
前面モニタには、青い空を背景に浮かぶ、白いクジラが映っていた。
雲に擬態できるよう、表面には艶消しの塗料が使われてはいるが、近づけばクジラが機械製であることは容易に確認できる。金属板を張り合わせた痕跡──わずかな境界線やボルトが作り出す陰影が、機体のあちこちにできている。
比較対象がないために巨大さを測ることは難しいが、これからコールガが着艇する母艦がそのクジラであることを考えれば、それだけで十分とも言えた。
白いクジラは、「飛行可能な航空母艦」である。
この機体は、飛び続けること──つまりは着陸しないことを前提として開発されている。もちろん従来の燃料や技術では実現できるはずもなく、コールガ同様に『波の乙女計画』の一環として作られたものだ。




