05
一対三〇〇の戦いとは思えないほど、余裕も容赦もない猛攻。
それは、シリーズ・エーギル、ひいては『波の乙女計画』に対して敵軍が抱いている恐怖心を如実に表しているとも言えた。
死と隣接した、息も詰まる状況。判断力はそのまま、時間だけが引き延ばされる。迫りくる漆黒の機体と赤い熱線を前にして、瞬間の迷いが生じ──
『右へ』
飛びこんできた声に従い、ブラッドは咄嗟に操縦桿を右に倒した。
直後、後方から放たれた追尾ミサイルが前方の熱線に触れて爆発。カメラを通してもすさまじい閃光に思わず目を細めるが、視界を閉ざすことはしない。そのような愚行は犯さない。
代わりに、
「サンクス、アビゲイル!」
短く返答してから、コールガの姿勢を立て直した。
本体とヒレが磁力で繋がっているという性質上、部位によって移動速度は微妙に変わってくる。動きの遅延はある程度AIが制御してくれるものの、三〇〇機以上の戦闘機による弾幕が張られていれば制御しきれない部分が被弾の原因となる。
前述の通り、コールガは本体が被弾しなければ飛行能力を失うことがない。代わりに、ヒレの一部が破損しただけでも形勢逆転の一手を失う。
そして、現状。その一手がなければ、ブラッドはこの状況を抜け出すことができない。
三〇〇の軍勢に囲まれた中から抜け出すことができなければ、そこに待っているのは──
──今度こそ、死ぬかもしれない。
ブラッドが内心で呟いた瞬間、半透明のウィンドウの中でパーセンテージが一〇〇を叩きだした。
続けて、電子音声のアナウンスが。
コード・マジックの発動シークエンスが完了しました_
エネルギーのチャージを行ってください_
「────っ!!」
電子音声に応え、ブラッドはリスクも構わず右手のみの操縦で弾幕をかいくぐり、シートわきのレバーへと左手を伸ばす。




