04
失いかけていた闘争心が煽られる。
数分前の自分と、二年前の自分に。ぐるぐると尻尾を追いあうペッシャールに。
『……陽動を、続ける。ペッシャールの脅威が残ったまま、撤退するわけにはいかない』
『準備はできていル。好きなときにブちかまセ』
ノーネームとチャンの返答が、ブラッドの背を押す。
数秒の沈黙ののち、アビゲイルは小さくため息をはいた。
『可能な限りのサポートをします。──幸運を』
──賛同は得られた。
もう、逃げることは許されない。逃げるという発想に至れるほど、煽られた闘争心の炎はおとなしくはない。
極度の緊張にさらされたせいか、ブラッドの口元には自然と笑みが浮かんでいた。抑えることもできずに、口はひきつった弧をえがく。
落ち着け、と自らを律することもなく、ブラッドはコマンドを叩きこむ。
「コールガ、同調しろ」
コマンドを確認_
全権限を放棄_
補助モードに移行_
これより、リンク・モードに移行します_
電子音声の直後、強烈な閃光がブラッドの視界を襲った。
しかしそれも一瞬。大量の情報が脳に直接叩き込まれたため、急増した視覚情報を処理しきれずに視界がホワイトアウトしただけで、すぐさまコールガのフォローが入る。
視界は明瞭。コールガに搭載されたカメラから見る景色は、モニタ越しに敵を狙うことに慣れてしまったブラッドにとっては新鮮なものだった。
風の流れがわかる。湿度がわかる。分離したコールガのパーツの位置がわかる。次に行う行動の結果も、その影響も、その先に相手がどのような行動をとってくるのかも。
操縦桿を握る必要などない。頭で命じれば、コールガの本体も、ヒレをかたどるパーツのひとつひとつも自在に動く。




